国の選択・資金投下先

与野党拮抗は「いろんな議論が行われる」という点では悪くないのだが、一方で必然的に「大きな政府」への途となってしまう、という点で、やっぱりちょっと困ったもんだ。

「税金のばらまき」はいつだって人気のある施策だ。特に小沢さんが「格差問題」を選挙の争点化したことで、選挙後はこの「困っている人にお金をばらまこう」という方向がキワだってきた。そして、選挙前には一切議論されなかった増税議論が大手を振ってまかり通るようになってきた。

昔と違って「ばらまくために借金をする」という手が日本ではもう使えない。今の日本では「ばらまくためには、増税をするしかない。」

「ばらまくために借金をする」というのは、資金循環でいえば、「現在の世代」が「将来の世代=子供世代」から金を巻き上げる、という構図です。これを日本は延々やってきたわけですが、既に将来に押しつけた借金額は多すぎるし、少子化で将来世代の人数は少なすぎるし、もうこれを続けることが不可能になった。

で「ばらまくために増税をする」わけですが、こちらの資金循環の構図というのは、「現在かわいそうではない世帯」が「現在のかわいそうな世帯」にお金を渡す、という構図です。もう先払いという“つけ”はきかないので、今いる人の財布の中でお金をまわそうと。

では、「かわいそうな世帯」と「かわいそうでない世帯」とは、それぞれどんな世帯なのか?

★★★

増税とばらまきの手段として、現在考えられているのは下記です。


<増税側>
・消費税 10〜15%へ
・所得税 特に年収800万円程度以上


<ばらまき側>
・老人(を抱える家庭を含む)
・農家
・地方
小沢さんの主張通りです。

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ということは、資金は次のように流れることになります。すなわち、

「都市部に住んでいる中堅サラリーマン、必要消費額の大きい子育て中の世帯」からお金が取り立てられ、「田舎でお年寄りご夫婦で小規模農業を営んでいる世帯」へ流されるわけです。

・・・・・

これがねえ、本当に有効なお金の使い方なのか、限られた我が国のお金の、使い方として正しいんだろうか。やっぱりどーも、ちきりんにはわからんですよ。

老人も子供もいる家は差し引きチャラか?って。そうですね。額としては差し引きチャラでしょう。しかし使い道は世帯主には決められない。子供の教育費が削られて老人福祉に回るんです。それが本当に、望ましいお金の使い方なんですかね。

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国の役割というのは、経済面に限れば、「誰から金をとりたてて、その金をどこに配分するか」に尽きるわけです。

明治以降の政府組織は、庶民と商人から取り立てた資金を中央政府にまわして国のインフラを整備し、最後には軍隊に回し始めて破綻。

敗戦以降の政府は、同様に庶民と商人から取り立てた資金を、大企業に回して「輸出貿易型の経済」を作り上げた。

ところがその後、資金は一貫して「地方」へ流された。列島改造論の時代です。地方には無用に立派な橋や道路や公共の建物が林立する。しかし、このあたりから「資金の徴収」が行き詰まりを見せる。そのため、地方の橋やダムを造り続けるには、将来世代から借金をするしかなかった。これが財政がむちゃくちゃになった時の資金循環の構図です。


上記の構図で、明らかなことがひとつある。成功している時の共通点と、失敗している時の共通点が余りに明らかなのだ。

成功している時、明治以降の国造りの時代には、「資金を回した先」が「その資金のおかげで新たな価値を生んだ」のだ。初めて鉄道がひかれ、初めて電気や水道等が整備され、すべての子供が教育を受けられるようになったおかげで、産業が興り、新たな社会を率いる人材が育成された。つまり、お金が投資された「国作り」の分野では、そのおかげで、次のお金を生む仕組みが整ったのだ。

敗戦後の高度成長の時代も同様だ。近代工業を興すためには、石油と海外の進んだ技術の導入が不可欠だった。そのためには外貨が必要だ。外貨が稼げる繊維、鉄鋼業界に庶民の金をつぎ込み、それらの産業を牽引役として日本経済は立ち直った。

成功した時期の共通点は明らかだ。お金をつぎ込んだ「先」が、「投資先」であったということだ。「消費先」ではなくて。

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失敗した時の共通点も明らかだ。

お金のまわし先が「消費先」なのだ。投資と違って消費は、将来の富を生まない。消費先に資金を配分するということは、将来の見返りもなしに、永久にお金をつぎ込まなくてはならないということだ。そして、それがいつか破綻することは目に見えている。

負け戦の軍事費、誰も使わない地方の高速道路や博物館、いずれも「消費」であり「投資」ではない。永久にそれらにお金をつぎ込むことはできない。いくらつぎ込んでも、その消費先が新たなお金、価値を生むことがないからだ。

(なお軍事費の場合は、勝てば、その資金が投下された先が新たな富を生む場合もあります。したがって費用項目として必然的に消費先なわけではない、とも言えます。)

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話をもどしましょう。小沢さんが「これからお金をつぎ込む先」としてあげた3つを見て欲しい。


地方、農家、老人。






暗澹たる思いになるのは、ちきりんだけか?
ねえ。