“派生格差”のまとめ

ここ数年頻繁に使われるようになった“格差”という言葉。普通は“格差”といえば、“経済格差”のことを指すことが多いですよね。つまり「いくらお金を持っているか」の差だと。

また、“格差の固定化”とか“格差の世襲化”などと言われるように、格差が世代を超えて受け継がれることを問題視する考え方もありますが、この場合も世襲(相続)され、固定化するのは“経済力”、“資力”の話なので、基本は「格差と言えばお金の話」ってことなんだと思う。

それにたいして、「経済面以外での格差」が“経済格差”によって生まれている、という議論も最近はよく聞きます。今日はそれをまとめてみたいです。

いうなれば「二次格差の一覧」というか「派生格差の一覧」かな。「格差デリバティブ」と呼んでもいいけど別にカタカナにする必要もないので、とりあえずタイトルは“派生格差のまとめ”にしてみました。



(1)教育格差
これが一番よく指摘される“派生格差”だと思います。


具体的な教育格差発生のメカニズムとしては、生活保護世帯、母子世帯等を含む貧困世帯において、
・大学進学、高校進学自体が経済的理由により困難。
・塾や模試代、予備校費用などが払えず、経済的理由により成績が上げにくい。
・(高校生や大学生が)アルバイトに追われ、勉学に避ける時間が少なくなる。
・下宿が必要になる離れた大都市にある大学への進学をあきらめざるを得ない。芸術系大学などへの進学も苦しそう。
・留学や英会話学校、資格取得予備校などに通えず(就職等に重要とされる)教育を受けられない。
などが考えられます。


また、“二次派生”ではなく“三次派生”的なメカニズムもあり、たとえば
・親や兄弟などが誰も大学に行っていないので、そもそも大学進学を選択肢として意識しない。
・夜逃げや、親の家出、育児放棄等々の問題から、勉強する環境にそもそもたどり着けない。
などもあるでしょう。


日本では学歴は経済力に大きな影響を与えるので、「経済格差→教育格差→経済格差」というループは非常に強固に存在すると思われます。



(2)健康・医療格差
これもありますよね。いくつかのカテゴリーにわけて書いておきましょう。


まずは、直接的な医療格差
・健康保険料を払っていないため、病気になっても医者に行かない。(行けない)
・健康保険証はもっているが、3割負担が払えず(同上)
・健康保険が効かない高度な自由診療が受けられない。&高額な薬が買えない。


次に早期発見と治療環境の観点からの格差
・定期的な検診を受けていないため、病気を見逃す、また早期に治療開始できない。
・時間給雇用のため生活のために仕事が休めない。そのため、必要な治療が行えず病状を悪化させる。もしくは正規雇用であっても、治療しつつでは仕事が続けられないため、雇用のために治療を後回しにする。
・糖尿病、高血圧など食事制限が重要な疾病に関して、食事コントロールが困難で病状を悪化させる。(お金があれば“糖尿病食”"高血圧食”などの通販が利用できる。自分で塩分を計算しつつ料理するのは大変です。)


さらに一歩手前で、未病環境での格差
・過酷な労働条件の下で長時間労働を続けるなどにより、身体が受けるダメージが大きい。またそのケアにもお金がかかるため、適切なケアが行われていない。
・栄養の偏った食事、脂っこい食事、インスタント食品などばかりを摂取しており、病気になりやすい。特に子供の間の栄養の偏りは影響が大きそう。
・喫煙、飲酒過多などの健康を損なう可能性のある生活習慣に陥りやすい。(通勤してたら毎日朝まで泥酔するのも難しいし、“お金のある人”の多い場所って、最近は喫煙に極めて厳しいでしょ。)


と、こちらに関しても、経済力の格差により「病気になりやすさ」×「早期発見の可能性」×「治療の環境」×「手に入る医療の質と量」のすべてにおいて大きな差異がでると思われます。

