リニアはどーなる!!

「日本に現存する冷蔵庫の数」と「同、自家用車の数」、どっちが多いと思いますか? 販売数じゃなくて、現存数ね。どちらも(業務用を除いて)家庭用のみで考えてみてください。


自動車と考えた方は、田舎の、いや、交通が不便な地域の在住者です。
冷蔵庫と答えた方は、都市圏などの在住者です。


わかりますよね。


田舎だと、冷蔵庫は一家に一個しかないけど、車は大人の数だけあります。全員、車で会社に行ったり買い物に行くので、車は“個人のもの”です。当然「車の方が多いでしょ?」と思う。

一方で都会生活の長い人は、「冷蔵庫は“すべての家にある”が、車は保有していない家もたくさんある。オレだって持ってないし。」と思います。だから「当然、冷蔵庫の方が多いでしょ?」となります。

ちきりんはこれを「田舎モン発見クイズ」と名付けています。

★★★

答えは、全然重要ではないのですが、だいたい同じです。どちらも世帯数の2割増しくらいの数字だったと思います。


皆様ご存じのように、日本での自動車の販売台数はどんどん減っています。一番売れてたバブル最後の1990年の590万台の販売に較べて、昨年は343万台でなんと250万台の減少。(軽自動車は含まない数字です。軽自動車は増えていますが、もちろん全体でも減少です。)

売上台数が18年で250万台減るってどういうことか。今年の売上全体が343万台なんだから、トップシェアのトヨタでも今年一年で140万台ほどしか売ってないわけでしょ。どんだけ危機的な状況か、感覚的には驚愕の数字ってレベルです。


理由はなんでしょう?


(1)車離れ(特に若者:文化問題)
(2)車離れ(特に都会の居住者:経済問題)
(3)新車を買い替えるサイクルが長くなっている。


(1)は「車がなくても彼女ができる時代が来ました」ってこと。(2)は「駐車場が家賃より高いよばーろー問題」です。(3)はバブルが終わったのと、(1)と通じるものがありますが、車を移動手段としてしか見ない人が増えたということでしょう。(昔は“動くリビング”とか言って、カーテン付けたりしてましたからね。)


そして、よりインパクトを大きくしている要因が、


(4)人口が減る(特に若者)
(5)人口が減る(特に田舎)


のふたつですね。

★★★

今日は成人の日ですが、10年前の新成人の数=170万人でした。

今年の新成人の数は135万人と報道されてます。

そして20年後の新成人の数は=2007年に生まれた赤ちゃんの数なんで
109万人です。


どーよ、これって感じでしょ。こんなんで車の販売数が増えるはずがありません。つーか、車だけじゃないんだけどね。なにもかも10年前とは半分しか売れなくなります。


加えて上記で(4)と(5)をわけた理由でもあるんですが、「日本全体で人口が減って車が売れなくなる」だけではないんです。もちろん冷蔵庫も売れなくなります。

しかし最初のクイズに書いたように、車の“実需”が存在するのは都会ではなく田舎なんです。交通の不便なところなんです。そういうところで特に人口が減るんです。しかも冷蔵庫は100歳でも使える可能性がありますが、車はそうはいかない。



そう、

人口が減るインパクト、高齢化のインパクトは、「冷蔵庫より自動車への影響が大きい。」ってことなんです。



別の言い方をしましょう

人口が減るインパクトは、

「パナソニックより、トヨタへの影響が大きい。」



★★★

今はね、日本の自動車会社は絶好調です。アメリカで売れてるからです。そこがサブプライムでこけても、それこそBRICSがあります。ロシアでもインドでも中国でも、車はこれから売れまくります。

でもね、よーく考えてみてください。

今年、トヨタの生産台数は、年間800万台くらいです。現在この海外・国内生産比率は約半々です。日本で約400万台、海外で400万台作っています。(商用車を含む全台数です。)

5年前には日本で350万台作り、海外では210万台でした。日本の方が圧倒的に多かったのです。


さて、これから“国内生産数”はどんどん増えていくでしょうか?


ってな、しょぼいクイズをやっている場合ではありません。


一番重要なのは“本社機能”です。

★★★

今年はトヨタ自動車にとって「国内生産数と海外生産数の均衡年」です。いよいよ「日本で作られるトヨタ車」より「海外で作られるトヨタ車」の方が多くなるのです。(この年が、日本の人口の“ピーク年”と重なっていることは、単に偶然であるのですが、極めて象徴的ではあります。)この比率が今後どうなっていくかは火を見るより明らかでしょう。



ですが、大事なことは、現在、800万台の車の生産は海外と国内が半々であるが、その800万台の車の、

・企画(開発車種のコンセプト作り)
・開発(エンジン等主要パーツ開発、特定のブランドの車の開発)
・研究(新動力を含む環境系とか自動運転システム系とか電子系とかね。)
・販売(ブランディング、マーケティング、広告作り)
・財務
・人事企画
・経営


のうち、たぶんまだ、その8〜9割くらいが日本で行われてるってことです。おそらく北米で企画、販売をちょろっと、開発をほーんのちょっとやっているだけです。



そう、
・生産
だけが、今年“半々”逆転したんです。


・生産は 50/50
・それ以外の機能は80/20

なんです。


だから、ワーキングプアの問題がでているんです。
だから、「オレは関係ない」と思える人がいるんです。実際、名古屋大学工学部出ました、とかいえば、「オレは関係ない」んです。だって、生産以外の機能は、まだ全部“あのあたり”で行われているのだもの。



でも・・・生産の海外比率だけがどんどん海外にシフトして、それ以外の機能の海外比率はいつまでも今のままなのでしょうか?



いつか、海外販売(生産でもいいけど)数が1200万台、日本では100万台とかになった時にも、

企画、開発、研究、財務、経営などのすべての機能が、名古屋近郊で行われているんでしょうか??



いや、だとしたら、それはそれですごいことだと思います。ほんとに。




そう思います?

★★★

松下が、冷蔵庫でさえ「パナソニック」で売ると決めたのは、極めて妥当でしょう。あの日、市場は下落したのに、松下の株価はしっかり上昇しました。

「松下」なんて名前を知っているのは、日本人だけです。その日本人の数は、20歳ベースで、10年前の170万人が20年後に109万人になるんです。一方で、中国とブラジルとロシアとインドの人口は・・・ねえ。です。


松下を初めとして、冷蔵庫の海外生産比率が50%を超えたのがいつだったのか、ちきりんは知りません。多分プラザ合意の直後くらいかな?という気はするから、そうだとすると20年前くらいでしょう。

トヨタの海外生産比率が50%を超えたのが今年です。業界差20年。
そして何度も言いますが、自動車の方が、冷蔵庫よりも「少子高齢化」のインパクトをもろに受けます。一番最初に書いたクイズの賞味期限はそんなに長くありません。



今、勝ち組だなどと言われて、大企業で高い年収と安定した雇用を享受している多くの人達が、定年まで後何年あるか、それは人によります。30歳の人なら後35年、40歳の人なら後25年です。

あと25年〜35年の間に何が起こるのか。

★★★

JR東海は、リニアを東京名古屋間に自力で建設する、とブチあげました。なるほど、大阪と東京は「古びた新幹線しか走ってない」が、東京、名古屋間には「ピカピカのリニア」が走るのです。



すばらしいね。

美しい未来だ。




JR東海さんへアドバイスするだよ。


リニア、急いで作った方がいいですよ。トヨタの本社機能があそこにある間に減価償却できるようにね!


んじゃまた。