“仕組み”なのか“人”なのか

大事なことや大きな流れの決め手になるのは、“仕組み”なのか“人”なのか?場合によるのだとすれば、どういう場合は“仕組み”で、どういう場合なら“人”なのか。これって結構おもしろいテーマだと思うんだよね。


たとえば複数の企業から内定をもらった学生に最終的な就職先を決めた理由を問うと、多くの学生が「会った人が魅力的だったから」などと答えます。ベンチャーじゃなくて、巨大企業に入る学生までがそんなことを言う。

これ、大人からみると笑えますよね。「会った人」って何人?ってかんじだし、その人が入社後の上司になるわけでもないし、もちろんその組織を代表する人格であるわけでもない。

企業側が採用前線に出してくる「マーケティング人材」に惹かれたからこの会社に入りました、と。いかにも学生さんらしいお答えです。


でも転職が何回目かになると、「会った人の印象」だけではなく、よりその会社の「仕組み」を重視するようになるでしょう。ベンチャー企業に創業社長に惹かれて入るケースなどを除いて、会った人だけで会社を決めることはなくなる。代わりに「組織として体制が整っているか」「企業体として市場の中で競争力があるか」などを重視する。

こういう「人」か「仕組み」か、という概念がある。


銀行が事業融資をする時、不動産担保を取るにしても、まずは財務諸表などからその企業の「儲ける仕組み」(=ビジネスモデルと収益力)を見て判断するわけですが、一方で「経営者の人となり」が融資実行の決め手になることもあると思います。中小企業はもちろんだけれど、大企業でさえ「中内さんだから、孫さんだから」貸すってのはありそうです。

反対に、どんなに綺麗な儲けの仕組み(財務諸表)が提示されても、経営者個人が人として信頼できないとお金は貸せない時もある。こういう場面でも「人」と「仕組み」のバランスが問われるし、最後は「どっちを信じるか?」みたいな話になる。

株式投資もそうかも。その会社のビジネスの仕組みを見て投資を決める人もいるけど、一方で「この経営者が率いる企業なら株に投資したい」という人もいる。柳井さんがいるからファーストリテイリングの株を買う、という人は一定数存在するでしょう。



別のパターン。企業って、次に誰が社長になるかで会社の方向性が大きく変わる。

いずれも十分に優秀なAさんとBさんという2人の後継者が役員の中にいた。でも二人の経営思想は正反対なので、どちらが社長になるかで今後の会社の方向性は大きく変わる。

そういう時にどちらが社長になるかは単なる偶然に決まるものであり(たとえば、Aさんが手がけた新規事業がたまたま失敗したとか)、したがってその後にその会社がどういう道を辿ったか、ということも偶然に決まってしまったのだ、というのが、「人」でみる考え方。会社の行く末の違いは、「AさんとBさんの性格の差」のみに起因するのであって、“それ以外の力”が働いたわけではない、ということになります。


一方の仕組み説なら、「Aさんが社長に選ばれたのは、あの組織の仕組みによる必然の結果だった」と考える。「Aさんは、社長に選ばれるべくして選ばれたのだ」と。

その組織にはなんらかの固有の力学とか意思決定の癖とか組織の論理があって、Aさんはその理屈に沿って個体の代表例として選ばれたのだという考え方です。偶然ではなく、必然的にAさんが選ばれたという考え方。これが「仕組み」側の考え方です。


戦国武将の中から誰が残っていくのか、というプロセスにも同じことを感じます。よく言われるように信長、秀吉、家康の性格は大きく違う。誰が天下統一を成し遂げ、誰が国のあり方を作るかによって、日本の近代史は異なったものになったのでは?

では、信長が天下をとれずに暗殺され、家康が300年にわたる長期政権の礎を築くことができたのは、偶然なのか。それとも日本の歴史の必然だったのか。


“たまたま”信長は暗殺され、“たまたま”家康は長生きした。だから家康の性格によって江戸時代の根幹が形作られた。でも、“たまたま”寿命が反対だったら「信長の作る日本」というのが出来ていたのだ、と。こういうのは“歴史は人が作る”という考え方。

一方で、「何度歴史が繰り返しても、日本においてあのタイミングで、信長のような人間が最終的に政権をとることはなかっただろう。家康が残ったのは日本の歴史における必然だったのだ。」というのが、仕組み説。

この考えによれば、万が一家康が暗殺されていても、他に誰か「家康的なるリーダー」がでてきて「江戸時代的な時代」を作ったに違いない、となる。結局は「日本社会が信長ではなく家康のような人を望んでいたのだ」というのが“仕組み説”。


人なのか、仕組みなのか、鶏卵みたいなところもあるんだけど、おもしろいような気もするので、またそのうち考えてみたいです。


そんじゃーね。