世界のお札から

皆様の多大なご協力により完成した“各国のお札の図柄一覧”、呼びかけ後あっという間に情報が集まってびっくり&感激しました。(前エントリはこちら) というわけで今日は“まとめ”を書いておきます。


下記をご覧ください。まず大きく分けると、お札に人物を載せている国と載せていない国があります。人物を載せている場合、(1)政治家、為政者、(2)元首、そして(3)文化人に分かれます。人物を載せない場合は、建物か動物や偶像(女神像など)がメイン図柄となっていました。




図をみていたら、いろいろおもしろかったので感想を順不同で書いておきます。


感想1:大国は政治家を載せる
アメリカは大統領を中心に政治家ばかり、中国もすべてのお札の肖像画を毛沢東で統一しました。世界のスーパーパワーを目指す国としては、「お札に文化人とかあり得ないでしょ」ってことなんだと思います。同じ意味で北朝鮮も大国主義ですから当然、首領様を載せています。


感想2:南米の歴史は力の争い
南米の特徴は「政治家=軍人」「革命家=為政者」というパターンが多いこと。国の権力のトップに就く人は選挙ではなく“力”でその地位に上り詰めるのだ、というのが南米大陸の歴史なんだなーって思いました。


感想3:建国の父は偉大すぎる
ベトナムのホーおじさん、トルコのアタテュルク氏、インドのガンジー氏など、すべてのお札にその一人が載っています。「我が国としてはこの人以外考えられません」ということなんだね。

また、インドネシアは複数人の肖像画ですが「オランダとの独立戦争の勇者」ばかりで、これもやっぱり「この人達のおかげで今の国がある」という強い想いを感じます。オランダからみると微妙でしょうが。

台湾もおもしろくて、5種類のお札のうち2つには人物が載ってます。中国の父である孫文と、台湾の存在理由ともいえる蒋介石です。ところが残りの3つのお札は野球チームだの望遠鏡だのとやや意味不明な図柄。これってきっと、「孫文&蒋介石に並べられるような人物は他には誰もいません」という意味なんですよね。だからこの2人以外はいきなり望遠鏡の絵になってしまう。台湾がどれほどこのふたりを特別視しているかが伝わってきます。


感想4:元首だと現役もありなんだ・・
人物の2パターン目は元首です。大英帝国系の国は“女王”を表面か最高額面に載せます。その他の王国も同じ。元首の場合「現役」の人を載せるのもあるのがすごいなーと思います。政治家だと現職大統領のお札はまず考えられないよね。


感想5:ロシアはなんで銅像なんだ??
ロシアの今のお札って、全部“銅像”が載ってるんです。なんの銅像かというと、ピョートル1世だったりキエフ大公だったりするので、帝政時代等の統治者や元首。これ、なんで肖像画を載せずに銅像を載せるんでしょう??ちょっと不思議。

ちきりんの仮説はこうです。ロシアはソビエト時代、何から何にまでレーニンの肖像画を載せていました。町中にレーニンの肖像が溢れてたんです。だから「偉い人の肖像画」をあちこちに載せることへ忌避感があるんじゃないかな。

レーニンの顔を町中に溢れさせていた時代は忘れたい時代だし、顔写真があちこちで見られるのはロシアの人にとっては「英雄の印」ではなく「独裁者の印」に見えるのではないかと。だから肖像画ではなく銅像を使うという、世にも回りくどい方法を採用してるのかなって、そう思いました。(いやたんなる妄想ですけど・・)

あとブラジルや香港のお札にも“女神像”みたいなのが載ってます。ブラジルは女神が丘の上で両手を拡げてる像も有名ですし・・・なにか具体的な人物が使えない理由があるんでしょうか。よくわかりません。


感想6:旧西欧のお札が文化人なのはいつから?
ユーロ直前の西欧諸国のお札の多くが「文化人」のみを載せています。これって示し合わせてこうなっているのでしょうか。また、いつからこうなんでしょう??たとえばフランスのナポレオンやジャンヌ・ダルク、ドイツのビスマルクなんかは、一度もお札に載ったことがないのでしょうか?このあたり、縦比較(時系列比較)も是非知りたいものです。


感想7:韓国はやっぱり儒教の国
韓国のセレクションも興味深い。世宗大王は王様ですから元首であり統治者なんですが、同時に儒教に基づく政治で有名な名君です。そして、彼以外の肖像画モデルにも儒学者が多い。と考えると、世宗大王も王様だから選ばれたのではなく基準は「儒教を重んじた人」なのかもしれない。

韓国ドラマをみていると、父親の権威とか“長男の嫁”感覚などをすごく強く感じ、儒教が生活に生きている度合いが圧倒的に高いといつも思うのですが、お札に載る人のセレクションにもその辺が現れてるみたいです。

アメリカの共和党候補は選挙中、日曜の午前中に家族で教会に行くのが欠かせませんが、韓国でも「親を大事にしない大統領」ってのは決して実現しないんだろうなと思います。


感想8:人が載せられない国には理由がある
人物を載せていない国は代わりに建造物か動物を載せるみたいですが、人物を載せない国にはそれなりの理由があるようです。

理由1)イスラム教の偶像崇拝:アラブの国(アフリカのイスラム国を含む)に人物を載せない国が多いのはその影響ではないかな。ただしサウジアラビアは王家を載せているので例外もあります。

理由2)人物は問題が多い:ユーロも各国の英雄は全部他の欧州諸国の侵略者なのでのせにくいよね。あとアフリカ諸国においては、植民地支配やアパルトヘイトが終わるまでの統治者は大半が支配者層(白人)なので、お札に載せる人がいないんでしょう。


★★★

というわけで、皆様のおかげでいろいろ勉強になったうえにとても楽しかったです。

なんども参照してるエントリですが、「分析の基本は他社比較と時系列比較」・・上記は典型的な他社比較分析ですが、やはり時系列分析も気になりますねー。たとえば、


日本の場合、戦前は神功皇后や日本武尊など皇族(神??天皇??)もお札に載っていました。それが戦後は政治家になり、1984年に文化人になった。戦前であれば、明治天皇の肖像画のお札があっても不思議でないのに実現していない理由とか知りたいです。やっぱり、天皇なんて載せたら(お札を)ぐちゃぐちゃに懐にしまったりできないし、不敬ってことなんでしょうか。

フランスは革命で共和制に移行した国だから、太陽王(ルイ14王)なんかを載せたくないのかな?フランス革命と王族、貴族を載せないことに関係があるのかどうか、関心あるよね。それと、フランスには文化人はそれこそ山ほどいる。どうやって“セザンヌ”が選ばれたのか知りたい。もちろんスペイン人のピカソを選ぶわけにいかないのはわかるけど。(それとも案外、純フランス国籍の芸術家って少ないの??)

中国も毛沢東をお札にしたのはいろいろ政治的な洗礼を経てのことなんだろうけど、これって中国暗黒史である文化大革命をある程度乗り越えたということ?それとも“元”の国際化を睨んでのなんらかの布石?とか。いろいろ興味深いです。


というわけで、次は、それぞれの国でのお札の図柄変遷をその国の歴史とあわせて調べたらおもしろいんじゃないかと思いました。おっと、でももうネット上での情報募集はしておりません。誰か学者さんにでも任せましょう。ちきりん的にはそういうのがまとまって新書で800円くらいで読めたら嬉しいです。

情報を寄せてくださった皆様、ほんとにありがとうございました。


そんじゃーねー