また、これも反対側への影響力もあります。健康なら一定額を稼げるのに病気になったとたんに収入が途絶えてしまう場合も多いからです。



(3)家族維持能力の格差
・経済力がないために配偶者として選んでもらえない。(下記参照)
・経済力が心配であるため子供がつくれない。(子供をもつ決断ができない)
・経済的な問題(借金問題等)が離婚につながる。
・経済力がないため、介護負担を“人力”で受け止めるしかなく介護疲れによる問題を惹起する。


経済力と結婚可能性の問題についてひとつ補足。これって主には、結婚に際して経済力を期待されることが多い、結婚適齢期の男性の話だと思います。

でも女性に関しても全く無関係じゃないかもとも思うし、また中高年以降の結婚においても経済力の影響は大きいかなと。まずお金のある人って「老ける」ことを一定範囲で遅くできるでしょ。これは男女共。“おしゃれ”だって一定のお金がかかりますよね。

このあたり「経済格差→容姿格差→家族格差」という流れがありそう。

あと、男性でかなりの高齢で若い女の子と再婚する人ってたいてい相当の経済力があります。“金もないオヤジ”でモテまくる人もいないとは言わないけど。


と、話がずれそうなので戻りましょ。というわけで、ここでも「結婚する→子供をもつ→結婚を維持する→親子の関係を維持する→親の面倒を見る→自分の老後の準備をする」という“家族形成の起点から終点までの全プロセス”において経済力が影響を与えると思われます。

あと、こちら特に“弱者”を家族に抱えた時に格差が増大すると思います。障害者や介護が必要な人がでた時に、経済力のない家では、家族が人生の時間のすべてそちらに投入する必要がでてきてしまうからです。一人子で、介護の必要な親の面倒をみるために結婚をあきらめる人とか、いそうですよね。



(4)社会関係維持能力の格差
・犯罪を起こしやすくなる。強盗する人の大半は借金があります。名義を売る人や、借金返すために体を売る女性もいるでしょう。「お金があれば犯罪に手を染める必要はなかった」という人は一定数存在しそう。

・犯罪に巻き込まれやすくなる。自分が悪いことをする気がなくても、せっかく就職した会社で「この仕事はやばい・・」と気がついても辞められない、ようなケースです。お金がないと危ない橋を渡らざるをえなくなる。

・大人の世界は、友人、知人、同僚、親戚関係などの人間関係の維持に一定のお金がかかります。「つきあい」のためのお金が払えずこういった人間関係を失うケースも多々あるのではないでしょうか。冠婚葬祭も趣味もお金かかりますよね。

・経済格差が“情報格差”を生む場合もある。今の世の中は“情報”があれば簡単に解決できる問題が、情報、知識がないとこじれにこじれてしまいます。たとえば多くの福祉制度は、そもそも自分で知っていて申請にいかないと全く適用されません。お金がない人ほど、これらの情報が重要なのに、お金がない人ほど情報を得るのが難しいんじゃないかな。


とりあえず今のところ思いつくのはこれくらい。


あと、上記で書いたのは「経済格差」が「教育」「健康」「家族」「社会関係」格差を生む、という方向の話なのだけど、実際にはそれらの格差がまたもや経済格差にもどってくるってのも自明ですよね。

教育は最も効率の良い投資だし、「健康なればこそ」というのはどの世界も同じ。家族や社会関係も、何かの時に大きな支えになる。経済的問題によってこれら4点の“アセット”が形成、維持できないと、それがまた経済問題に戻ってくる。


というのを絵にすると↓んな感じ。



・・・なんだよ、この“まんま”な絵は・・・


まあいいか。




というわけで、また明日。*1



*1:本当は“経済格差”と“貧困問題”は全然ちゃう話なのだが、今日はごっちゃになってますね。すんません。とりあえず“格差”が行過ぎて一定レベル以下の範囲に入ってしまう人、という意味でお読みくださいませ。