韓国100年間の指導者達 (追記あり)

韓国の盧武鉉(元)大統領が自殺とのこと、びっくり!

韓国で退任後の大統領が逮捕されるのは珍しくもないし、時には死刑判決を受けたりする国なんで、ニュースで元大統領の逮捕が近いと聞いても「また?」って思った程度でした。

でもやっぱりご本人にとっては「だからってまさか自分が逮捕されるなんて!」ってことだったんでしょうか。ご冥福をお祈りします。


で、この機会に「過去100年の韓国(朝鮮半島南部)の最高権力者」について年表諷にまとめてみました。(追記注:最初にこのエントリを書いた2009年までの100年です)

星のついているのが今回自殺した盧武鉉氏ですね。



これを見ると、朝鮮半島の近現代ってほんとに大変な歴史です。

100年のうち 3分の1以上は日本の植民地にされてるし、日本が負けてやっと独立できると思ったらアメリカの管理下に置かれ、

冷戦による米ソの代理戦争に巻き込まれて国土が焼き尽くされます(青いところ)。

その後、比較的おちついてきた最近でさえクーデターによる軍事政権(グレー部分)時代が3分の1を占めてて民主化したのはごく最近。

選挙で選ばれた(いわゆる文民の)大統領はピンクとオレンジのところだけなんです。

ちなみにオレンジは保守(対北強行=反共、親米親日)政権で、ピンクが革新(北寄り太陽政策、嫌米反日)政権。基本、韓国の政権はこのどちらかに属します。


さらに詳細をみるため、建国以来の大韓民国の大統領について、バックグラウンドや任期中の時代背景をまとめてみました。


(1) 李承晩 イ・スンマン大統領 
1948年7月〜1960年3月(12年)・・・上の表の青いところ

・没落両班(両班=ヤンバンとは李氏朝鮮時代の官僚階級のこと。支配者層ですが、日本の武士と同様、経済力は様々でした)の家に生まれています。

・日本(日帝)からの独立運動に参加して逮捕され、拷問を受けて米国に逃れました。その後は帰国まで、海外から独立運動に携わっています。

・日本の敗戦を受けて帰国し、CIAの支援で大統領に就任。共産主義(北朝鮮)のことも日本のことも忌み嫌っていました。(この時代の話は“ソウル1945”という韓国ドラマに詳しい)

・彼の在任中は、日本から独立した喜びもつかの間、米ソの代理戦争に巻き込まれ、北朝鮮との朝鮮戦争で国土が壊滅的な被害を受けた時代です。

・しかもこの頃、韓国は経済的にもアメリカの援助なしには立ちゆかない最貧国状態で、むしろ北朝鮮のほうが豊かな国でした。

・最後は長期政権となり腐敗を極めたため、怒りまくった国民の民主化要求暴動により失脚。すぐに米国に亡命し、そのまま現地で死亡しています。


(2) 尹普善(二文字目は本当は“さんずい”に“普”という字)ユン・ボソン大統領 
1960年8月〜1962年3月(2年)

・元ソウル市長で、一貫して政治家だった人。国会議員による間接選挙で大統領に就任しました。

・つかの間の民主化時代でしたが、朴正煕による軍事クーデターに遭い、短期政権に終わります。

・この時期、政界、財界とも韓国は混乱を極めており、動乱・政争の中でクーデターを阻止できませんでした。


(3) 朴正煕 パク・チョンヒ大統領
1963年10月〜1978年7月(15年)

・貧農の生まれ。満州国軍軍官学校出身。←事実上、日本の軍人として教育を受けた人です。軍事クーデターで権限を掌握し、その後、大統領に就任。

・北朝鮮と対峙する中でも軍事より経済を優先し、財閥とタッグを組んだ強力な開発計画により“漢江の奇蹟”と呼ばれる経済発展(大躍進)を実現しました。

・日本とも日韓基本条約を結んで国交を正常化。戦後補償にも合意。(この時代の話は“英雄時代”という韓国ドラマに詳しい)

・韓国はこの時期に北朝鮮との経済格差を逆転し、かつ一気に差を広げます。韓国のほうが北より豊かになったのは、この時代のことです。

・次第に独裁者的となり、政敵はすべて粛正。そんな中、腹心の部下に暗殺(銃撃)されます。最後はアメリカとも敵対していたので、CIAによる謀略説も流れました。


(4) 崔圭夏 チェ・ギュハ大統領 
1979年12月〜1980年8月(1年弱)

