“自分の表現法”と出会う

「日本一のニート」を標榜する phaさんとの対談 からは、いろんな“気づき”がありました。

ひとつ興味深かったのは、pha さんが「プログラミングを知ったことで、自分に適した表現方法に出会った」と話されたことです。

その数日前に他の人から、「紙に書いた提案書とかもう意味がないよね。

プログラム作って画面上で動かして“こういう感じのビジネスをやりましょう”って言ったらすぐ済む話なのに」と言われて、その時は「そうか、プログラムがパワポに取って代わるのね」と思いました。

つまり、「プログラム=プレゼンツール」なんだと思ったのです。

でも、さらに一歩進めて“プログラムって表現方法なんだ”と、この日(ようやく)理解できました。


人間ってみんな自分の中に「何か」を持っています。それは、なんらかの表現方法を通して具現化しないと他人には伝わりません。

伝わらないと理解してもらえないし、それどころか、表現方法というフィルターを通さないと、自分自身でさえそれが何なのか意識できなかったりします。

誰かに自分のことを伝えたい、誰かに理解して欲しい、自分自身、今、自分の中に在るものを理解したい、というのは、誰もが持つ自然な衝動です。

だから、その「自分の中の何か」を巧く(ああ、これなんだよ!という感じで)表現しうる方法やツールを手に入れられたら、皆とても幸せなはず。


自分を表現するツールって実は、

  • 話し言葉(表情とか含む)
  • 書き言葉(散文)
  • 短歌・俳句、詩、コピーのような言葉、韻文
  • 演芸(落語、漫才、駄洒落?)
  • 写真
  • デザイン、意匠
  • 楽器
  • メロディ、曲、リズム
  • 体(踊り、劇、体操的なもの、いろいろ)
  • 映像
  • 料理
  • プログラム
  • 創造物(建造物、モノ、現代アートみたいなもの含む)
  • 働き方(?)
  • ビジネス

など、結構いろいろあるんです。


そして考えてみるとこれらの大半は学校で、しかも義務教育のかなり早い段階でひととおり体験させられます。

作文書いて、絵を描いて、韻文も作ってみたり、歌も歌って(なぜか)笛吹いて、運動会には踊らされ、文化祭では演技もします。


そうか、あれって「あなたにとっての表現方法を見つけなさい」っていう教育だったんだな、と、今日、気がつきました。

なにかひとつくらい自分にぴったりな「自分を表現する方法がみつかればいいよね」という、そういう教育課程なんだと。

プログラミングは今の小学校のカリキュラムにはなさそうだけど、それが個人の表現方法になり得るのなら、是非とも早めに子供達にも体験させた方がいいですよね。


私は「テキスト、書き言葉」という比較的一般的な表現方法で自分を表すことが得意でした。

小さい頃から作文がよく入選していたし、文章を書くことが大好きで、日記をずっと書いてきました。

テキストという一般的な表現ツールが自分に合っていた私のような子供はとてもラッキーです。

でも、そうでない子もたくさんいます。

自分に合った表現方法が見つからなくて、周りに自分のことが理解して貰えなかったり、自分自身が自分をうまく扱えなかったりすると結構つらいです。

わかってもらうことを諦めたり、拒絶したり、絶望したり、するかもしれない。時には暴力や、“閉じる”という行動によって、それを表現することになるかもしれません。


当然だけど、表現方法の幅よりも、人間の心の中にあるものは圧倒的に多彩で多様です。だから、それを 100%表現するのは誰にとっても不可能でしょう。

言語化が得意だと自認する私でさえも、言葉では表現できない多くの感情を抱くことはよくあります。

だけれども、出来る範囲ででもそれらを具現化すれば、個々人の疎外感という不幸を減じる大きな力にはなるはずです。

だからそのツールとなりうる「自分の表現チール」には、できるだけ多く、早い時期に遭遇できるよう、小学校などで触れる機会があるのはいいなと思います。

そしてその際、「表現方法を探す」ことを明示的な目的として認識させれば、より生産的だとも思います。

言葉で表現できない感情を抱える(認識する)というのは、「誰も俺をわかってくれない!」わけでも、「コミニケーション能力が低い」わけでもなく、

自分に最適な表現ツールをまだ手に入れてない(出会っていない)だけだと教えるのです。そして、その“手段を手に入れる”ために、いろいろ試してみればいいのよと、教えてあげるのです。


今もしあなたが、「誰にも伝えられない、わかって貰えないことがある」と感じているとしたら、それはもしかしたら「それを伝える“自分の表現法”とまだ出会っていないから」なのかもしれません。



そんじゃーね。


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