ずるい私たち

先日、川崎市のJR高架下トンネル内で若い女性が刺殺される事件がありました。高架下トンネルの道路は170メートルもあったようです。

同様の場所を誰でも一箇所くらいは思いつくのではないでしょうか。高架下の壁は落書きだらけでおしっこ臭くて薄暗くて・・。日本はくまなく鉄道が走っているので、全国各地にこういうところがありそうです。今回の事件をきっかけに、他の高架下道路でも電灯や監視カメラの設置など対策がとられることを期待します。


今までもああいうトンネルを通る時に、恐怖を感じた経験のある人は少なくないはず。でもそういう人の大半が女性か子供、そして老人です。成年男性だと170メートルくらいのトンネルは、なにも怖くないんですよね。

一方、対策を検討する役所の道路課とか土木課の大半が“成年男性”なので、実際の犯罪が起こるまで、なかなかその怖さが切実にはわからないのでしょう。別に、男性が女性をいたわっていないとか身勝手だという話ではなく、誰にとっても自分が感じないことを想像するのは難しいという話です。


ちきりんは女性ですが、自分が当事者でないために気がつけないこともたくさんあると思っています。たとえば男性にとって結婚はまだしも、子供を持つのはそれなりに“覚悟のいること”なんだろうと思うのです。

結婚して子供ができた時、たとえ共働きであっても「夫と子供を一生守っていかなくては!」と思う女性はあまりいないでしょう。一方で男性の多くが、初めての子供を抱く妻を見れば「自分が一生、養って、守っていくべき家族」だという思いを新たにするはずです。

そう思えば、少々のつらさやつまらなさを理由に仕事を辞めたりはできないし、少しくらい体調を崩しても“頑張らねば”と思うかもしれません。転職だって自分の好き嫌いだけでは選びにくくなりますよね。

ごくごく普通に暮らしている世の中のお父さんも、ちきりんの何倍ものプレッシャーを感じていらっしゃるのではないかと思うのですが、最初に書いたように、私にはその実感を共有するのはなかなかに難しいことです。


ごく日常的なことでも同じことを感じます。例えば誰か男性と食事に行く時、男性側がお店を予約する場合が圧倒的に多いです。男性側にも女性側にも、男性がアレンジするもんだ、という空気を感じます。

男性は事前に「何か食べたいものがありますか?」と聞いてくれ、店を決めてから「ここでいいですか?」とメールをくれて、行ってから「気に入りましたか?」と尋ねてくれます。「男の人って大変だなあ」と思います。その上でお店に文句をつけられたり、当然のように驕らされたりしたら、頭にくるのは当然でしょう。


家庭の中でもまだ「大きな決断はお父さんが」という雰囲気があります。日常的なことなら妻が一人で決めるけど、大きな買い物や判断は「あなた決めて」と言う。

これって一見「頼っている」「大事なことは男性が主導権を持っている」ようにも見えるけど、反対に言えば「大きな責任はすべて男性が背負う」ということでもあります。

たとえば不動産を買う時の会話では、「私はこっちのマンションがいいと思うけど、あなたはどう思う?」「そうだね、こっちでいいんじゃないかな」「まじめに考えてよ。大事なことなんだから。あなたはどう思うの?」「このマンションでいいと思うよ。」「そう?(にっこり)じゃあ、そうしましょう」と。

意図的とは言いませんが、「実質的には女性が決めているのに、なにかあった時には男性に責任転嫁できるようになっている」とはいえないでしょうか。女性は、大きな判断に伴う深刻な責任からはいつでも逃げられるよう、無意識にコトを運ぶことが多いようにも思います。


欧米では、「男性がドアをあけてくれる」「レストランで良い席に女性を座らせる」などレディファーストが根付いているといわれます。確かに欧米に数年いて日本に帰ってくると、日本の男性の気の付き方の鈍さに唖然とします。

けれど、欧米の男性はドアはあけてくれますが、大事なことでは、女性を簡単に甘えさせたりはしないです。

若い頃、欧米人のボーイフレンドとつまらないことで喧嘩して泣いた時、相手が「悪いけど、僕は泣いてる女性とは話さないことにしてるんだ」と言ってさっさと帰ってしまったのには驚きました。こういう態度を「泣いてる若い女性」にとれる人というのは、日本では(自分の経験だけでなく友人の話としても)聞いたことがありません。

しかもその衝撃で、ちきりんはすぐに泣きやみました。そして気がついたのです。「悲しくて涙がでてたわけじゃないんだな」と。

もちろん意識して嘘泣きをしていたわけではありませんが、「泣けばなんとかなる」ということを経験的に潜在的に学んでしまっている若い女性はたくさんいると思います。


別の話ですが、友人の米国人男性は日本人女性と結婚した後、小さな子供もいるのに、「彼女は自分の生活費も稼ぐ気がないんだ」と愚痴を言っていました。女性の方は、まさか夫がそんなことを不満に思っているとは、想像もしていなかったと思います。(結局この2人は別れれちゃいました。)


★★★

日本は国際的にも女性の社会的地位が低いといわれていて、ちきりん自身も男女でここまで差をつけられるのかと驚いた経験も多々あります。けれどその裏返しとして、日本ではまだまだ「男女の役割格差意識」も非常に大きくて、男性が圧倒的に重い責任を負っていると感じます。

日本の自殺の原因を見ると、女性の自殺原因は大半が自分の病気です。一方、経済的な理由での自殺は圧倒的に男性が多い。女性は、自分が病気だと自らの運命を嘆いて命を絶つけれど、「家族が食べていくために」自分の命を差し出したりはしません。お金のために死ぬのは男性なんです。

そう考えると、ちょっと「かわいそう」と思います。


ではでは