・元両班の出で祖父は学者。京城第一高校や東京高等師範学校の英文科を卒業し、ソウル大師範学部教授、33年間、官吏を務めたエリート官僚です。

・前大統領が暗殺されたため、棚ぼた繰り上げによって大統領になりましたが、リーダーシップを発揮できず、全斗煥に粛正されて退任。

・クーデターで政権を握った二人の軍人大統領の狭間で、戒厳令下、短期間だけの任期でした。


(5) 全斗煥 チョン・ドファン大統領 
1980年8月〜1988年2月(8年)

・陸軍士官学校卒の軍人です。前大統領が暗殺されたことに乗じ、軍事クーデター(形式的には国会議員による選挙)を実施して大統領に就任。

陸軍士官学校11期生を中心とする軍派閥ハナ会のリーダー。(この前後3代の時代については、韓国ドラマ“第五共和国”に詳しい)

・民主化運動の高まりを受け、後輩に大統領職を譲り退任。院政を行うつもりだったようですが、退任後には逮捕され死刑判決を受けています。(その後、特赦)

・在職中は民主化運動が盛んになった時代ですが、軍を導入して鎮圧し、多数の市民を犠牲にした光州事件の首謀者として悪名高い大統領です。光州事件とは、中国での天安門事件にあたる事件です。

・アジアの民主化運動(学生運動とも呼ばれる)は、
・日本が1960年から1970年にかけて
・韓国では1970年から1980年にかけて
・中国では 1980年から1990年にかけてと、10年ずつズレて発生しています。

・民主化運動は弾圧しましたが、政策的には経済成長にアクセルを踏み続け、高度成長政策を継続しています。この点も日本や中国と同じです。


(6) 盧泰愚  ノ・テウ大統領
1988年2月〜1993年2月(5年)
・就任まで:陸軍士官学校で全斗煥と同期で、全斗煥大統領時代には腹心でした。

・在職中ソウルオリンピックの開催など、この時期に韓国は先進国の仲間入りを果たします。

・ただし、韓国だけが発展することをやっかみ(?)、それを妨害したいと考えた北朝鮮による大韓航空機爆破事件が起るなど、南北関係は緊張しました。

・任期満了で退任し、その後逮捕されて懲役刑を受けています。(その後特赦)


(7) 金泳三 キム・ヨンサム大統領 
1993年2月〜1998年2月(5年)

・ずっと政治家。久しぶりの文民大統領として選挙で選ばれ、任期満了で大統領を退任した後は普通に生活。これは韓国の大統領としては極めてめずらしい「平和的な晩年」です。

・在職中は、長く続いた軍事政権の後始末に積極的に取り組みました。

・ところが在任中にアジア通貨危機に巻き込まれ、株式も通貨(ウォン)も大暴落。財閥系企業まで倒産が相次ぎ、韓国はIMFに融資を依頼。国家財政がIMFの管理下におかれるという屈辱的な事態に陥りました。

・社会には失業者が溢れかえり大混乱。そんな中、国のために金のアクセサリーなどを供出する国民運動が起こるなど、経済破綻の危機に直面して国民は大団結。

・これをきっかけに社会全体が「外貨を稼げる仕事」の重要性に目覚め、韓国では子供を英語留学させる一般家庭が急増。韓国人の英語力が日本人の英語力を上回るようになったのは、これがきっかけです。

・さらに、財閥企業でも終身雇用から実力主義への転換が進むなど、企業風土においても「世界で勝つための構造改革」が進みました。


(8) 金大中 キム・デジュン大統領  
1998年2月〜2003年2月(5年)

・長きにわたり民主化運動のリーダーとして活動してきたカリスマ政治家です。

・朴大統領によって密使を送られ、日本のホテルで拉致されるなど常に権力者からの迫害を受けてきました。

・その後、戦後初めての「革新系」(=左)政権の大統領に。共産主義である北朝鮮と厳しく対立してきた韓国で、左寄りの政権が誕生するというのは、歴史的にみても画期的なことでした。

・在職中はIMF危機から脱却するためIT産業育成に力を入れ、サムスン電子など「外貨が稼げる」産業や企業の支援に注力して韓国経済を立て直しました。政治的には左ですが、経済政策は新自由主義を推し進めたわけです。

