ツーステップ方式の限界

「日本製品が世界に溢れてる!」

20年以上前、私が海外旅行を始めた頃は、どこの国の家電店にもソニー、パナソニック、シャープなど、日本メーカーの商品がずらりと並んでおり、日本人として本当に誇らしく思えました。

けれど今や状況は大きく変わりつつあります。

ホテルや空港、美術館などで見かけるテレビやディスプレイは、その多くがLGなど韓国製品となり、携帯電話やパソコンでも、北欧、韓国、アメリカ、台湾や中国の製品が売り場を占領しています。


家電以外の日用品では更に顕著で、生活慣習や趣味嗜好を共有しているはずのアジアの国でさえ、P&G やユニリーバなど欧米企業の商品が多くの棚を占め、花王やライオンの商品は見つけられないことさえあります。食品や飲料でも同じような様相です。

なぜ P&G やユニリーバにできることが、花王やライオンにできないのでしょう? なぜ欧米の一流ホテルはテレビをブラウン管から薄型に買い換える時、ソニー製をLG製に変えてしまったのでしょう?


その背景、原因にはさまざまな要因があるのでしょうが、私はその理由のひとつとして、海外市場をターゲットにする際の、検討方式の違いがあるのではと考えています。

検討方式の違いとは、「ワンステップ方式で海外市場向けに商品を開発・販売」している海外企業と、「ツーステップ方式」で海外進出を検討する日本企業の違いです。


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「ワンステップ方式の海外市場進出」とは・・・

そのメーカーが商品開発・企画会議を行う際、メンバーに配られる検討資料に、「当該商品の市場規模」として、北米○○億円、欧州○○億円、アジア○○億円、南米○○億円、などと、世界の市場規模が明記されている企業です。


資料の2頁目には「競合分析」が載っています。

そこには、日本企業A社、米国企業B社、イギリス企業C社と自社の主力商品の、最近の市場シェアの推移が載っています。

それらは地域ごとに分析され、どの企業が南米で強い、どこは欧州でどんな売り方をしている、などがわかるようになっています。


3頁目は「顧客分析」で、それぞれの市場の特徴が書いてあります。最近の南米での顧客の好み、為替が影響を与えているユーロ圏での購買行動の変化・・・などなど。

こういう資料を使って商品企画会議を開いている会社を「ワンステップ方式」の会社と呼びます。

彼らは最初から、新商品を世界中で売ることを当然と考えています。そのために必要な商品スペック、価格帯、売り方、ネーミングなどを検討する会議が「商品企画会議」なのです。


これとは別に「ツーステップ方式」を採る企業があります。そこで商品企画会議の資料に載っている市場規模は、もちろん「日本市場」の規模です。

資料の2頁目の競合分析にでてくるのも、「日本市場で商品を売っている企業の一覧」です。3ページ目の顧客分析も「最近の日本人の購買行動の変化」についての分析です。

そして数年後の海外部門の会議。

メンバーの手元にある資料には「○○商品の海外展開に関する検討資料」というタイトルがついています。日本でヒットした商品が海外でも売れないか?、検討をするための会議が開かれるのです。

配られる資料にはもちろん「進出先の国の市場規模」や「競合商品」「顧客ニーズの分析」が掲載されています。


これが、最初から世界で売ることを前提としたワンステップ方式と、日本で売れた物を「海外展開しよう!」と考える2ステップ方式の違いです。


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ツーステップ方式では、市場は「日本市場」と「日本以外の市場」に分かれています。そして、日本以外の市場は常に「後から考える」のです。

日本企業でも、売上の大半が海外であるという商品を持っているメーカーでは、ワンステップ方式で商品開発をしているのでしょう。反対にいえば、そうでなければ「売上の大半が海外」などということは実現できないのです。


特に、北欧のように自国の人口が少ない国や、韓国のように為替危機を経験し、外貨で売上を立てることが至上命題になった国では、「最初から世界の市場を見る」ことが当然のように行われているのでしょう。

その点、購買力の高い人口が多い日本市場を「ホームマーケット」として抱える日本企業にとっては、「まずは日本市場、そして海外」という発想はごく自然なものだったかもしれません。


しかし、技術進歩やトレンド変化のスピードが速い分野では、二段階に分けて考えることによるタイミングの遅れは致命的です。

また、最初から世界市場を見据えていれば、より大きな開発予算、投資が可能になったという商品もあるでしょう。

さらに、最初から世界の顧客ニーズをみて開発することで、よりそれらの市場に合った商品を作り出せるのではないでしょうか?


シビアな言い方をすれば、「ツーステップ方式」での商品開発とは「グローバル視野の欠如」を意味します。

商品企画の最初から、そして販売計画の最初からワンステップで考えている世界の競合企業と戦うためには、ツーステップ方式はあまりに不利な方式だと思います。



そんじゃね!


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