働き方選択の将来的意味について

どこかの大学の就職課が、おもちゃの札束を積んで学生に注意を促しているというニュースを見ました。「フリーター、派遣社員の生涯賃金」である約8000万円の札束と、「正社員の生涯賃金」である3〜4億円の札束を並べて展示したとのこと。

「就職活動が大変だからといって、簡単に諦めないように。正社員にならないと、これだけ損をするんですよ!」ということのようです。


たしかに正社員とそれ以外では生涯賃金の差も大きいのですが、実はお金以外の「大変さ」もかなり違います。

そこそこ安定した企業の正社員になると、「最初に正社員の座を得るための就活」は大変だけれど、その後はどんどん楽になります。

たとえば人は年を取れば病気にもなるし、長い人生の中では介護や育児で休まざるを得ない時もでてきますが、正社員であればそういう時も補償をうけながら休暇をとることができます。

一方、派遣社員やフリーターは休めば即収入がなくなってしまうので、彼らにとって「年齢があがること」は大きなリスクです。


また、就職時には優秀な若者も50代になれば、誰しも時代の流れについていくのに苦労します。そんな中、フリーターや派遣社員はもちろん、医者や弁護士、研究者などのプロフェッショナル系の人や芸術家も「自分で時代についていく必要」があります。

ところが大企業の正社員の場合、自分が時代についていけなくなっても「ついていける新卒の社員」を雇えればいいのです。

自分は彼らに指示さえできなくても、「余計な口出しをしない」ということができれば彼らの力を引き出せます。自分で時代についていく必要があるのは、役員を目指すごく一部の正社員だけです。


というようなコンセプトを図表化すると下記のようになります。

横軸が「年齢」、縦軸が「大変さ」です。年齢は一番左が20歳くらいで右端が65歳くらいと考えてください。

青い線は「安定企業の正社員」を表しています。最初は面接に勝ち抜かないといけないし、若い頃は理不尽とも思える環境でも薄給とサービス残業を耐え忍ぶ必要があり、それなりに大変です。

が、その大変さはどんどん減っていきます。(でも給与はあがるので、“中高年もらいすぎ論”がでてきます。)


オレンジの線が派遣社員やフリーターで働く人です。就職氷河期で正社員の座を得るのは困難でも、22歳の人がバイトや派遣先を探すのは難しくありません。なのでオレンジの線は青い線より下から始まります。

けれどこのオレンジ線上の大変さは、右肩上がりで上昇します。年齢があがっても時給はあがらないし、年を取れば仕事を見つけるのも難しくなります。病気になりやすい中高年の年齢になれば、病気=失業です。

そして青とオレンジの線は30歳過ぎで交差し、それ以降はどんどん楽になる正社員と、どんどん状況が厳しくなる非正規雇用の人の「大変さの差」は大きく開いていくのです。

★★★

ちなみに一番上の赤い線はプロフェッショナル系の仕事や起業する場合です。

国家資格をとったり、より難しい面接を勝ち抜いたり、もしくは自分で客をつかむ必要があるわけで、最初は正社員になるよりも大変です。

また、ずっと自分で市場価値を保っていく必要があり、大変さは(正社員のように)どんどん減じたりはしません。

でも一方で彼らには、“信用”や“市場で通用する経験”が蓄積されます。するとある時点で、「楽ではないが、立場の維持はできる」ようになります。なので、病気の際の補償などはありませんが、必ずしも大変さは(オレンジの線のように)増え続けるわけでもありません。

そしてこの赤線も、ある時を境にオレンジ線上の道よりも楽になります。別の言葉で言えば、オレンジの線というのは、ある年齢以降は極めて厳しくなる茨の道なのです。

けれど最初に就職する時にはこの選択肢が一番容易いため、これしか選べない人がでてきます。こうして最初の戦いに敗れた人は、年齢を経るごとにより過酷な環境に追いやられていくのです。

★★★

ところで、青い線に乗っていたのに会社が倒産して労働市場に放り出された人は、途中でいきなり「次はオレンジの線ですよ」と宣告されます。(下記グラフ参照) この人は黒い点線に沿って移動し、「大変さ」は一気に数倍になります。

というわけで「途中で飛んでしまわないしっかりした青い線」を求めて学生は必死に就活をするわけですが、日本市場の縮小に伴い、そういう企業の日本での採用数は減る一方です。

であれば、少ない青い線を奪い合って結局はオレンジ線上に落ち着くのではなく、寧ろ最初から赤い線を狙いに行くのもこれからは有望な選択肢なのではないでしょうか?


そんじゃーね。