危機管理

物騒なことが多い昨今、しばしば危機管理の必要性が叫ばれます。危機管理の方法は大きく分けて3つあります。

(1)対応動作を決めておく。
(2)予行演習をしておく。
(3)保険をかけておく。


(1)は「危機管理マニュアル」を作り、組織内で共有することです。自治体は台風や地震など災害時の対応マニュアルをもっているし、国際的な企業は、支社や工場がある他国で政変が起きた場合や、ストライキなど労働争議に備えた対応マニュアルを用意しているはずです。空港や軍隊には、テロを想定しての非常時マニュアルがあるでしょう。


(2)の予行演習の典型は防災訓練です。オフィス街のビルでは、防災放送があっても全くパソコンから目を話さず訓練に参加しない人もいますが、あれは一度は体験しておくべきです。

たしかに「火事の訓練です。エレベーターを使わずに避難してください。」と言われても、高層階から階段で降りるのは体力的にも大変だし、仕事も中断されてしまいます。けれど一度やっておくと、圧倒的に様々なことが学べます。会社は多くの人にとって最も長い時間をすごす場所ですから、毎年とは言いませんが一度は参加しておくことをお勧めします。


(3)の保険。ひとつは、分散や重複設備によりバックアップする方法です。たとえば緊急通信用の機器や金融機関のホストコンピューターは、一カ所ではなく複数地域に設置されているし、防衛関係や病院など特定の施設では通常の電力施設以外に自己発電施設を備えています。

また役員全員の出張が必要な場合、異なる飛行機に分散して乗るのも万が一に備える方法です。もちろん文字通り“損害保険をかける”という備え方もあります。

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さて、この3つのうち最も効果が高く、一方で実行が難しいのが「予行演習」です。マニュアルを作ることや保険をかけることはお金さえかければできます。しかし、予行演習では「本当に起った時と全く同じ想定を作りだす」こと自体が困難です。

たとえば飛行機のクルーや、消防団、軍隊は「仕事としての予行演習」を頻繁にやっていますが、実際に災害や危機が起これば、多数の一般人が事態の一番の主役になります。けれど、その「パニックした一般人」が参加した予行演習をすることはほぼ不可能です。


ところが時々、「リアルな予行演習」といえるような事態が起る場合があります。

たとえば2005年の千葉県北西部地震の際、東京都は「緊急招集に応じるという条件で都庁付近の住宅に住まわせていた職員に、緊急招集をかけました。ところが34人中13人しか緊急呼び出しに応じなかっため、招集に応じなかった人は、後にこの都心の格安な住宅から退去させられます。

このケースは、来るべき「東京での大災害」に備えた予行演習として極めて効果的に機能したわけです。なぜならこれが最初から緊急訓練であったとしたら、職員は全員がちゃんと参集したでしょう。それでは何の問題も浮かび上がりません。このように「リアルな予行演習」というのは、非常に大きな意味があるのです。


ちょっと古い話ですが、1997年の金融破綻の時も同じでした。11月に三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券が相次いで破綻した時期は、大蔵省(当時)も日銀もマーケット参加者も大混乱しました。特に、一番最初の三洋証券が会社更生法を申請した際、インターバンク市場でデフォルトを起こしたことは関係者に大きな衝撃を与えました。これについても、実際に起るまでそのインパクトは理解されていなかったのでしょう。

けれど、これらが「リアルな予行演習」となり、翌年の日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻では金融市場のパニックを最小限に抑える策がとられました。さらに、2003年のりそな銀行国有化の段階では、金融機関の破綻救済方法について当事者内には相当の知見が蓄積されていたと思われます。

どんなに事前に備えていても、実際に起ってみないと学べないことはたくさんあるのです。

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北海道夕張市の財政破綻も、財政赤字に苦しむ他の多くの地方自治体に「リアルな予行演習」として多くの教訓や教えを与えていると思います。

東京や、ディズニーランドなど特殊な施設が存在する市町村をのぞく、大半の地方公共団体は程度の差はあれ借金付けの財政状態です。景気動向によっては、次の10〜15年で複数の自治体が破綻してもおかしくありません。その時にいったい何が起こるのか、頭の中で考えただけではおそらく全くわからないでしょう。


「行政サービスはどこまで最小化できるのか?」
「給与をいくらにすると、公務員は何%辞めるのか」
「どこまでやると、住民の引越が始まるのか?」
「近隣地域はどういう対応をするのか」
「暴動が起こる可能性もあるのか?」などなど。


これから地方公共団体の破綻が現実化してきた時に何が起こるのか、行政関係者など、この事態を「どうマネッジするか」という視点にたつ人たちからみると、夕張市のケースは非常に貴重な「リアルな予行演習」ともいえます。

金融破綻の時と同じように、最初は地方の小さな市が破綻し、次に都市部の中規模市が破綻し・・・となれば、日本でも地方公共団体の破綻に市民が慣れ、破綻処理のプロセスについてノウハウや知見を蓄積する日がくるのかもしれません・・・。


そんじゃーね。