ワライバと新自由主義経済

昨日ワークライフバランスについて書いていて、ふと“これって別の観点から書いてみてもおもしろいかも”と思った。

なんだけどその前に“ワークライフバランス”ってやたら長いので、今日は“ワライバ”と略すことにするです。

で、そのワライバと、とある経済理論(主張?)が構造的に似てる気がしたので本日はその話を。


ある経済理論ってのは、例の「減税して規制緩和して経済を活性化させれば、企業が儲かり経済全体のパイが拡大する。それを続けていれば全体として経済レベルが底上げされ、そのうち“下々のモノ”にもお金が回ってくる。なので、みんなハッピー」みたいな理論です。新自由主義経済と呼ぶのが正しいのかどうか、呼称はよくわかりませんが、そういうやつね。

で、この経済理論は“下々の方”に言わせると「嘘つくな、俺たちのとこになんて全然金は回ってこなかったぞ!」ということだろうし、主張者側に言わせると「まだまだ改革が中途半端だから皆様のところまでメリットが届かなかったのです。つまり改革が足りなかったのです!」ってことになる。

どっちが正しいかはちょっとおいといて、ワライバの話に戻ります。


ワライバも同じ構造にある、と思うんだよね。政府は労働規制を強める時にたいていまず大企業にそれを推進させます。だって産休や育児休暇はもちろん、中小零細企業の中には「全員が有給休暇を完全取得したら、事業が立ちゆかない」くらいのところだってあるわけで、監督省庁側まずは大企業に制度を徹底させようとする。

なので労働関係の規制では「資本金○億円以上の企業は」とか「社員数○○○人以上の事業所では」みたいな感じで規模を限定して規則を適用したり罰則を科したりすることがよくある。


この「労働規制の強化は大企業から」という方針は、景気のいい時はそれでいいような気がするわけ。まずは大企業から「有休の完全取得」とか「産休取得の推進」とか「男性の育児休暇取得事例を作ろう」とか順次普及させて、そのうち中小企業でもそれが当然の時代が・・、みたいな。実際、週休二日制なんかはそういう順序で普及したと思う。

でも景気が悪くなると、若干ややこしい。大企業だって派遣社員を全部切り、正社員の早期退職プログラムを導入してるところがある。でもそれらの企業では、引き続き「男性の育児休暇取得制度を推進しましょう」って話もやってるわけで、これはなかなかに複雑な思いの人もでるだろうなあ、と思うわけ。

だれかが育休をとってもその人のコストは普通ゼロにはならない。加えて会社は誰か別の人にその仕事をカバーさせる。すると必ず一定の二重コストがかかる。その分は当然、全体の「経費削減必要額」に上乗せされて、別の誰かの雇用が脅かされることになる。

なので、「一方で首切りしながら、他方の社員についてはワライバをどんどん改善していくってどうよ?」みたいな意見もでてきそうだ。


ところで、“いやいや、育休をとった人のカバー分の雇用が増えるんじゃないか?”という、“ワライバはワークシェアにつながるはず”という意見もあるかしら。そうなるなら正社員の待遇改善により“下々”までメリットが及ぶ、といえる。

のだが、実際にはおそらくそうはならない。仕事は“恵まれた人達”だけの間でまわっていて、下には降りてこない。切られていく人達と、“育休をとる人&その代替の仕事をする人”は全然違う層なのだ。(この点に関してはこちらのエントリでも→http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20070328)


この点も経済の方の話と同じなのよね。“順次下にも降りてきますよ”と言われた富の配分は結局上の方だけでぐるぐるまわってしまうのでは?と思われる。

なんか似てるでしょ。



ふたつの話の構造を対比してみるとこんな感じ↓


新自由主義経済の反対派:企業や金持ちのための減税をする前に、末端の国民の福祉に金を回せ!

ワライバの反対派:恵まれた正社員のワライバを整える前に、末端の派遣社員の契約を継続しろ!!


新自由主義経済の主張者:いえいえ、福祉にお金を回してもすぐに消えてしまいます。まずは企業や金持ちにもっと稼げる環境を整え、そうしたら、あなたたちにも“そのうち”お金が回ってくるようになりますよ!

ワライバの主張者:いえいえ、派遣社員の契約継続にお金を使っても日本の労働環境は全く改善しません。まずは公務員や大企業の正社員がワライバに働ける環境を整え、そうしたら、あなたたちにも“そのうち“ワライバ的環境が回ってくるようになりますよ!


みたいな。



ちきりんは別に上記のような論争が今起こっているよ、と言っているわけではないです。単に「実際に派遣社員を全部切って正社員の残業も賃上げも凍結している企業で、正社員のワライバ推進には継続的に取り組んでいる企業は結構あるでしょ。」って言ってます。「世界同時不況で大変な時だから、育児休暇制度は当面ストップしましょう」みたいな話は聞かないよね、と。

ていうか、少なくとも公にそういうことを言う企業がでてきたら、かなりたたかれるのでしょ。経費削減は問題ないが、ワライバ後退は許されないことなんだな、と。いや、それはそれでいーんだが・・




かくして労働環境って益々格差が大きくなるんだよね。


っていうのも、経済理論の方で起こったことと同じじゃん。



と思ったわけ。つくづくこのふたつって似てる・・・。



そんじゃーね。