今回の経済対策についてのまとめ

昨日エコポイントの使い道が発表されたとかで、そのリストを見ていて、まあほんとわかっていたとはいえ嘆息モノなわけですが、とりあえず記録として、今回行われたふたつの経済対策(定額給付金&15兆円の緊急予算)について、ちきりんの考えをまとめておくです。


<一般論・前提>
・経済状況からみて、緊急財政支出が必要であることは確かだった。それは正しいと思います。
・「国が予算として使う」より「国民が自由に使う」方が、最適に資金が配分されると思うので、ちきりんは現金配布方式に賛成です。つまり「小さな政府の方がいい」と思っています。


<定額給付金について>

上記の一般論の2点目にかかわらず、このタイミング、この額の場合は、国民全員に配るのは方法論としては最悪だったと思います。

理由1)たかだか1万円ほどを配るのに、コストをかけて徴税したお金を、再度すごいコストをかけて配るのは、事務費の無駄遣い。(事務コストは固定費なので、配布額がもっと大きいのなら問題は少ないのですが。)

理由2)景気刺激策として実効性が低すぎる。あんな時期にあれくらいの額を配っても、消費に回る率はせいぜい2割でしょう。もっと少ないかもしれません。

理由3)社会不安を感じさせるような状況があり、お金を使う場所は明確であったはず。全員に配るのではなく、そこに集中して使うべきだった。


最後の理由3)でいっている「お金を使う場所」は、派遣切りされた人、失業保険をもらえない人等の生活支援です。定額給付金の総額2兆円ほどをすべて、そういう人の住居を確保し、食事を確保し、医療費と子供の学校の費用にあてるべきだったと思います。もちろん海外から来ていた労働者の方についても同様に、です。

そうすることで、
・社会不安を和らげ、リストラされていない人までが将来の不安感から消費を抑えるという状況を少しでも抑えられたはず。
・2兆円の大半が消費に向かい、景気刺激資源としても給付金よりも経済効果が大きかったはず。
と思います。


関連過去エントリ:

よくわかる定額給付金:http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081114

あまりに危機感のない人達:http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081202





<15兆円の経済刺激予算>

一般論のところで書いたように、ちきりんは「役所がお金を配分する」というのは極めて非効率であると思っています。というわけでこれも最悪。こちらこそ「現金を配るべきだった」と思います。

総額で15兆円ならひとりあたり12万円配ることができます。4人家族なら50万円くらいもらえる。配布先に所得制限をかければもっと手厚く配ることができます。貧困世帯、子供の多い消費意欲の高い世帯などに集中して、相当額を配ればよかったと思います。だって、


理由1)この額なら消費に向かう可能性が高い。
理由2)この額なら、徴税してふたたび配る、という事務コストを吸収できる。
理由3)個人に支出先を任せた方が圧倒的に公平であり、また効果的。


特に理由3のところは、痛感します。


今の予算の組み方ってあまりに「特定の産業、特定の会社に有利すぎ」だよね。
・エコポイントなんて、「自動車と家電業界に補助金を出します」に近いし、
・その中でも、ホンダとトヨタとか、特定の企業に有利すぎる。
・家電に関しても、エコポイント制度などに対応できる大メーカーには有利で、そういう事務コストが払えないベンチャー的な企業にはとても不利。
・エコポイントの使えるものだって、またしても「お米券」とかがきっちり入ってて・・・農水省頑張ってるなあ、という感じではあるが、あまりに露骨すぎ。
・「アニメの殿堂」の建設費用をゼネコンに支給するよりは、アニメーターに一人10万、20万円配る方が「残るべき産業、会社」にお金が回ると思う。



さらに進んで言えば、「特定の社会課題を一気に解決する」という目的にそって現金給付をするってことができればもっと良かったと思う。

たとえば「この15兆円はすべて少子化対策に使う」とかです。具体的には来年と再来年に生まれた赤ちゃんに(その親権者に)15兆円全部あげる!ってかんじです。これなら赤ちゃんひとりあたりに600万円くらい配れます。


おそらく「300万円」くらいでインセンティブとしては十分な気がするので、こんな組み合わせにしたらどう?
・2010年、2011年に生まれた赤ちゃんに、生まれた年に150万円、翌年に150万円配布
・不妊治療費は、次の2年間は全額無料
・2010年、2011年に結婚して同居を始めた35歳以下のカップルにお祝い金50万円を支給
とか。15兆円だとまだ余りそう。


もしくは全額、介護問題か医療問題につっこんでもいいです。15兆円あれば「緊急医療体制」と「産婦人科、小児科問題」「感染症対策」も相当改善できるんじゃないかと思うけどな。


ところが、今回の予算では各省庁が持寄ったチマチマしたいろんな支出策がごっちゃに詰め込まれていて、その中には省益丸出し、みたいなものもあり、加えてわけわかんない名目が付けられてる。たとえば「3歳児への補助」とかが「少子化対策費」として入ってるんだけど、このロジックは意味不明でしょ。3歳児なんていきなり作れないんだから少子化対策としてはゼロ効果でしょうが。

これらのお金は泉から湧いてきたお金ではない。いつか若い人が税金として返す必要のあるお金です。なんでもいいから使えばいいのではなく、どどーんとテーマを決めて価値ある分野にだすべきなんだよね。そしてできる限り「直接配布する」方がいい。


なんだけど、こういう「どどんと大きく!」ってのは官僚はとても苦手。彼らは“ちょこちょこ細かく積み上げて、それらしい長〜いリストを作る”のが得意。加えて“官僚の権限強化につながらず、天下り先にもお金が回らない直接配布”という方法が大嫌い、そういう人達なんです。

だからこそ、こういう緊急の時こそ「政治の役目」なはずだった。


それなのに麻生さんは官僚に丸投げした。


結局のところ彼は政治、政策そのものには関心がないのだ。
彼が関心があるのは、総理大臣であることだけ
、なのだわ。


というわけで、有権者として天唾な話ではありますが、とりあえず記憶のための記録として。



そんじゃーね。




後半の関連過去エントリ:

“内需特需”を補助金争奪戦に終わらせてはいかんです:http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090104

若い方、後はよろしく:http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090428