先日から書いている「個人金融資産1500兆円」は、まさに日本の「内需拡大」の鍵となるものです。(1500兆円の内訳は*1)
不況を抜けだし自律的に経済を復興させるためには、従来の輸出産業の復興に加えて内需拡大も必要です。
「外需」とは他国にとっては「内需」ですから、世界同時不況の時は、どこの国も「自分の国の内需は自分の国の労働者の雇用維持のために使いたい」と考えます。
日本企業が「中国やアメリカの内需」を彼等の国の企業より先に取り込んで立ち直るなんて、彼等からみたら「おいおい」です。
では、そもそも人口の減る日本で内需拡大をするというのは可能なのでしょうか?
可能です。その答えが「ここにある」と思うから、ちきりんは個人金融資産の話を書いているわけです。
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まずはこの“規模感”を実感してください。1500兆円というのは、その利子 1%分でも 15兆円です。これは日本の一年間の個人消費総額である 300兆円の 5%にあたります。
つまり、この資産をもつ人が、元本は全く使わず利子分だけ(現在より)使ってくれたら、日本の個人消費は 5%増えるのです。
それはGDPが 2%以上増えるということであり*2、しかも貯蓄の元本は全く減りません。つまり「お金を使ったら(元本が減って)老後が不安」などと思う必要さえないのです。
それくらい「個人金融資産」ってのは巨大なんです。たしか定額給付金の財源は 2兆円くらいです。個人金融資産のたった 1%が動くだけで、給付金の7倍以上の効果があるのです。
この低成長期に 1%の利子なんてついてないだろ?とおっしゃる方もあるかもしれません。
今の利子は確かに低いのですが、日本の個人貯蓄には保険や年金商品など超長期の商品が占める割合が高く、それらの中には 2%から 5%もの予定利率の商品も含まれています。
また、長期の国債で運用されていて 1%で 10年くらいまわっているものもあります。
けれど、昔の保険は分配型ではないので、それがいくらで回っているのか誰も知りません。わかるのは本人が死亡した時で、えらいどっちゃり戻ってきて「ひえ〜、こんなため込んでたんだ、うちのオヤジ」といって 55才の息子が驚きつつ、、、
その財産を相続して自分の老後のためにまたもや貯金するんです。*3
これを放置していると、この 1500兆円の大半は塩漬けされたまま日本経済に全く貢献しない資産になってしまいます。
85才の親から 55才の子供に相続されて引き続き貯金され、未来永劫誰もこのお金を使わないってことになるのです。これってあまりにも馬鹿げたことではないですか?
利子がいくらかという議論が面倒なら、別に利子はゼロだと仮定してもいいんです。だって 1%毎年使うだけなら、「元本を減らして使っていっても、残高がゼロになるのに 100年かかる」んですから。
50歳以上の人達が自分の資産の1%だけを切り崩して使ってくれれば、彼等が 150才以上になった時に残高がゼロになります。
“老後が不安”なんて幻想でしょ?
少なくとも経済的な意味では。*4 150才以上になった時に貯金ゼロでもなにも問題ありませんよね。
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現時点で高齢者向けのビジネスがないとはいいません。
これだけ急激に高齢者が増えているのですから様々なビジネスがその人達向けに照準を合わせ始めています。しかし、彼等の資産は相変わらず増え続けています。
この額が 1200兆円と言われていたのが 10年ほど前です。この 10年で資産は 25%も増えたのです。*5
ということは、まだまだ“お金を使わせる側のビジネスが”全然足りてない、ということなんです。
“一定の資産のある金持ち高齢者向けのビジネス市場”は、ある程度は存在しているとはいえ、まだ「黄金の可能性に溢れた市場」として残されています。
一方で若者向けのビジネスは、彼等が給与の範囲内では暮らせないと思うくらい(消費者金融で借りたくなるくらい)様々な“魅力的な”サービスやモノが開発されています。
若者人口なんて急激に減るのだし、貯金は持ってないし、稼ぎもどうせ大きくあがるわけでもない。なのになんでそんな市場に焦点をあててビジネスする?
たとえばiPhoneならいいのです。世界で売れるから。
世界で売るなら若者はたくさんいます。なので若者向け消費を出すのもアリです。が、日本でしか商売しないのに「若者向け」の商売をやっていても限界がでてきます。一方で、資産の巨額さを見るに、「高齢者向けビジネスはまだまだ圧倒的にチャンスが大きい!」のです。
で、じゃあなぜそこに目をつける事業家がもっとでてこない?という話で、先日は「金融以外の会社は、消費にしか目をつけず、貯蓄側は金融機関に任せっきりだから」という話を書きました。
そして、最近「もうひとつ理由があるよね」と思い始めました。
それは“アクティブシニア”という言葉です。この言葉こそが、ちきりんはこの件に関する「ターゲッティングの過ちを象徴する言葉」だと考えています。こんな言葉を使ってるから高齢者市場が開拓できないのです。
*1:2008年12月末の個人金融資産の内訳は、現預金774兆円、株・投信146兆円、債券43兆円、外貨預金4兆円、保険年金402兆円、その他66兆円、合計1435兆円。出典は一番下の注記に書いたサイトです。
*2:個人消費はGDPの 55%にあたります。
*3:相続税を上げる案を主張する人もいますが、今 50才の人は平均寿命まであと 30年近く生きるわけで、余り即効性のある案ではないでしょう。
*4:高齢になるほど格差が大きいので貧乏な高齢者はたくさんいます。 ここで話しているのは“ 1500兆円を持ってる側の人”の話です。
*5:今回の金融危機でこの資産は減少していますが、市場の動きからみると損害は非常に小さいです。市場商品の比率が少ない日本の資産の特徴がよく表れています。→http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20090130/184440/
それにしても株高の頃は1600兆円近くになってたんですね。