“新たな運命を受け入れて” by 日興証子

→前回までのあらすじ



みなさんご無沙汰しております。
日興証子です。


このたびはお騒がせしてしまって、本当に申し訳なく思っています。
撫子さんには・・大和撫子さんには・・、どうお声をおかけすればいいのか。

私だって本当につらくて。


まさか、まさか住友が、あんなことを言い出すなんて、私だって思っても見なかったんです。だから・・撫子さん、本当にごめんなさい・・・・。


あぁっ


★★★ちきりんより)少し興奮されているようなので、休憩を取らせていただきます。★★★



ごめんなさい。もう落ち着きました。
みなさんに、きちんとお話しすること。それが私のお務めだと思って今日はここにきたんです。もう一度だけ、とちきりんさんに無理をお願いして、お話しさせていただく事にしました。


あれは、住友が私と結婚するのだと決まってからひとつきほどたったところだったと思います。彼は、突然「3人の寝室を一緒にする」って、言い出したんです・・


私、


信じられなくて。


たぶん「華麗なる一族」に刺激されたんだと思うんです。あのドラマを見てた時に住友が「これぞ、男の夢だよなあ」と言っていたと、お手伝いさんから聞いたことがあって。ほら、あの一族も元々関西の出ですから、住友もそういうものに憧れていたのかなと。でも、、なんていうか、つらすぎます。


もちろん撫子さんの受けたショックは尋常なものではありませんでした。彼女は私と違って離婚の経験もないし、外国人のボーイフレンドもいたことがないし、ずうっと住友君一筋だったのにあんな仕打ちを受けるなんて。

私と結婚するのが他でもない、住友だってことが決まった日、撫子さんは蒼白でした。「わたしはどうなってしまうの?」って、震えていらしたわ。私もどうお声掛けしていいのかわかりませんでした。彼女、気丈そうには振る舞っていたけど、本当に不安そうでした。

すぐにご主人に意図を問い詰めたらしいんだけど、彼も「お前と分れるつもりはない」の一点張りで。じゃあいったい私たち二人をどうするのか、ずうっとはっきりしなかったんです。それなのに、突然に「寝室を一緒にしたい」と言い出して。


そんな、夫婦にとって一番大事なところを一緒にするなんて・・・


それで撫子さんもわかったと思うんです。住友が何を求めているのかって。



みなさん、大和の撫子さんが住友家にお輿入れした時のことを覚えていらっしゃるかしら?撫子さんのお父様は当時すごく大きな借金を抱えてらして。もうにっちもさっちもいかなくなってらしたんですの。その時、ずっと親密におつきあいされてきた住友家のご主人がお声を掛けられたんです。


「いくら必要なんだ?」
「その額を、おたくの娘さんへの結納金にさせてもらうよ」って。


撫子さんはおとなしい性格だったから、必ずしも住友君とぴったり、というわけではなかったけれど、それでもずっと近しいお家筋だったし、おうちの危機を救うためにもそれしかないと納得されてお嫁に行かれました。でもそれから10年、撫子さんは本当に頑張られたと思います。息子さんだって立派に育てられました。それなのに、今になって。


撫子さんに何か悪いところがあったんじゃないかって?

そんなのあり得ませんわ。もちろんお金のこともあって肩身は狭かったと思うけど、彼女は彼女なりに“一人の女として”頑張ってたんです。なんど詰め寄られても住友家に主導権を渡すことはなかったし、たとえ夫の援助があったとはいえ、自分できちんと稼いでいらっしゃいました。

でも、住友君にはそれが気にいらなかったみたい。結局彼が欲しかったのは、「何でも言うことを聞く従順な嫁」だったんです。



・・・・



“あなたも本当は三菱君と寄りを戻したかったんじゃないのか”って?

いえいえ、そんなこともう本当に思っていませんわ。彼は・・三菱君は、常に最後の最後で躊躇してしまう性格なんです。最後の一片のリスクがとれないっていうか。そういう男なんです。

だって、たったあれだけの額の上積みができないなんて。笑っちゃうでしょ?
肝心なところが小さいんですよね。あの男。


でも彼は昔からそう。全然変わりません。いつもエリートで、いつも一番保守的で、私、彼にはもうなんの未練もありませんわ。



瑞穂君?
そうですね。彼なんか、論外じゃないですか?

