二度目「そんなん言うなら辞めます」

福田首相の突然の辞任の件、ニュースやブログでは安倍さん辞任時との比較が多いみたいですね。「二代続けて突然に」みたいな。でも、ちきりんが今回の福田さんの辞任会見を見て思い出したのは安倍さんの辞任ではないです。むしろ福田さんの“前の”辞任の時のことを思い出しました。

この人、小泉政権の時の官房長官だったんです。年金未払い問題で辞任したんですけど、あの時の辞め方と今回の辞め方は全く同じです。同じ人だから当然かもしれないけど。

今回の会見を見てちきりんは思いました。「ああ、この人のこの辞め方二度目だ」と。


前も今回も「もういいです、僕は」っていう辞め方なんだよね。

年金未納問題の嵐が吹き荒れた時いろんな人が辞任したけど、大半の人はなんだかんだ理屈をこねて辞任を渋った。「なんでこんなことで大臣辞めなあかんねん!?」って感じだった。福田さんもそれらの人をかばっていた。ところが、自分の未納問題が文春に載ったら超スピードで「辞めます」と発表した。「ええっ??そんなあっさり辞めるんだ?」と驚きました。今回と同じです。

というわけで、福田さんは2回とも「同じ辞め方」をしました。官房長官も、首相も同じように辞めたんです。

★★★

この人、「皆が僕にやるべきだと言うならやります。」って人なんです。PTAで会長選ぶ時とか、そういうのあるでしょ。「ここはやっっぱり○○さんにやっていただかないと。」「そうですよ、そうですよ」「ほんとですよ、○○さん以外に誰もつとまりませんよ」みたいな感じで選ばれる人。

そういう選ばれ方の人なんですよね、福田さんて。


小泉さんの次の総裁を選ぶ選挙。安倍さんと一騎打ちする必要がある時にはこの人は出馬しないんです。「負けるかも、勝つかも」みたいな勝負はしない。つーか、そういうのを“勝負”というわけだから、この人は「勝負はしない」人なんです。

安倍さんの後みたいに「ほぼ全員が」「ここはやっぱり福田さんにやっていただかないと」って言わないと、引き受けない。最終的には町内会長に収まる、町内の、裏の家のおじちゃんみたいな人です。


なので、誰かがちょっとでも反対したり支持を取り下げ始めたら、すぐ辞める、んです。必死で抵抗したりはしない。しがみついたりはしない。最後までがんばったりしない。(←これを本人視点で言うと“僕は客観的にものが見られる”ということです。)

「そんなん言うんだったら、僕辞めます。」って言われて、これじゃあ文句を言った方の人が寧ろ驚かされる。「ちょっと言うてみただけやのに、そんな極端なこと言わんでも・・」「辞めんでもえーやろ、そんなことぐらいで。」って感じ。「飯がまずい」って文句言ったら「離婚します」って言われたようなもんです。こっちはびっくりするが、相手はいたって冷静。


そういう感じ。

前の辞め方も今回の辞め方も。


小泉さんも麻生さんも誰も支持してない時から選挙に出まくるでしょ。「オレがオレが!!」なんです、彼らは。こういう人もいるよね。やたらとうるさい。「オレがオレがオレ様が!!」って人。「うっせーなも〜」と思っていると、そのうち当選していたりする、ってやつです。


つまり福田さんって「昔の日本のコミュニティの長」なんだよね。皆に、8割以上の人に支持されて「ここはひとつ○○さんに!」で選ばれる人。小泉さんや麻生さんが「選挙で選ばれる人」(もしくは選ばれない人)なのとは全く違うモデルだと思う。

★★★

というわけで、彼は「自分が(総理総裁として)選挙をする」というのも最初から全く考えてなかったと思う。


繰り返しますがこの人、“勝てるかも、勝てないかも”の選挙なんてしない。父親が首相じゃなければ絶対政治家なんかにはなってないよね。それどころか父親が政治家でもなろうとしてなかった。でもお父さんが高齢になって自分も40歳になって、しかも後継者の弟が病気になっちゃって、んで周りから「ここはひとつ康夫さんにやってもらわなどーにもならん」って言われてから初めて出てるんですよ。上に書いたのと同じパターン。

中学生の頃から父親の選挙活動を手伝ってた安倍さんとも全然ちゃいます。周囲全員が「ここはひとつ康夫さんに」と言ってくれ、「選挙のことは全部我々がやりますから心配しないでください。康夫さんは出馬さえしてくれれば後は任せて」と言われれば、やっと「ん〜、まあ皆さんがそこまでおっしゃるなら仕方ないですね。やってあげますか、フフン」って言う人なんです。


だから最初から「来年の9月までのどこで辞めるか」を考えていた。だって来年の9月まで首相だったら否応なく自分が選挙やらないといけなくなる。そんなのありえない。もちろん解散して自分で選挙するなんて全く「想定外」。


一貫して「選挙は次の総理総裁にやってもらう」つもりだったんでしょう。そのためには来年の9月までのどこかで「次の総裁」にバトンを渡す必要がある。そのタイミングをいつにするか。最初からそう考えてた。とすると選択肢はふたつ。

ひとつが今、そしてもうひとつが来年の早春。


なんでか?

