1000万人を正社員に!とか

正社員を「月給の仕事」とすると、大半の非正規雇用の仕事は「時給の仕事」です。「一ヶ月働いて幾ら」ではなく、「 1 時間働くと幾ら」の仕事ってことですね。

時給は業種や地域により様々ですが、仮に時給 1000円で計算すると、一日 8時間、週に 5日働いて月 16万円になります。年に 48週間働くと、総労働時間が 1920時間、年収 192万円です。税金はほとんどかからなさそうだけど、社会保障費は引かれるので、手取りはさらに低くなります。

また、一日 8時間の「時給を稼ぐ時間」のために片道 45分かけて通勤し、ランチに 1時間、一日の休憩の合計が 30分とすると、8時間働くための総拘束時間は一日 11時間です。

時給 1000円は法定最低賃金よりかなり高いのですが、それでも一日 11時間拘束されて年収 200万円以下にしかならないと考えると、実家住まいや共働きでなければ「時給の仕事では食べていけない」と言えるでしょう。

しかも時給は長年働いてもほんの少ししか上がりませんから、「時給の仕事をしている限り、一生、ワーキングプアレベルの生活から抜けられない」ということになります。

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もちろん単純作業的な仕事、すなわち企業側からみて時給支払いにせざるを得ない仕事は、どの国でも必ず存在します。ゼロにすることはできません。

しかしそういった仕事の数は、「生計の主たる担い手以外の労働者数」とマッチしていることが、雇用状況としては望ましいのです。

「生計の主たる担い手以外の労働者」とは、学生アルバイト、専業主婦のパート、年金を受け取っている人の補足的な労働などです。こういった立場であれば年収 200万円以下でもいいし、自らそれくらいのレベルで働くことを希望する人も多いでしょう。

したがって、そういう人の数の合計が「日本に存在してもいい時給の仕事数の上限」とも言えるわけです。反対にいえば、「生計の主たる担い手の数だけは、月給の仕事が必要」なのです。


では、日本の就業者(非正規雇用)のうち「生計の主たる担い手」と「それ以外の人」の数はどれくらいなのでしょう?

平成 19年就業構造基本調査(速報値)によると、現在の正規雇用者数は 3432万人、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員(大手のみ)の合計が 1889万人(オリジナルデータ→ http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2007/gaiyou.htm 速報値ベース)、あと自営業者が 670万人、経営者(役員含む)が 400万人です。ここまでで就業者数の合計は 6391万人となります。


非正社員雇用者合計 1889万人の内訳は
・高校生、大学生、専門学校生など学生= 177万人
・59歳以下の男性(学生除く)= 313万人
・59歳以下の女性(学生除く)= 1044万人(うち夫が有業の人の数は 504万人)
・60歳以上の人= 355万人(うち 75歳未満が 343万人)
となっています。


このうち、「生計の主たる担い手ではない」と推定されるのは、「高校生、大学生、専門学校生など学生」の大半と、「 59歳以下の女性で夫が有業である 504万人」および「 60才以上の人」の一部でしょう。

主婦の 8割が「主に夫の収入で生活している」と仮定し、高齢者の 5割が「主に年金や貯蓄で生活している」と仮定すると、学生とあわせて 758万人が「生計の主たる担い手ではない労働者」となります。

最も多く見積もって「夫が有業の人は全員が、主に夫の収入で暮らしている」「 65歳以上の人は全員が年金や貯蓄で主に生計を立てている」と仮定した場合は、(学生をあわせ)計 1036万人となります。

つまり、他に主な家計収入があり、「時給の仕事」でも食べていける人は、最も多くても 1036万人、妥当な推測では 758万人に過ぎません。

反対に言えば、非正規雇用で働いている人 1889万人のうち実にその半分が、「生計の主たる担い手でありながら時給の仕事で働くことを余儀なくされている人達」だというわけです。


企業や経済団体側はよく「非正規雇用は、多様な働き方の提供手段である」という主張をしますが、この数字をみる限り、企業側の主張は詭弁と言わざるをえないでしょう。

むしろ経営者には、この 1000万人近い「非正規雇用かつ生計の主な担い手である労働者」を正社員として雇えるよう、付加価値の高い仕事を創りだす責務があります。しかしそれは全く果たされていません。

非正規雇用に端を発する低所得者問題を収入増によって解決するためには、私たちは企業に対して「自社の非正規社員の半分を正社員に転換すべし!」という、極めて高い要求を突きつけることが必要になるのですが、企業側からすれば、これはほとんど実現不可能に思える水準の要求なのでしょう。


続く→ http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081120


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