麻布にある“在日韓人歴史資料館”に行ってきました。すごくよかったです。
狭いけど展示品にインパクトがありました。以前、ブラジルのサンパウロにある日系移民歴史資料館に行った時も大感動したので、ちきりんはこういう資料館が好きなんだと思うです。
日本って本当に“近現代史”を教えないでしょ。
てか、今は違うのかな?ちきりんが小さい頃は、小学校でも中学校でも高校でも、歴史は近代史の手前までしか教えられませんでした。時間切れなのか意図的なのか知りませんが。
だから近現代史って、大人になってから皆、あっちゃこっちゃに偏向した資料でそれを学ぶことになります。
ちきりんがこういう資料館でインパクトを感じるのは、“実物の重み”があるからです。
近現代史って古代史と違って“実物”が豊富に残ってるんですよね。家具や機械だけではなく、本や書類、そして写真が残っている。それがすごく意味がある。
なぜなら、近現代史に関しては後から作られた書籍や番組やなどはどうしても偏ってるんじゃないかという疑念が消えないし、もっといえば、偏ってない近現代史の書籍なんて成立しえない。
だからできる限り“当時のモノ”が直接見てみたい。
だってそれらは、背景や意図はともかく、実際にその当時の社会に存在していたわけで、その現実感とか、存在感とか、中立性とか、インパクトが、ずば抜けている。と思うから。
それらを観ることで、曲がりなりにも自分でその空気感を感じることができるので。
サンパウロの博物館も今回の資料館も、そういうものがたくさんあってすごく興味深かったです。ごく一部ですが、下記に紹介します。
(1)韓国併合の記念絵はがき
1910年に日本が韓国を正式に併合した時に売り出した記念葉書です。地図の図柄で日本と韓国が同じ色に塗られたりしています。
これをみると、「当時の日本がどんなに韓国を植民地化したことを誇らしく思っていたか」がビビッドに伝わってきます。
日本が、どれくらい切実に、列強西欧諸国のようになりたいと思っていたか、が表れているんです。“痛々しい”資料です。
(2)文部省が作った思想調査書
昭和7年1月に文部省学生部が作った「鮮人学生生徒思想的事件」というタイトルの冊子がインパクトありました。
古びた紙にタイトルが手書きで縦に書かれ、手作業で綴じられた冊子です。
ちきりんは、なぜかこの資料に目が引きつけられました。おそらくその文字がものすごく綺麗で几帳面だったからでしょう。“いかにも優秀な官僚の手による報告書”に見えたのです。
文部省って教育を司る役所ですよね。そこの学生課の仕事のひとつが「朝鮮人の思想調査」だったんだなあと。
この頃はもちろん朝鮮人学生だけでなく、日本人でも共産主義にかぶれた学生については、文部省は当然、思想調査をしていたでしょう。
朝鮮人学生には、共産主義に染まっていた人もいるし、そうでなくても独立運動家も多かったはず。大日本帝国を支える官僚組織が危険分子の思想調査をするのは当然です。
でもなんか、この冊子のあまりの体裁の綺麗さが、ちきりんには強く印象に残りました。まさにこれが官僚の仕事なんだよな〜と思えたのです。
この人達は、町中が焼け野原でも、混乱していても、ぐちゃぐちゃでも、きち〜っと、こういう調査報告書をまとめるのですよ。
たぶん今も厚生労働省の中で、非正規雇用者の現状について、とか、生活保護申請状況の分析、とか、そういうお題で、すばらしく綺麗で体裁の整った調査報告書が毎日毎日作られているのと同様に。
彼らは明治以来、霞ヶ関の机の上で、ずうっとこういう綺麗な綺麗な報告書を作ってきたんです。
戦前も、戦後も、そして今も。報告書に書かれる側の人達の、個人としての生活や人生や感情とは、あたかも違う次元の世界に生きているかのように。
(3)10名くらいの女子中高生が撮った、帰国事業で北に行く友人のための記念写真
愛知県の朝鮮中高学校の校庭で、セーラー服のかわいい女の子達が撮った記念写真です。
首から花のレイをかけた女の子が4人いて、それ以外の子達の首にはそれがない。おそらくその 4名が北朝鮮に戻る家の子供達だったのでしょう。
1960年9月の写真です。もう一年遅ければ、彼女達も北朝鮮への帰国はしなかったかもしれない。
この子達のその後を考えると心が痛みます。送り出した少女達の方は今60代半ばです。
日本で暮らしているのでしょうか。自分のアルバムにあるこの写真を、どんな思いで見つめるのでしょう。
(4)国債を売るためのビラ
国債と債券で、さあもう一機、もう一艦というタイトルのビラです。
なんだか笑えました。今またもや日本は財政破綻に向かいつつあります。こういうビラが、来年くらいに再度発行されてもおかしくありません。お題はこんな感じ?
国債と消費税で、さあ年金支給、さあ弱者保護
なお、このビラの後半には一升の醤油を水で薄めて二升にして使う方法が紹介されてます。
このふたつのレベル感の差がおもしろいでしょ。この国の基本調味料である醤油も足りなくなってる国が、借金して“もう一機、もう一艦”と煽っている空しさに、涙がでそう。
他にも「あ〜だから、パチンコ屋って在日の人がやってるわけね」とかいろいろ学びもありました。
冬ソナに熱狂する日本のおばさんを冷笑するような詩もありました。「チェ・ジウのような可憐な朝鮮の女の子が、当時どんな仕打ちをされたか知っているか、ヨン様のような若者がどんな人生を送らされたか(韓国ドラマに熱狂する日本の女性は)知っているか」、と書いてあった。
・・・
こういうところにくると、ちきりんは思うです。「教育の意味」ってこういうことなんだな、って。
関東大震災の時の事件などが象徴していると思うけど、人間って「自分が蔑むことの出来る対象」を常に探しているよね。
「こいつアホだな」と言える人を探すことで、自分の尊厳を確認したいし、守りたいんだよね。自分だってものすごいつらいから。
教育の目的は、自分の中にある、そういう人間としての弱さを、他者に転嫁しなくても消化できるスキルを身に付けることだと思う。
まあとにかく、期待してたよりすごく勉強になりました。映像資料もあるようなので、また時間ができたらゆっくり訪れたいと思っています。
というわけで入館料は200円だし(東京にいる方なら)実際に訪れてみた方がインパクトあるとは思いますが、下記のカタログ本に展示品の多く(上記で紹介したモノを含み)は掲載されています。ちきりんも現地で買ってきたのですが、いろいろ考えさせられる一冊です。

- 作者: 在日韓人歴史資料館
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2008/12/17
- メディア: 単行本
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こんなエントリ書くと、また左だ右だという話になりそうなので、ちきりんは靖国神社の資料館にも感動しただすよ、という過去エントリも紹介しときます。