昨日からまたショッキングな感じの数字がメディアに踊ってますねぇ・・雇用環境の悪化の件ですけど・・
この件、永田町と霞ヶ関にあまりに危機感がないのでどーするの?と思っていましたが(これ→*1)、地方団体が年末にかけてそれなりに機動的に動き始めているので少しは救われる人もいるかも。関係者のがんばりに期待です。
ところで、今回のことで“派遣法”等に関して多くの“立法へのヒント”が得られた気がするのでまとめておこーと思いました。派遣法に関しては是非そのものに関する議論がある一方で、必ずしも正社員との“同一労働・同一賃金”を叫ぶだけではなんの解決にもつながらないことは以前にも書きました。(これ→*2)
また“日雇い派遣”に関しては全面廃止もありえると思うけど、有期契約や数ヶ月の派遣労働自体を全部禁止にするというのは需給両方のニーズから考えてもありえない、と思います。
であれば、この危機で起こったことをきちんと受け止めて、次の派遣法の改正に何を求めていくべきなのか、なにを修正していくべきなのか、という実務的かつ立法論的な視点から私たちが学べることはたくさんあるだろうと。ってか、そういう意味では今の状態はあまりにもすばらしいヒントをたくさん投げかけてくれているともいえるわけで。
で、ちょいまとめておこうかな、と。
★★★
まず第一に、2年間継続的に働かせたら“強制的に正社員とする”と決めたいところなんですが、それは無理だとしても“法的な立場としては正社員と同等とみなす”という規定を作るべきかなと思います。
9年間も定期的に契約を更新しながら有期雇用で働いてきた日系ブラジル人が解雇されて(会社側は“更新しなかっただけ”と言ってます・・)地位確認訴訟を起こしているけど、これは雇用側の企業、あまりに破廉恥でしょう。こんなあからさまな人権侵害を許してはいかんと思います。
この“2年継続”とかいうのを、雇うたびに工場を変えたり部署を変えたり1週間ほどの間をあけたりして“継続的な雇用ではない”とか主張するアホみたいな企業がでてくるのは目に見えているので、ちゃんと条文に“実質的に2年間以上の継続雇用があるとみとめられる場合は”って書いておいてくださいね、って感じです。
つまり“実際には正社員を雇う必要があるのに、(正社員の解雇が難しいからという理由だけで、解雇が容易い)有期契約で人を雇う”というのは一切許さない、と。そういう趣旨の立法が必要だと思いました。
二番目。有期契約の人を雇う場合に、地方行政団体に一定額のデポジットを納める、という制度を作るべきでは?請負で業務を委託する場合も同様に現金を預けさせる。
たとえば3ヶ月の有期雇用者を雇った場合、月に2万円程度、3ヶ月なら6万円を“預かり金”として近くの市町村に払わせる。この人が2年働くと48万円が預けられることになります。上限をこの2年分にすればいいと思うのですが、これだけの預かり金があれば、その人が契約未更新になった時にとりあえずこの48万円を渡すことができますよね。
テレビ見てると派遣で失業した人が昨日の段階で生活保護申請とか言ってたけど、生活保護ってそんなすぐに現金もらえません。兄弟の家まで確認したりするわけだから。また、海外から働きにきてるとか期間が細切れという理由で雇用保険も支払われない人も多い。でもこういう“契約打ち切り支援金”のデポジットがあれば“非正規雇用”の人全員に対応できるし素早い支払いができそう、それだけあれば数ヶ月は寝食はまかなえるし。
で、その非正規雇用の人を正社員化した際には市町村はこのお金を企業に戻せばよいと思います。それが正社員化のインセンティブにもなるし。月2万円のコスト上乗せって高いと思うけど、非正規社員のコストを少しずつ高くしていくことこそが、企業にプレッシャーをかけるいい方法だと思います。
三番目。工場にしろ会社にしろ、大規模なところに関しては正規雇用社員の比率を決めちゃったらどうよ?と思う。300人の工場で雇える非正規社員は30人まで、とかね。それ以上雇う場合は事業所税を追加で○%アップとかにしちゃえば?
