滑稽なる驕慢

ミャンマーでのジャーナリストの方の死亡事故について、外相や首相に「制裁をする予定はないのか?」という質問を投げかける記者を見ると、本当に気分が悪いです。


日本はミャンマーへの最大の援助国の一つです。ミャンマーは国連が認定する世界の十数カ国の最貧国の一つです。ちきりんがテレビで見る限り、ここ20年でアフリカ諸国と同様、全く変わっていない国の一つだと思う。

もちろん原因は軍事政権にあります。もともとイギリスの植民地であったミャンマーに「反・西側先進国の政権」が生まれ、それが軍事政権であり、西側諸国からは援助を受けられない国となっています。ありきたりな構図です。

アウンサンスーチー氏は立派な方とは思いますが、イギリスで教育を受けたこういう人を政権につけたいのは誰であるか、とも考えます。他国の例を見てもわかるように、西側諸国が支援するのは必ずしも「民主的政府」というわけでもなく、基本は「西欧的価値観をもった人」です。

★★★

今回、日本のジャーナリストを殺したのは、軍事政権の軍隊に所属する前線の一兵士です。

なんの希望も持てない、ただただ空腹を我慢する時間と、幾ばくかの食糧で空腹を充たす時間の繰り返しだけで構成される人生を送っている多くの貧民のうちのひとりでしょう。それを運命付けられた人だけが存在する村、に生まれたであろう一兵士です。

そういう生活から、圧倒的なる力への憧れや、熱狂的な偏執や、暴力や殺人による一瞬の精神の解放を得られる瞬間への強い希求が生まれます。

中東のテロ実行犯も、文化大革命の赤軍達も、ポルポトの兵士達も皆同じです。彼らの目は狂っているようにみえます。多くの写真を見て、ちきりんもそう思いました。でも、その狂気はどれも、恐ろしいほど哀しい姿をしているんです。

無知と貧困が世界中で、歴史上で、数多くの狂気を生んできました。罪のない、罪の問えない狂気を。

★★★

援助国のひとつである日本の怒りを静めるために、そこからの援助金を止められることを恐れるために、ミャンマー政権があの兵士を、世界中のマスコミが報道する画面の前で、銃殺刑に処することは、全く容易いことでしょう。



至近距離から打たれたことが明白な画像をテレビに映しながら、日本のアナウンサー達は、“軍事政権の非人道さ”を責めています。それが報道だと信じて。


現地は紛争状態です。「日本人ジャーナリストは流れ弾にあたって死んだ。」とコメントを出したミャンマー政府は、日本のジャーナリストがどのように撃たれたかなど確認できている状況ではなかったでしょう。

ニュースはまるで、軍事政権が「ごまかしたり」「嘘をついて」“流れ弾で死んだ”と報じているかのようですが、単によくわかっていないだけなんじゃないかと思えます。


そもそも、なぜ日本のマスコミはミャンマーだけ“軍事政権”と報道するんでしょう??金正日は軍事政権じゃないんでしょうか?サウジアラビアは米軍による軍事政権じゃないのかしら?だれなんですかね、ミャンマー政権についてはそういう枕詞と共に呼ぶと“決めた”のは?


ちきりんは驕慢な人達が嫌いです。自分が持っているものが、まるで自分の力で手に入れたものであるかのように、それを持たない者をさげすんで語る人達の言葉が嫌いです。


あの兵士の人生を報道して欲しい。

彼のすごしてきた時間を取材してほしい。

彼が暴動の前線にかり出され、銃を大衆に向けながら進んでいる時の、彼の精神状態をドキュメンタリーで探ってほしい。

戦場を知らないちきりんには想像もできないけれど。

★★★

今回亡くなられたジャーナリストの方は、信念と行動の人だと思います。ご自身の信念からすれば、本望な死に方と言えるのではないでしょうか。

彼は、世界中から“いじめ”を受けるこの最貧国が、大金持ちの日本からの援助を失わないために、一兵士を生け贄として差し出すことを、果たして望んでいるでしょうか?

彼が望んでいるのは寧ろ、まさにこの兵士のような人の人生が、どのようなものであるかを、世界に伝えたいということだったんじゃないかと思うけど・・・。


マスコミという業界に、間違っても身を置かなかったことは、ちきりん人生最大の幸運です。そこが嫌な業界であるからではありません。

自分もそこにいたら、「制裁をする気はないのですか?援助をストップする気はないのですか?」と、勢い込んで、つばを飛ばしながら、何の疑問も持たず、する人に、きっとなっていたと思うから。


じゃね。