雇用と利益、経営者と政治家

米国では企業経営者は利益を出すことに責任を負っています。

儲けることが経営者の責務だから、会社が赤字になって株価が下落、配当も減ると、株主が経営者を見限ってしまいます。

そして次の経営者を(多くの場合、外部から)連れてくる。


一方、米国では経営者が社員のリストラ、すなわち「解雇」をすることは全くとがめられません。

それどころか大半の場合、社員の大量解雇を通して会社の業績は回復するとみられ、リストラ計画の発表によって株価が上がります。さらに期末には実際に利益もあがったりする。

すると経営者はむしろ称えられ、ボーナスの額もあがります。

平社員の首を切り、自分の報酬を引き上げる。だから叩かれるわけですね。


この仕組みを一言で言えば「米国では、経営者は利益に責任を負うが、失業には責任を負わない」ということになります。

「利益と雇用」を比べると、経営者にとっては「利益」の方が圧倒的に優先度が高い。

だから雇用を犠牲にしてでも利益をだそうとする。それが「正しい経営者」だと信じられています。


★★★


とはいえ失業は米国でも大きな社会問題です。

自己責任の国だからと言って失業者、そしてホームレスが街に溢れてもいいと思っているわけではありません。

では失業者が増えると誰が責任を問われるか?

それは、経営者ではなく「政治家」です。


米国では失業者が増えると政権基盤が揺らぎます。だから、失業者がでそうになると政治家はすぐに「対日圧力」や「対中圧力」をかけてきます。

たとえば日本車に米国自動車メーカーが駆逐され、大量の失業者がデトロイトに溢れた時、政治家は強力な対日圧力をかけてきました。

今のターゲットは中国です。

中国からの安い商品の輸入で米国人の雇用が脅かされている、と米国社会が言い出すやいなや、米国内の、米国人の雇用を守るため、米商務省は中国と戦います。

このように、米国で「失業に責任を問われる」のは時の政権であり、政治家なんです。


★★★


さて、日の丸日本。

「日本の政治家は経団連とべったりだ! 派遣法の相次ぐ緩和など、労働者を犠牲にして大企業の言うことばかり聞く!」という人がいるけど、それは当然です。

なぜなら日本では、「企業が利益を出せるように環境を整備する」ことが政治家の責務だと思われているからです。


派遣法改正だけではありません。円安に誘導し、法人税を安く設定し、不況に陥った業界には補助金を出したり、利益が出易くなるように会計基準を変則解釈までします。

自民党にとって何よりも大事なことは「日本の景気がいいこと」=「日本の企業が儲かっていること」だからです。


じゃあ、誰が日本では雇用に責任を持つの??


企業です。
(正確には過去形かも・・)


日本では、政治が企業の利益に責任をもつかわりに、企業側、すなわち経団連が「雇用に責任を持つ」、「解雇はしない」というのです。

「首を切るなんて経営者として失格である!」と国の経済界の代表である経団連会長が公に言い切る国です。

「会社が株主のものだなんておかしい。従業員を守った後での株主だ」と彼らは言うのです。


この“ねじれ”

アメリカと全く逆です。


日本は経営者が雇用に責任をもち、政治家が利益に責任を持つという分担です。

だから企業は社会の“公器”と言われ、国は「株式会社ニッポン」といわれるわけです。


★★★


問題は、本来、競争に最適の組織体であるはずの企業が「雇用の維持」などという社会福祉分野を担当することです。

こんなことを「組織として重要なミッションである」と考えていたら、「競争」側で勝てるはずがありません。


しかも、資本取引が自由化され、海外の株主が日本企業の株を買うと、当然ながら、「利益をだせ」というプレッシャーがかかります。

最近は日本企業の株主にも青い目の投資家が入ってきました。

エクセレントカンパニーと呼ばれる会社ほど、外国人株主が多くなっています。こうした株主は、当然のこととして経営者に求めます。「利益あげてね」と。

だって経営者の責任は“利益”を出すことだから。


でも、日本の経営者は困惑します。

「えっ? それは日本では政治家の責任なんですよ。わたしらの責任は雇用を守ることなんで・・」とは言えません。

だって、世の中はグローバル化。という名のアメリカ支配。アメリカ様の言うことは聞かざるを得ない。


で、大論争。「企業は誰のものか」


「客だ、社員だ、株主だ」



大論争で勝ったのは?


当然、アメリカ様。


なので「企業は株主のもの」と決定!



で、「経営者の責務は利益をあげて株価を上げたり、利益を配当として株主に配ることだよ」と統一されました。経営者の目的は、利益を出すことだと明確になったのです。


えっ、でも・・日本の場合、政治家の目的も企業の利益を出すことなんですけど・・・
じゃあ・・・誰が雇用に責任をもつの? 誰が失業の責任を負うの??


こうしてこの国では、皆が「利益を出すこと」にそのゴールをおき、だーれも「失業と雇用」に目的と責任をおかないという状況が出現しているのです。


いえもちろん未だに「雇用を守ること」を「利益を出すこと」より優先し、経営者みずから「社会の公器として社会的な責任を果たしていく」とか言ってて・・・まったく利益が出せなくなってる企業もありますけどね。


ぶー



そんじゃ。


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