もちろん、おじさんひとりでやってる町工場が3人の非正規雇用ってのは「もうこうしないともたない。しゃーない」っていう下請け企業の場合もあると思うんでとりあえず免除して、100人超えるような工場や会社だけ規制するとかでいいと思うのだけど。これも一定の歯止めを決めたほうがいいと思います。
ちょっと異常だよね。いくら大企業だからといって「数千人の非正規雇用」って変じゃない?非正規雇用の人の数だけでも“大企業”の規模になってんじゃん。なにそれ、って感じです。
そしてもし、そうでもしないと工場が日本に維持できないというなら、もはや工場ごと海外に移すのもやむなしではないかと思います。確かに雇用は失われる。だけどそのほうが皆が危機感を共有できるよね。沖縄の基地も同じですが、今のような一部の人だけに負の部分を押し付けるという方法ではいつまでも大多数の人は“他人事”にしか感じない。日本全体として“なんとかしないと”というようにならないと派遣問題の後ろに隠された本質的な問題である正社員問題であり生産性問題に手がつかないよね。
今問題にあふれているのは“日本全体”であり“日本のやり方全体”であるはずなのに、その咎めはごく一部の人だけが負担している。それはやっぱりちょっとフェアじゃないよね、と思います。
ちなみに大規模な一斉解雇が起こりにくいという意味では少し状況が違いますが、大規模なファーストフード店とかも24時間営業の店でも正社員は店長一人とかでしょ。これもいかがなもんかと思います。小さな店はともかくとして全国チェーンの大規模店には一店舗あたりの正社員数を規定するとかアリじゃない?あの人たち(正社員の人)も異常な働きぶりというか。働かせられぶりというか。ちょっとひどいよね。
最後、四つ目。非正規雇用社員を一定数以上(500人とか)抱えてる企業は「政治献金禁止」にすれば?献金してる金があるなら一人でも二人でも正社員化しなさい、って感じだ。ってか、この施策の目的は、政治献金がもらえなくなる政党、政治家側が企業にたいして「非正規雇用を減らしなさい」っていうプレッシャーをかける理由をつくること。これなら政治家も真剣に企業に要請する気になるでしょ。
まとめると、
一番目:“偽”の非正規雇用をなくすこと。
二番目:非正規雇用を利用する企業にセーフティネットのコストを払わせ、備えさせること。
三番目:非正規雇用の全体数を抑える方策を、大企業には義務付けること。
四番目:この問題に関する政治へのインセンティブを仕込むこと。
★★★
いずれも企業側、経団連側が簡単に合意する話ではないとは思います。ただ、今でている“余剰金を切り崩せ”という案は、これだけ短期流動性に不安がある時期に企業が合意するとは思えない。もらいすぎ中高年正社員の待遇も長期的には切り下げていく必要はあるけど、今の段階でそんなことしても国全体の不安感を増やすだけでしょ。つまり今のこの時期に進める策としてはなかなか難しい、と思うのです。
一方で今はどの企業も非正規社員を増やしたいとはまったく思ってない。そういう時期こそ“非正規社員を雇うとコストが高くなる、面倒な規制が増える”という方向の法律をつくるにはベストな時期なんじゃないかと思います。今は企業はどうせどんどん非正規雇用をきっているのだから、その底あたりの時期に「今後は非正規雇用を雇うなら預かり金を払ってね、政治献金は禁止ね」とか「工場内の非正規雇用の割合は1割以下ね」とか決められても当面は全然困らないわけで。
だからこそこの時期に仕込んでおくべきかも、と。実際に非正規雇用を増やす必要がでてきた時には企業はそのコストをあげるような法律には猛反対するでしょ。だから今考えて、今法案にしておけば?と思いました。
地方行政当局やNPO、契約社員向けの労組の方とかは、現時点では不当解雇と闘ったりセーフティネット確保に多忙で精一杯だと思う。でも民主党とか共産党とか政党レベルの人たちは今よく勉強して次の危機に備えた立法を考えるとか、そういう別の次元で役割を果たすのもありなんじゃないかと思う。立法府にいるってことはそういうこと=そういう役割を期待されているってこと、なんじゃないのかと思ったりもする。法律作れるのは立法府にいる人だけなんだからさ。
★★★
まあとにかく、自分に関係あるないは別として、何年も工場で働いてきてこの年末に家もないって、そんな人がたくさんいる国じゃあかんだろ?と思います。そして今、多くの人が同じように感じていると思います。なのだったらみんなが知恵をだしあって、ちょっとでも明日がよくなりますように。まじでそう願います。
あ〜ら、ちきりんったら超いい人。
↑
なんだそれ?
そんじゃーね。
。
*1:2ヶ月前のエントリがこちら→“あまりに危機感のない人たち”http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081202
*2:同一労働・同一賃金 http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081213