変化のパターンには、「一定のペースでの連続的変化」と「突然のジャンプ」の2種類があります。「進化と変異」とも言えますね。
人の一生も、少しずつ背が伸びたり、次第に白髪が増えていくというような連続的変化と、初潮、出産、病気、のような突然のジャンプの組み合わせで進みます。
日本の歴史をみても、経済成長や西洋化は連続的変化ですが、それ以外に戦争や開国など「突然のジャンプ」があり、非連続な変化が起こっています。
そして、企業も段階ごとにいくつかの「変節点」を乗り越えて、非連続な変化を起こしながら成長、発展していきます。
(1)自分“以外”の壁
「一人でビジネスをやる」のと、「自分以外の人を雇う」のは、全く違います。一人なら好きな仕事を、好きな量、好きなやり方でやればよいです。朝起きて「今日は休み!」と決めてもいいし、いつビジネスをたたんでも自分だけの問題です。しかし誰かを雇えば、その人への責任がでてきます。これは非連続な変化です。
(2)社員数100人の壁
「一人で管理できなくなる」規模です。数十人の会社なら、社長がすべての社員の採用面接をし、昇格の判断、ボーナス評価を自ら行うことも可能かもしれません。しかし100人を越えるとすべての人事を社長が自ら決めるのは困難になります。
すると「誰かに任せる必要」がでてくるのですが、創業社長にとっては「自分の他に重要な判断をする人がでてくる」のは、パラダイムシフトです。しかし、そういうことを任せられる仲間が見つけられないとこの壁は越えられません。
(3)1000人の壁
ここまでは「経営陣が適宜話し合って決めていく」というスタイルが可能ですが、ここからは「ルール」が必要となります。
たとえば役員報酬や管理職の給料。いままでは個々人の能力や実績を勘案して「適宜判断」をしていても、このあたりからは“人事テーブル”など「組織のルール」が必要になります。でないと個別判断には手間がかかりすぎるし、「なぜあの人だけ?」という不公平感もでてきます。
ルールができると、リーダーといえどもある程度はルールに従う必要がでてきて、たとえば自分が高く評価している部長だけを優遇する、なども難しくなります。社長なのに、俺の会社なのに、なぜルールに縛られるんだ?と思うこともでてくるでしょう。
(4)1万人の壁
いわゆる大企業への脱皮点です。この規模を超えると「組織を維持するためのエネルギー」が、「ビジネスをのためのエネルギー」と同等レベルで必要になります。巨象が自分の体重を維持するために食べ続けなくてはならないように。
管理部門という「儲けるため」ではなく「組織を維持するための部門」に、多くの人、多額の予算が必要になります。会計上の利益額も、経理(税金、減価償却、投資等の形態やタイミングの管理)、法務(契約形態。雇用形態の選択)によって大きく左右されはじめます。
(5)最後が10万人の壁
ここから先は「日本だけでは無理」です。日本は経済規模が大きいので、国内だけで通用する企業でも(4)までは可能ですが、世界市場で成功せずして10万人企業になるのは難しいと思います。例外は国鉄、電電公社などの流れを引く元公的組織のみでしょう。
★★★
これらの5つ変節点により“企業の発展段階”は下記の6段階に分れます。
(1)一人企業・・・個人事業
(2)数十名企業・・・単独リーダーの組織
(3)100名超企業・・・複数リーダーの組織
(4)1000人超企業・・・ルールにより動く組織
(5)1万人超企業・・・大企業
(6)10万人超企業・・・グローバル企業
そしてこの6段階でそれぞれ「成功するリーダー」の種類が違います。
(1)一人企業・・・・行動力とエネルギーのある人
(2)数十名企業・・・他人にコミットできる人
(3)100名超企業・・・信頼できる仲間を得られる人
(4)1000人超企業・・・組織の機関として力を発揮できる人
(5)1万人超企業・・・管理が巧く政治力に長けた人
(6)10万超企業・・・異なる価値感や多様性を取り込める人
「各段階で成功するリーダーの資質が異なる」ということは、一人で(1)から(6)まで企業を成長させるのは簡単ではない、ということです。
なので、パターンとして、(1)&(2)を創業者、(3)&(4)を二代目が担当という世代分担形もでてきます。もちろん卓越したリーダーが(1)〜(4)までひとりで実現、というケースもあります。
反対に、(1)から(2)に移行できない企業、(3)までは創業者が頑張ったが(4)になる段階で先代と二代目が反目したり、また、(4)から(5)に移行する段階で創業者社長が解任されるなど、「変節点が越えられない会社」も多数あります。
継続的な変化の部分は同じリーダーが率いていくことができるのですが、変節点を超えて成長するには、
・リーダー自身が非連続に変化する、か
・異なるリーダーを擁する
のいずれかが必要となります。
リーダー自身が非連続に変化するには「自らの成功体験を、自分で乗り越える」ことが必要で、葛藤や困難を伴うことが多いです。これがうまくいかないと、「自分のスタイルで次の段階に進みたい今のリーダー」と、「次世代のリーダーを求め始めた組織」の間で“内紛”や“お家騒動”が起こることもしばしばあります。
「自分の能力の限界を見極め、きれいな引き際を」というのは、誰にとってもとても難しいことです。しかもこれらの人は皆「大成功者」ですからね。簡単に自分の限界を認めたりしたくないし、むしろ常に自信過剰気味の人が多いので余計大変です。
人も組織も国も、大事なのは「変節点をどう乗り越えるか」です。継続的な成長は気持ちのよいものです。誰でも前向きに頑張ることができます。でも、過去を否定して非連続な変化を求められた時に、自分を変えることができるか、もしくは、引き際を見極めることができるか。これが、その組織が「次の段階」に入ることができるかどうか、を決するのです。
大事なのは「変節点マネジメント」だということですね。
ではまた明日!