若者が3年で辞める理由?

「若者はなぜ3年で辞めるのか」という本を読みました。著者の城繁幸氏は1973年生まれ、東大法学部を出て富士通に入社。主に人事部で10年。退職して人事コンサルタントとなり、人事制度関連の本を書いていらっしゃいます。


この1973年生まれというのがミソだな〜と思いました。就職時に1995年(著者の就職は1996年)、一番就職が難しかった時期です。ということは企業も苦しいということで、富士通もなりふり構わぬコスト削減、人減らしをやっていた時期です。

ちきりん世代で東大から富士通に入っても、こういう体験はしなかったでしょう。「1973年に生まれるというのは、こういうことなのね。」とリアルに理解できたことが、この本を読んだ一番大きな収穫でした。


もうひとつおもしろかったのは、「年功序列」って、メーカーにおいてはそんなに重要なのね、と理解したことです。ちきりんも昔は日本の大企業に勤めていたけど、それは証券会社でした。

証券会社も、もちろん終身雇用、年功序列でした。だけど金融業は人事構成がメーカーに比べると圧倒的にシンプルです。工場、製造現場がありません。だから採用している人や仕事の画一性が高いし、人数の桁が違う。労組の意味も全然違うし、春闘もありません。

メーカーというのがどういう世界なのか、知識としては知っていたのですが、この本を読んでよりビビッドに理解できました。


例えば著者によれば、「日本の大企業が、数年フリーターをやっていた人を採用できない理由は、年功序列のせい」とのこと。

28才で5年フリーターでした、という人を雇おうとすると、「28才だと○級○号だから年収○○○万円です。」という年功序列給与テーブルに当てはめる必要があるが、高いスキル、社会経験のない人に、28才の人の給与は払えない。じゃあ22才の人の給与で雇えばいいではないか、というと、年功序列の“序列”を崩すからそれはできない、と言うのが著者の説明。

ここまで「がちっ」としたスキームがあるのはメーカーならではでしょう。証券会社をはじめ金融業界では、中途採用も退職者も多いし、転職していく人の多くは、よりよい条件で同業他社に移る人です。

リテール営業でも市場部門でも、年齢にかかわらずやたら儲ける人がいるから、ボーナスを含め、若くても年収が上司を上回る人もいます。営業成績が抜群なら年齢をいくつも飛び越えて営業課長や支店長にもなれます。同じ年令でもそれなりの年収格差があるのが普通です。だからこの本を読んで、メーカーってこうなんだ!!と結構驚きました。


さらに著者は10年間、人事部に所属していました。これも城氏が、この悩み深い世界に引き込まれたひとつの要因でしょう。それと、彼が「恵まれた立場であった」ということもポイントですね。

例えばちきりんは就職時に、富士通に入社して人事部に配属される、ということはありえませんでした。当時、日本のメーカーは、女性を総合職で採用していなかったし、たとえ採用されても人事部に配属されるなんてありえません。労務管理はとてもマッチョな仕事ですし、人事部は権力の中枢なのでマイノリティなんて要らないのです。

著者は、時代は不況とはいえ東大法学部出身の男性です。そんなに勉強しなくても必死に就活をしなくても富士通なら就職できたと思います。(実際に著者がどうだったかは知りません。)

この「何も考えずに就職した」ということも大事なのです。もしも新卒で外資系企業を目指す学生のようにいろいろ考えて就職していたら、おそらく10年も我慢できず、もっと早く辞めることになったでしょう。そうしたら、この本にあるような「すごい矛盾」を真の髄まで体験することはできなかったと思うのです。

というわけで、“世代”“業種”“部門”、そして“恵まれた立場”の4つが合わさって、著者はまさにああいう体験をすることになったんだな、と思いました。


それにしてもこの本にかかれていることが本当に今の日本企業の一般的な姿なのだとしたら、それはまったく「すごいこと」だなー、とあらためて思いました。


んじゃね。



若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

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3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書)

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