★★★

選挙をするのは次の人だとしても、当然自民党が勝てるタイミングを選ぶ必要がある。自民党が勝てる可能性を少しでも高めるためには、ひとつは「自民党総裁選」→「衆議院解散選挙」が連続する必要がある。“自民党総裁選をマスコミで大々的にとりあげてもらった余波”が衆院選を戦うのに必要不可欠だ。

もうひとつ「時間切れ衆院選挙」はだめなんです。「何かの政策論点で民主党と対峙して、それを争点にした解散選挙」が必要。そうすると選挙の争点を「民主党と対峙した課題」にもっていけるでしょ。たとえば「郵政選挙」みたいな例です。

争点を「自民か民主か」とか「政権交代ありかなしか」にすると負けるとわかってる。だからなんらか政策上の争点を探す必要がある。その争点で国会で民主党と激突して、で、「国民の真意を問う!」といって解散。このパターンしか自民党は勝てない(それでも勝てないかも、な状況だ。)

このためには「総裁選」(マスコミがとりあげる)→「国会審議」(民主党と、なんらかの政策争点で対峙し、その点が注目を集める)→「解散」(争点は政権交代ではなく政策争点)という流れが必要。


来年の通常国会中の解散の場合は、今回の臨時国会は乗り切り(消費者庁?とかなんとか、自分のテーマでいくつかでも成果を出し)、来年の国会の前半で総裁を変わってもらって・・・というパターン。

でも、今回軽くつまずいて(公明党問題含む)、“ああ、今回の臨時国会を自分でやってもなにひとつできないな〜”と明確にわかったんでしょ。「だったら、今の段階で次の人に譲った方がいい」と考えた、ということかなと。

どうせ来年9月までの「どこか」で次の人にバトンを渡そうと考えていた。検討していたのは辞任の「タイミングだけ」なわけですから、少々それが早まったのは彼にとっては大きな決断でもなんでもない。突然でもなんでもない。「自分自身を客観的に見たら」「今でも来年早々でも変わらん」と判断した、ってことでしょう。実際そーだし。


てな感じかな。と思います。

★★★

最後に追加ひとつ。「あなたとは違うんです」発言が盛り上がっているようですが、ちきりん的にはこれよりも冒頭の「次から次へと積年の問題が顕在化してきてその処理に忙殺された」という部分の方が印象的です。

これってつまり「前任者がひどかったから尻ぬぐいに忙しかった。だから自分の政策に手をつけることができなかった。」って言っているわけでしょ。

確かに彼は消費者庁とか中国や韓国との新しい関係とか拉致問題解決とか、いろいろ「自分だったら」という構想はあったんだよね。でもそれは全然実現できなかった。

「それは、小泉と安倍のせいだ!」
と言ってるわけね。




「指導者」「リーダー」の資質の欠如は、こっちのほうが如実に表していると思わない?



「オレが実力を発揮できなかったのは、あいつのせいだ」という人に、誰がついていく?



あんたの政策がなにひとつ実現できなかったのは、誰かのせいじゃないよ。あんたのせいですよ。


それとも・・・

「ここはひとつ福田さんしかいない。なんとかお願いしますよ。」と8割の人が言ったから自分は出てやったのだ。引き受けてやったのだ。それなのに何で自分の意見が通らない?なんで自民・公明からも反対される?自分の意見が通らないとしたら、それはアホな誰か他人のせいだ。小泉と安倍と小沢のアホのせいだ!

とおっしゃりたい?



誰やねん、こんなん選んだの?



てか、「日本の昔のコミュニティの人の選び方」は、もうこれで終わりになると思います。


能力は少しくらい劣っても「なんとしてもオレがやる!」という人にやらせたほーがいーのかも。

★★★


ところで、民主党にも同じタイプの人がいるよね。


「皆がそこまで言うなら引き受ける。」

ほーんのちょっとでも異論が出ると
「そんなん言うなら、オレはもうやらん」と言い出す。



そういう人、いるでしょ?


ねえ。