私を手に入れる価値が一番大きかったのは、どう考えても彼なんです。だって彼、まともな女とつきあったことも無いんですよ。

なのにくだらない言い訳を山ほどつけて、私の争奪戦からは早々と脱退していました。ほら、あそこは三世帯同居だから、それぞれのお子さんを仲良くさせるだけでもすごく骨折りだったみたいで。なかなか大きなことを考える余裕もなかったみたいです。

でもこれから益々厳しくなるっていうのに、あんなんで瑞穂君がやっていけるのか、他人事ながら心配してあげてますの。彼、口ではグローバルだなんだって大きなことを言うけど、新人使用人の採用市場でも“瑞穂家なら、誰でも雇ってもらえる”とかバカにされちゃってたし。

私も、ずっと前からもっていた瑞穂君のおうちの株、早々に売ってしまいましたわ。



自分のこれからの身の振り方について?

私はもういいんです。幸せな人生でしたわ。

私、ちきりんさんと同じ、“混乱lover”なところがあるんです。翻弄される我が身を慈しみながら、これから住友君とやっていくことにします。


見通し?


笑わせないでくださいな。今時、女を力尽くでねじ伏せようなんていう男に、いい結婚生活を送るのは無理ですわ。強引に敵対的に成し遂げた結婚がうまくいかないことは、アメリカでも日本でももう証明済みなんですもの。住友さんともあろうお方が、そんなこともご存じないなんて。

それに私だって、いつかは撫子のような目に遭わされるとわかっています。だから結婚するといっても、もう余り気持ちも高まらなくて。住友は相手が前向きに頑張る気になるかどうかなんて、ほとんど気にしない性格なんです。彼は自分が命令すれば人は動くと思ってる。そういうカルチャーなんですよ、あそこは。大旦那が一声かければ、日本中の丁稚達が一斉に動く組織ですから。

彼は・・昔は三菱君のことをライバル氏してたみたいだけど、今はたぶん“野村さんのお嬢さん”のおうちを意識しているみたいなんです。酔った時には「あそこを抜かないと、名実共のトップにはなれんっ」って拳を握りしめているのを何度も見ましたから。「たかが女に負けられるか」って。

もちろん野村さんのお嬢さんのところも、ほら、先日お話しした外国人のボーイフレンドが最近はもうほとんどヒモみたいな状態らしくて、大変ではあるようなんですけどね。それでも、住友としてはどうしても、「男(銀)でも一番、女(証)でも一番」という地位が欲しいみたいなんです。



あら

私ったらまたおしゃべりが過ぎましたわね。ちきりんさんのところに来るといつも話しすぎますわ。私もう戻らなくちゃ。住友と撫子さん、今ごろ最後の話し合いをしているところだと思います。お二人とも今日の夕刻にはなんらかの結論を出すとおっしゃっていたわ。

それにしても撫子さんも、半分腹をくくっているとはいえ、このご時世、夫の援助なしで出直すのがどれくらい大変なことか、分かっていらっしゃるはず。大変ですわ。

私もこれから、今まで撫子さんがずうっと尽くしてきたお取引先を回って、「今は私が住友の正妻なんですのよ。おわかりかしら?」とかいう話をしてまわらないと行けないのかと思うと・・・ほんとにため息がでますわ。撫子さんにどう顔向けすればいいのか・・。


いえいえ、泣いてなんていませんわ。
証子はこれからもたくましく頑張っていきます。そりゃあ時々は、なぜ私の人生はこんなにも波瀾万丈なものになってしまったのか、溜息がでることもありますけど。

でも皆さん、これからも私の行く末を見守っていてくださいね。

さようなら、いつまでもお元気で。






このエントリに登場する人物や団体は架空の存在であり、実在する人物や団体とは一切の関係がありません。