私をベレンに向かわせた本

「ベレン」という街の名前に、それだけでドキドキしてしまうようになったのは、垣根涼介さんの『ワイルドソウル』という小説を読んでからです。

この本を読んだのが昨年の6月(↓)
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20060615

ワイルド・ソウル(上)(新潮文庫)
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ワイルド・ソウル(下)(新潮文庫)
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で、その数ヶ月語、昨年の9月にはベレンへの旅行を決めてます(↓)
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20060901

で、実際に行けたのがこの5月、一年近く、待ちに待ったベレン行きでした。

★★★

ベレンはアマゾンの河口の街。州都であり、この地域の中核都市です。

↑こういう感じなんですが、まるで海辺の街みたいでしょ。

でもこれ、海ではなくアマゾン川なんです。

そして遠くに高層ビルの集まってるあたりが、“新市街”です。

ベレンはアマゾン川の終着点(始発点とも言える)

つまりこの街の港は、「新幹線東京駅のホーム」って感じです。

すべての船がここから、アマゾンをのぼっていくのです。

暗いのは天気が悪いから。

時期が雨期で、一日に何度もスコールがありました。

★★★

前にも書いたように街にはいろんな側面があるわけですが、ここでは港(川でも港というの?船着き場か?)の近くの風景のみ。

ジュースおいしそう。

きれいだよね。でもこんなの飲んだらすぐおなかこわしそう。

さて、ベレンも街のストラクチャーはこの前書いたのと同じ。

セントロ、新市街、郊外。旧市街は他の街とちがって、川の船着き場にそって結構広々してる。

機能が拡散している感じもあります。人口密度が低い感じ。

今回感じたのは、同じように高温多湿の亜熱帯で、経済レベルが低い国でも、アジアと南米では印象がかなり異なるということ。

その最大の理由は人口密度なんじゃないかな。

アジアはどこも人が溢れてる。

ブラジルは人口はそこそこ多くても土地がとにかく広い。

それが独特の「ゆったり感」「ゆっくり感」につながっていると思います。

★★★

ものすごい時間、歩き回りました。

「ベレンを感じるために」

他のところもそうだけど、「その街を感じる」ことが一番の私の旅の目的だと言えるほど。

「京都に行って何を見る、何を食べる」ではなく「京都を感じる」ために行くのであり、その為に何をすればいいのか、どこにすればいいのか、と考えます。

ベレンを感じるために、あっちこっち歩き回り、様々なものを見たり食べたりしたわけですが、

一番ベレンを感じるのに適当な場所は、と聞かれたら・・・

それは、「ベレンヒルトン」だと思います。

ベレンでは私もここに泊まっていました。

「ヒルトン」がこの辺りで一番いいホテルなのですが、これは旧市街にあるんです。

当然ですが、新市街に行けばもっといいホテルもあります。

外資系の新しいホテルも、新市街や、郊外の幹線道路沿いにつくられています。

が、この「旧市街にあるヒルトン」が大事なのです。

ベレンで一番、「外と中の格差」を感じることができるホテルだから。

★★★

私が感じたかったのは、「必死ですがる人たちを、無感情に切り捨てる世界」です。

その切り捨てる方の世界にいる人の「不安を裏返しにした驕慢さ」と、「滑稽なプライド」です。

移民がどんどんやってきていた頃のベレン。

支配者層であるポルトガル他欧州からやってきた白人達。

移民としてやってくる人を迎える日本の外務省の官僚など。

そして実際に世界各国からやってくる移民の人たち。

大半の移民は、本国での成功を諦め、異国での成功を目指してやってきた人たちです。

移民先のブラジルでも再びひどい環境に置かれる彼らを、移民を送り込んだ政府関係者は無情に切り捨てる。

でも彼ら自身、黄色人種で、文化度の低いアジアの国の人であり、白人であるブラジルの支配層と対等に交渉できるわけではありません。

ベレンにおいては最高権力者である欧州からやってきた支配層さえ、いつかは本国に帰って、本流である権力グループに戻ることを希求していたわけで、彼らには彼らのレベルの憤懣があったんだと思うけど。

つまりね、

不安と不満と、そしてその裏返しとしての残酷さと驕慢さの“入れ子構造”があったのでしょう。

誰が悪いというシンプルな話ではなくて。


ベレンヒルトンは、そういう無慈悲な、でもちょっと哀しい「世界の境界線」のドアとして機能しているんです。

このホテルのドアをでて、効き過ぎの直接的な冷房の風があたる世界から、バカ高い湿度の、ほこりと喧噪の光の世界に入る時、その「世界を超える」感覚がものすごくエキサイティングだった。

ヒルトンのロビーや受付の、慇懃無礼な空気は、一歩下がって見たときには、なんとも言えない滑稽さに溢れてて。

外から帰ってくるとき、外にでていこうとする時、その世界を自在に超えられる不思議な爽快さを感じることができる。

そういう場所なんだよね。

混沌のアマゾンの村において「ヒルトンだけは別世界」という存在。そういうホテルです。

出張で来たなら、私もここには泊まらないでしょう。

新市街の新しいホテルに泊まると思います。

だからこちらに泊まれるのが、休暇の価値なんです。

★★★

いつかまた、ふたたびベレンに行くことがあるでしょうか?

もしあるとしたら、私は今とは全然違う人生を歩んでいるってことだと思う。

そういう感じ。


そんじゃあね!

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