敢えて死人を責めてみる

とある方の自殺について。何が気分悪いのか、ずっと考えているのだけど、いくつか思いつくままに書いておきましょう。


(1) 彼を責め立てた人への、あまりに残虐な仕打ちだと思う。これがひとつめの理由。

野党側で彼を攻めた人はもちろん、同僚で“なんでそんなアホな対応をしてるんや?”と揶揄した人、辞めさせずに頑張らせ続けた安倍さん、国会対策をアドバイス(強制)した先輩政治家、夜討ち朝駆けでひどい言葉を投げつけたマスコミの人、今回の談合の調査指示をだした検察側の人、

など多くの人が今頃「俺があの時あんなことを言わなければ、彼は死を選ばなかったのではないか?」と感じているはず。


これ、人によっては一生残るような傷になると思う。それぞれの人がやったことは、業務として当然の行いも多い。それに対して、“死をもって復讐した”という感じさえする。これがまず、とても“気分悪い”理由です。

文句があるなら、もっと適切で正当な対抗手段があるはず。自殺で抵抗するなんて卑怯じゃないかと。


★★★


(2) 死をもって事件にピリオドを打とうという姿勢も、とてもずるい!と思う。これが気分悪い理由の二つ目です。

職業政治家=税金で給与と活動費をもらっている人、として、何の説明もしないばかりか、“これ以上追求するな!”と死をもって真相究明の動きを阻止しようとする。プロとして無責任だと思います。

検察は、彼に何の罪があったのか、なかったのか、きちんと明らかにしてほしい。「死ねば不問にされる」という慣習を残して欲しくない。

国民の税金を無駄に浪費しても、死ねば済むというのはおかしいです。あなたの命で償えるような罪ではないと理解して欲しい。


★★★


(3) 公人が自殺するのは、社会的責任の放棄だ、と思う。「つらいことがあれば、自殺という手段を選ぶのはひとつの選択肢である」と世に知らしめるための行為のように思えます。

このことについては、個々人いろんな説があるでしょう。自分の命の支配権が誰にあるのか、という点については諸説あっていいし、議論があっていいと思う。

しかし、少なくとも社会に影響を与える立場の人は、それ(自ら死を選ぶという選択肢)を肯定的に表明すべきではないと思います。


たとえば小学校の教師が、個人として自殺に対して肯定的な考えを持っていてもかまわないが、それを授業で「俺はこう思う」と話したり、実際に「つらいから」と自殺するのは大問題でしょう。

そんなことしたら、多くの人が「そういう選択肢がありうる」と考えてしまう。そりゃー問題じゃない?


もちろん、他人の行動でそんな大事なことについて考えを変えないよ、という人もいるでしょう。ちきりんも、松岡大臣の自殺によって自分の考え方が変わったりはしません。

しかし、もし今ちきりんが、精神的な病気で悩んでいたら、もしくは、病気や借金や様々な悩みで真剣に死を考えていたとしたら、こういうことは大きな影響をもつ気もするんです。「ああ、やっぱり死んでいいんだ」ってなりそうな気がする。

それはどうよ?と思います。


★★★


自殺後の新聞のコメントの多くが「実はいい人だった」「農政に深い理解があった」「実績もあった」などという肯定的なコメントなんだよね。

あああ、と思う。死ねばすべてが美化され、許される。だから死のうという人がでてきちゃう。


変だってば、これ。


もちろん、テレビカメラの前で、大きな選挙の数ヶ月前に、「今、死ぬのは卑怯だろう」と言えない政治家の立場はよくわかる。だから、それは責めない。

しかし、「これぞサムライだと思う」という某知事の発言には「頭がおかしいのでは?」と思いました。カメラの前で泣き崩れる同僚の政治家も、いかがなものかと思う。


税金をもらって引き受けた仕事を放り出して、誰にも文句のつけられないところに逃げ込む行為を、美化することだけはしない方がいい。別に責めまくる必要もないが、でも、なんで美化する必要がある??


★★★


個人の大人の判断として、自分の死を選ぶという行為に(百歩譲って)問題がないとしましょう。

しかし、死をもって復讐しようとか、死をもって捜査を打ち切りにしようとか、死を手段として、何かの目的を達成しようとする行為については、ちきりんは、強い不快感を感じます。とても卑怯な行為だと思う。

ぐだぐだ文句をいう、自分と反対意見の人の街に、上から核ミサイルでも撃ち込んで文句言えなくしてしまえ、みたいな方法論だと思うよ、これ。それくらい「暴力的な問題解決方法」だと思います。


勘弁しろよ、と思います。60年も生きていて、それ以外の方法を体得できなかったのだとしたら、いったい今まで何をしてきたんだか。高齢のお母さんを残して、奥様とお子さんを残して、いったい何を考えてんねん? と思います。


ではね。