・これにより韓国は、日本を凌IT大国として台頭。しかし、改革について行けなかった脱落層の出現により、格差問題が社会問題化していきます。

・政治・外交的には「米国離れ」「北寄り政策」=太陽政策を採用し、韓国大統領として初めて平壌を訪問。金正日氏との会談を実現し、後にノーベル平和賞を受賞しました。

・任期満了で退任しましたが、引退後も長く、強い政治影響力を持つ元老的立場でした。死亡時には「元大統領」としては異例の「国葬」が行われています。


(9) 盧武鉉 ノ・ムヒョン大統領 
2003年2月〜2008年2月(5年)

・貧困層生まれ。苦学して弁護士となり人権問題、民主化問題に目覚め政界に入っています。(韓国ドラマには、こういう人がよくでてきます)

・インターネット選挙が盛り上がり、草の根選挙で支持されて選ばれました。その様子は、オバマ大統領が選ばれた際の選挙に似ていたそうです。

・1946年生まれのため、「日本統治時代」を経験していない初めての大統領です。いわゆる「戦後生まれ」ですね。

・在職中は金大中氏の後継者として、新自由主義的な政策、親北の融和・太陽政策を継承しました。

・一方で米国との関係は急速に悪化。国内の経済格差も大きくなりました。ヨン様ブームなど、日本を含むアジアの韓流ブームもこの時代に起こっています。

・任期満了で退任した後は田舎に帰り隠遁生活を送りましたが、政治資金問題で逮捕が近づき、自宅裏山で自殺しました。


(10) 李明博 イ・ミョンバク大統領
2008年2月〜2013年2月

・貧困層生まれ。現代建設で頭角を現し政界に転じました。ビジネスマン時代は「ブルドーザー」と呼ばれる土建屋タイプだったそうです。

・政治家に転じ、ソウル市長に当選。その後、財閥企業で特進してきたビジネスの手腕を評価されて大統領になります。

・経済の立て直しを期待されていましたが、リーマンショックが起こってウォンが暴落し、経済危機に直面します。

・外交的には10年ぶりに太陽政策を破棄。北朝鮮からは悪党呼ばわりされました。

・もともと日本との関係は悪くなかったのですが、突然、竹島に上陸し、日本との関係も悪化させました。


以下追記)
(11) 朴槿恵 パク・クネ大統領 
2013年2月〜2016年12月(任期途中で弾劾辞任)

・朴正熙大統領の娘。韓国初の女性大統領、かつ、親子2代の大統領
・父親も母親も暗殺されるなど、壮絶な幼少時代を送っています。

・大統領就任後、2015年に慰安婦問題の恒久的解決に日本と合意するなど、対日関係を改善しました。

・清廉で庶民の味方、男性政治家のような財閥との癒着がない、という売り込みでしたが、古くからの友人である女性占い師に政治や外交の相談をしていた(操られていた)として任期途中で大統領権限を停止させられ、逮捕されました。

・次の大統領が選ばれるまでの間は、黄教安(ファン・ギョアン)国務総理が大統領職を半年ほど代行しています。


(12) 文在寅 ムン・ジェイン大統領 
2017年5月〜現職(2022年までの5年の任期予定)

・北朝鮮からの避難民の息子として生まれ、赤貧の幼少期を送っています。こういったバックグラウンドから、南北統一に並々ならぬ意欲をもっていると思われます。

・人権弁護士として活動。盧武鉉大統領の側近としてつかえた後、政治家に。貧困の中で育った人が司法試験に合格するのは極めて難しく、いわゆる立身出生型の大統領です。

・北朝鮮の金正恩氏との対話に積極的で、南北統一が政治的悲願と言われています。その一方、日本との元慰安婦救済合意を一方的に破棄したり、元徴用工問題での裁判所の判決に政治的な抑制をかけないなど、日本にたいしては極めて厳しい姿勢を貫いています。

・最低賃金の引き上げなど貧困層の救済にも熱心ですが、経済政策はかならずしも成功していません。社会の格差縮小、貧困層の救済といった政策に期待して彼を支持した有権者からの反発も高まっています。


以上です。今日のエントリを書くに当っては下記の書籍を参考にしました。興味のある方は、読んでみたらいいかも。
お隣の国の現代史をさくっと理解できるいい本だと思います。

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それにしても、日本の政治家、特に首相になる人は世襲が多い (たとえば麻生総理と鳩山党首の党首討論なんて“大資産家同士の対決!”って感じでした・・・)けど、韓国の大統領には「貧困層の出身」が多いんだよね。

韓国ドラマでも「貧しい中、必死で勉強して人権弁護士になり、政治家を目指す!」みたいな主人公がよく出てくるので、「リアルでもそーなんだー!」ととても勉強になりました。



そんじゃーですにだ〜