私は昔、いわゆるバックパッカーというか放浪系の海外一人旅をしていて、その頃よく「なんでこれって日本にないの?」と思っていたのが、大規模バスターミナルです。
一番ナイスなのは中南米や南米。あのあたりって長距離旅客輸送におけるバスのシェアがすごく高い。
最近ではブラジルなど、国内線飛行機に乗る人も増えてるけど、貧しい人は飛行機には乗れないし、そもそも小さな町には飛行場もありません。
当然、自家用車を持たない多くの庶民にとって、バスは唯一の長距離移動手段なんです。(念のため書いておくと、鉄道網もありません)
一方、たいていの街や村にバスターミナルだけはあって、その路線網たるやすごい密度で国土をカバーしています。バスに乗ればほぼすべての村に行けてしまうというくらい。
もちろんバスはおんぼろで、大半が欧米で使い古された中古バス。それがまたウン十年使われてる。
そういえば昔、ベトナムでは京都の市バスが走ってましたね。今でも日本の中古バスの多くは、アジアに売られているのでしょう。
南米のバスは日本よりかなり早いスピードで走るけど、高速道路じゃないし国土もでかいので、丸 2日間バスに乗り続ける、みたいな場合もあります。
でも、この“一昼夜のバスの旅”ってのがバックパッカーにはなんともいえず情緒があって、まさに旅の醍醐味なんです。
私も長距離バスに加え、バスターミナルそのものが“陶酔”できるレベルに大好きでした。
大都市の長距離バスターミナルは巨大な建造物で、排気ガスでグレーにくすんでる。
周辺には路上で夜をすごす宿賃を払えない(払いたくない)人たちが寝そべっている。
建物の中では様々にごちゃごちゃな旅人達が交差する。
誰彼なく話しかける客引きや物売りの子供たちも。
排ガスをまき散らす巨大で壊れかけたバスの大列は真夜中まで発着を続けてて、
泣き叫ぶ子供を背中にくくりつけ、何人もの子供達を引き連れるお母さん。
片隅に座り込む片足のない物乞いに、大声で喧嘩する人たち。
そういう喧噪と埃の中で、たった一人で、何時間もその景色を眺めているのが大好きだった。
楽しいというより陶酔してしまう感じ。フェリーニの映画の世界のような、何か特殊な側に入り込んでしまう感覚。
静かな興奮と奇妙な幸せ感とともに、何時間も何時間もバスターミナルですごした記憶があります。
自分のバスが来て乗り込むと 1時間後に出発。真っ暗闇の中をバスは疾走する。
高速道路ではなく一般道路。ところどころ舗装も途切れてるし、もちろん街灯もないから、バスのライトが照らす数メートル先までしか明かりは届かない。
それでも相当のスピードで時に大きくジャンプしながら一気に闇を切り裂いて進むおんぼろバス。
数時間に一度、休憩するんだけど、真夜中だというのにほとんど裸のような少年達が闇から現れ、しなびた果物や奇っ怪な食べ物を売ろうとする。
トイレは板垣の中に穴を掘っただけのような簡易版。近寄りたくないと思える異臭と顔に激突してくる巨大なハエ。
固い座席に耐えられず、まずはバスを降り、トイレを済ませ、ストレッチ。
集まってきたモノ売りから、いくらかマシに思えるオレンジやバナナを選んで買う。
決してカメラを出して撮影しようなどとは思えない光景。
バスが再度走り始め、強い眠気が襲ってきても、まずは鞄や貴重品をあちこちにくくりつける。
バスに乗り込む悪党達にとって、ちきりんなんて本当によいカモだから。
明け方に見知らぬ街のバスターミナルに着いた時もほんとうに感動する。
出発地の大都市の巨大ターミナルとは異なる、田舎の寂れた、平和でほっこりとしたバス乗り場。
薄ら明るい夜明けに、薄い豆の皮が浮いたスープを売る屋台と、立ったままそれを両手に抱えて大事そうに食べている人たち。
ちきりんが大きなバックを肩にしょって歩き出すと、多くの客引きがやってくる。
私が今日泊まるホテルを探いていることは、すべての人にとってあまりにも自明のことだから。
・・・と、んなこと書いてると長くなるので、話を長距離バスに戻します。
長距離バスは欧州、そしてアメリカにもあるよね。
アメリカでは“グレイハウンド“が大手かな。他に、各地のチャイナタウンをつなぐ“チャイナバス”が最近は人気。
欧州でも大都市には結構大きなバスターミナルがある。
というか、そもそもこの欧州のシステムが植民地政策とともに南米に持ち込まれたんじゃないかな。
国際列車、飛行機網ともに発達している欧州でも“長距離移動手段のバス”は一定の地位を占めている。
加えて韓国ドラマを見ていると、すごくよく“長距離バスターミナル”がでてくる。
ソウルのそれはかなり大規模で近代的。バスもとても快適そう。
それにしても、なんで日本は長距離バス文化がないの?
日本の特徴は鉄道網が異常に発達してること。
どんな辺鄙なところでも、バスではなく鉄道を誘致しようとする日本の行動はかなり異常な気がする。
バスが一日 2便到着するのは問題ないけど、すんごい立派な駅舎を作って停まる電車が一日数本とか、持つはずないじゃん。
で、ずっと思ってた。「なんでだろ???」って。
なんで日本には長距離バス文化がないのだ?って。
ただ最近は、東京駅の八重洲口だったり、、京都駅だったりに夜に行ってみれば、少しだけあのバスターミナルの雰囲気が味わえる。
今、東京駅と各地方を結ぶ格安バスが大人気だから。夜中になると駅の周りでバスを待つ人たちがすんごい賑わってる。
ようやく日本にも長距離バス文化が! と思うと同時に「ああもったいない」とも思います。
やっぱり多くのバスが集中的に発着する長距離バスターミナルを、東京にも是非作ってほしい。
そして日本中に向けて走るバスを夜中に出発させてほしい。
東京駅、あんなごちゃごちゃなバス乗り場を放置してたら、そのうち事故が起るだよ。
それにバス乗り場が広くなったらもっとバスも路線も増えて経済効果もあるですよ。観光促進にもきっとメリットあるよ。
なので、(誰の役目だか知らんが)検討してね!