アメリカの3つの業界のこれから

今回の経済危機で、アメリカでは3つの象徴的な産業がハジけちゃいました。なんだけど、それら3つの産業の“はじけ方”がそれぞれ違っていて、特徴的でおもしろいので、今日はそれをまとめておくです。


まず3つの産業とは、以下の通り。
(1)ウォールストリート(投資銀行業界)
(2)ミシガン湖周辺(自動車産業)
(3)シリコンバレー(IT業界、インキュベーター業界)
東・中・西、と一個ずつですね。


まず(1)ですが、派手に吹っ飛んだ割に虎視眈々と復帰を狙っていて、いかにもウォールストリートって感じです。GSもJPMもみんな“一刻も早く公的資金を返して経営の自由化を取り戻したい”と思っているし、“一刻も早く厳しい銀行管理法から抜けだして、もっと儲かる商売がやりたい”と思っている。しかもその気持ちを隠そうともしない。

彼らが取り戻したい“経営の自由“とは“利益を(貧乏な納税者に遠慮せずに)山分けする自由”だし、“もっと儲かる商売”とは、“なんの規制も受けないバカ高い掛け点数で、世界中のカモな人達ともう一度マージャン卓を囲みたい”ということです。

この業界のせいで世界はこんなことになっちゃったわけだし、(GMが受けたような)なんの正規プロセスも踏まずに自動的に税金で救済されたくせして、そんなのモノともしていない。この厚顔無恥さがまさにウォールストリート的なるもの、なのであって、それが今でもちゃんと健在なのだ、というのがとてもおもしろい。

たとえて言えば、“ジャイアンが調子に乗ってたら大人の不良に殴られて大けがをした”のだが、だからといって別にジャイアンは心を入れ替えて「これからはもういい子になる。のび太もいじめない。みんなで仲良く中学生活を送ろう!」などと思っているわけではない、ってことだ。

「この前はちょっと油断をしたけど、もうそんなこと忘れたぜ」と。またもや弱いモノいじめをしながらブイブイいわせる気が満々なジャイアン。ウォールストリートは、たとえて言えばそんな感じだ。



次に中西部の自動車産業。ここに関しては「終わってますね・・」ってことは以前から多くの人が気がついていた。どう考えてもGMなんて「次の時代に生き残れない会社」って感じだった。

それが今回の金融危機で「顕在化」させられ「強制的に退場させられた」わけだ。この産業にいた人の稼ぎは、危機の前だってたいした額じゃない。彼らはウォールストリートやシリコンバレーの人達に比べると、圧倒的に地道に暮らしてきたのだ。いわゆる“古き良きアメリカ”の労働者達だ。

それが「きっかけとしての経済危機」によって、完全な退場を迫られている。「GMの再建」などという言葉はちゃんちゃらおかしくて、今回のオバマ氏とそのチームがやろうとしていることは本質的には「GMの解体」だ。ただ、一定の時間をかけてゆっくり潰していくことに決めました、というだけだ。(いわゆるソフトランディングってやつだ。)

中西部の人達を除けば、アメリカ全体でみて、この自動車産業のための延命策に誰も彼もが賛成しているわけではない。余計な税金を注ぎ込んで「あんなカネは絶対に帰ってこない。ああもったいない」と思っている人が多数派だろう。

つまり、この業界の死亡に関しては、「130歳まで生きて、最後の20年くらいは頭もはっきりしなくて自分でも動けなくて、でも今回、大往生でなくなられましたね。いやあ若い時は本当にすばらし若者だったんですよ。アメリカの夢でした。」というような人を見送る感じ、に見える。

心から「死んじゃって悔しい!ひどい!ありえない!」と遺体にすがりつき泣き叫んでいる人は誰もいない。「ああ、来るべき時が来ましたね。残念でしたね。みんなで一緒にお弔いしましょう」って感じです。



三番目のシリコンバレーなんですが、ここのやられ方も特徴的でおもしろいです。まず第一に、彼らは「自分たちがやられてる」ってことに気がつくのに時間がかかってるよね。さすがにもうわかってると思うけど、他の産業より圧倒的に“今回のショック事象に関する敏感さ”が低い(低かった)と思います。

最大の理由は、もともとあんまりかっちりした雇用市場のある産業、エリアではないってこと。誰も彼も起業して、そのうち半分くらいは自分だけ(もしくは家族&友人とのみで)起業して、個人で仕事をする。

こういう人にとって「レイオフ」っていう概念自体が存在しないし、大きな借金でもないと「倒産」もし得ない。

売り上げが全然あがらない、コストを払うとギチギチ、というのが続けば「自分で、このビジネスを辞めようと決める」ということはあり得るわけだけど、そんなのはそもそも経済危機の時ではなくてもよくある話だ。

しょっちゅう新しいビジネスをやってみて、「あら、だめだったわ」ってことで次のことをやって、「それもだめだったわ、お金もなくなってきたからちょっとの間、どこかで雇ってもらおうかしら」みたいな。前からそういう「ふわふわ」な感じでやってきた人がたくさんいるので、大量に一気にレイオフや倒産で失業者のでる(1)や(2)と比べて、「何が起きているのかを感じるスピード」が極めてゆっくりだった、と思う。


あと、シリコンバレーの成長の「二つの車輪」は「技術&ファイナンス」だったわけですが、この両輪のひとつが潰れると、二つの車輪で動いている自転車にどういう影響があるのか、わかりにくかったんだろうな、と思います。

(1)や(2)はエンジンが火を噴いてぶっ飛んだから皆すぐに「これはやべえ」と気がついたけど、(3)のシリコンバレーでは「ふたつの車輪のうち、ひとつ(ファイナンスの車輪)はパンクしたけど、もう片方の車輪(技術の車輪)は壊れてないし。」という楽観論がありえてしまったんだと思うよね。

が、実際には走っている自転車のタイヤがひとつパンクをすれば、「後輪だけでもある程度は走れる!」とはならないわけで、投資側の資金が急速に縮小し、IPOや株式交換での買収という方法論がフリーズされてしまうということは、たとえ有望な技術とユニークなビジネスモデルをもつ企業にとっても「走行可能性」を左右する致命的なできごとだ。でも「車輪がひとつ残ってるから」、なんとなく楽観的でいられた、みたいな感じ。



というわけで、
「既に虎視眈々と復帰を狙ってるウォールストリートのマッチョ達」、
「これから解体に向かって粛々と歩を進めていく中西部オート組合の皆さん」、

そして
「ようやく世の中で起こっていることの意味を理解しはじめたシリコンバレーの住民達」

これからどうなるのか、なかなかおもしろい「連続ドラマ3部作」みたいな感じです。


そんじゃーね。