大学進学費用は誰が払う?

大学の授業料について思うのは、「これ、いつまで親が出すんだろう?」ってこと。

おそらく先進国の中で、“親が大学卒業までの全コストを負担するのが当然”というのは現時点では日本だけなんじゃないかな。

大学の授業料レベルは各国様々で、米国の大学の授業料はバカ高く、多くの学生は奨学金と学生ローンの組み合わせで進学します。もちろん親がかなりの部分を負担してくれるという家もあります。

欧州は。大学は国公立(王立)が多く授業料は無料だったり格安なので、学生はアルバイトをしながら自活するケースも多いかな。

だからといって欧州を“平等な教育制度の国”と呼ぶのもまたどうかと。

というのも、未だ「階層」意識が根強く残る欧州では、エリート学校(フランスのグランゼコール、イギリスでオックスブリッジに進むために有利なパブリックスクール)は、普通の労働者階級の子供が行く学校じゃないものとして位置づけられてる。

そして、こういった高校、大学にいかずして社会のリーダーになれる可能性は日米に比べてもとても低い。

授業料は高額だけど奨学金制度が充実しており、成績とリーダーシップが卓越してれば丸抱えの奨学金が得られるチャンスも大きく、社会階層や親の経済力に関わらず一流大学に進学できるアメリカの方がむしろ平等かもしれない。


最近日本でも「親の経済力が学歴に響く」的な論議が多いけど、この議論の大前提は、「これからもずっと、親が大学教育費を負担する」ってのが前提だよね。でも、ちきりんはこの前提自体が、いつまで続くの? って思ってる。

大学教育費は「入学に必要な学力をつけるための経済力」=入学前経費=塾費用などと「卒業に必要な経済力」=入学後経費=授業料や生活費に分かれるので、とりあえず後者の話から。

★★★

「親が子供にしてやれる最大のことは教育をつけてやること」って言葉もあるほど、どこの国の親も子供の教育には熱心だ。

韓国なんて子供を小さい頃に英語圏に留学させるため、母親が海外留学に同行し、父親がソウルでひとりで働いていたりするし、中国も進学率が高まるにつれ、同じようなことが起こってる。

この「アジアの特徴」は、おそらく儒教系の流れだと思う。科挙を目指して頑張る子供を家族が3回引っ越してでも支援するって話から見ても歴史的な伝統だと思える。

が、これは「その代わり、老後は子供が丸抱えする」というのとセットの話だよね。儒教の世界では老親の世話を子供がするのは基本中の基本。

人間の一生で大きなお金がかかるのは、育児、不動産取得、老後の3つ。
現在のお金でそれぞれ4千万円くらいはかかる。

ところが昔は不動産は高くなかった。みな、その辺の土地の掘っ立て小屋に住んでいた。だから、お金がかかるのは育児(教育)と老後(働けなくなってから死ぬまでの生活費)だけ。このふたつを、親が子供の育児費を払い、子供が親の老後費を払う、という形で「時間差交換」してた。

子供が小さい時は、働き盛りの親が子供の経費を払い、子供が成長して働き盛りになれば老いた親の経費を払う、という「助け合い」方式と言ってもいい。

ちなみに“個人自立ルール”の欧米では、どっちも「自分に必要なものは自分で払いましょう」になってる。子供は自分の高等教育費(大学の費用)を自分で借金をして払い、親も、老後資金は自分で貯めておく。

というわけで、今後「親はいつまで子供の教育費を出すのか?」という問いは、今後「子供はいつまで親の老後を養うのか?」という問いに等しい。

こういう「親が子供の教育費を出し、子供は親の老後の面倒をみて恩返しする」という儒教的な家族観(世代で助け合う)が、これから一気に壊れるとは思わないけど、「うちは親が出してくれた」「へえ、いいなあ。うちは自分で借りて進学したよ」みたいに、どっちもあり、くらいにはなるんじゃないかな。

★★★

国がどれくらい教育費に予算をかけるか、という話については、“授業料を一律で安くし、税金でそれをまかなう制度”より、“授業料は高いが、成績優秀者には返済不要な奨学金が用意されてる”方がいいと思う。

全員を一律で安くするのは、大学ではなく義務教育の方に先にやるべき。(給食費とか教材費、修学旅行費とかを親からとるべきでない)

欧州のような「一部エリート校は別扱い」で、「でも大衆大学は誰でも入れますよ。授業料無料です!」というのは、あまり好きではないです。「人にはそれぞれ分にあった“クラス”というものがある」という欧州的価値観に違和感があるんで、ちょっと支持しがたい。


あと、「大学に入るための教育費」、つまり、塾とかのお金が払えないから、親が貧乏だといい大学に入れない、という話だけど、これはちきりんは今後はあんまり問題なくなる、と思ってます。

そもそも大学に入学するのは圧倒的に容易くなる。受験地獄などと言われたのは今昔。すでに全入時代です。塾にいかないと「私立一貫校」には行けないだろうが、国立大学なら努力と能力しだいでしょう。

なので奨学金制度さえしっかりしてれば大学の授業料なんてもっと高くていいと思うのだが(その方が、大学の研究費とかも潤沢に確保できるし)、

そんなことより、

高校卒業までの全経費を税金で出すべき。

高校の授業料はもちろん、そこまでの弁当代も含めて全部、です。生活保護の家でも、児童福祉施設で育った子でも、高校卒業までは一円もお金を持って行かなくて済むようにすべき。

弁当がもっていけないから悲しくて不登校になる貧しい家の子供、「親もいないのに義務教育でもない高校に行きたいなんて贅沢だ」などと言われる施設の子供ってのが一番無くすべき(助けるべき)対象だと思う。

18才まではしっかり国が教育を提供する。親には一切負担をかけない。そして18を超えたら、必要なお金を子供本人がその能力と努力によって調達できるような仕組みを整える。

これが一番いーんでないの?と、ちきりんは思うです。



そんじゃね。