累犯障害者

山本譲司氏の「累犯障害者」を読みました。著者は元菅直人氏の公設秘書を経て衆議院議員になった、いわゆる社民的な政治家です(でした)。2000年に秘書給与流用の詐欺容疑で逮捕され、実刑判決を受けて栃木県の刑務所で服役。刑務所の中で経験したことをまとめて2003年に体験記である「獄窓記」を、ついで2006年にこの本を出しています。


これ、ここ数年間に読んだ中で最も衝撃的な本でした。

たった12ページの序章を読んで、もうそれ以上読むのはやめようか、と思いました。読まなくてもその後にでてくる世界の悲惨さは十分にわかってたし、読んでも自分には何もできないと知っていました。読むのがつらくてやるせない作業だとも十分に理解していたので、もうやめようかな、と。読んでどうなるわけでもないし。



序章からの引用です。

栃木県の黒羽刑務所に入所した私を待っていたのは、一般受刑者達に「塀の中の掃き溜め」と言われているところでの懲役作業だった。そこは、精神障害者、知的障害者、認知症老人、聴覚障害者、視覚障害者、肢体不自由者など、一般懲役工場での作業はとてもできない受刑者を隔離しておく「寮内工場」と呼ばれる場所。


この寮内工場での私は、刑務官の仕事をサポートする指導補助という役目を命じられていた。障害を抱える受刑者達に仕事を割り振り、日常生活においても、その介助をするという仕事だ。失禁者が後を絶たず、受刑者仲間の下の世話に追われるような毎日だった。


序章を読んだあと数日放っておいて、「それでもやっぱり読むことに価値があるのかも」と思い直して読むことにした。読んだ後ちょっとだけ救われたのは、著者が未来に向けた最終章を用意してくれていたからだと思います。


ちきりんは「世の中にあるどうにもならないこと」はできるだけ見ないようにしています。見ても仕方ないでしょ。つらいだけだから。自分には何も出来ないし、誰も本気で解決する気もないし。どんなに悲惨で、どんなにひどくても、どうしようもないなら「知らない方がマシ」だから、できるだけそういうものは見ないようにしてるんです。

だからこういうことについても「あんまりいろいろ知らない方がいいんだよね」と思ってはいるんだけど、なぜかいろんなことを見てしまう。意思というより偶然だったり必然だったり、なんだかしらないが、誰だかがそれをちきりんに「読め、見ろ、しっかり見ろ」と突きつけてくるような感じ。見たくもないのに見せられている。


で、読んだ。


読んでみて思った。なにもできなくても「知る」だけで意味があるのかもしれない、って。知らないのと知っているのは(たとえ何もできなくても)大きく違うかも、って。

たとえば、警察官になる人、司法試験の合格者、裁判所で働く人、刑務所での仕事に採用された人、市役所に採用された人(公務員になる人)、法務省や厚生労働省に入省することが決まった人、小学校と中学校の教員に採用された人などは、働き始める前にこれを読んだらいいんじゃないかな、と思う。

最初は「学校での推薦図書にすべき?」と思ったけど、戦争アニメ映画の「火垂るの墓」と同様、こういうのを読むことに耐えられない人もいる。だから、せめて職業として関係ある人くらいが読んでいてくれたらいい。読んでどうしろとまでは思わない。先に書いたように、とりあえず知ることだけで大きな第一歩だから。



本の中にでてくるデータによると、日本では知的障害者は46万人と言われている(内閣府・障害者白書、平成18年度版)。これが本当なら日本の知的障害者は人口の0.4%弱にすぎない。でも欧米では知的障害は人口の2-2.5%と把握されている。日本ももし同じ比率なら300万人くらいの知的障害者がいてもおかしくない。

これは何を意味するかというと、日本では知的障害者の7人に1人程度しか“国”=“福祉”にその存在を把握されていない、ということ。残りの6人はどうやって生きていっているのか、という話につながる。



ちきりんは著者の山本譲司氏が国会議員としてどういう活動をされていたのかよく知らない。だけど、この人が433日間、刑務所で過ごした経験は、この本になることによって、社会にたいしてものすごく大きな価値に結晶した。皮肉じゃない?国や社会のために尽くそうとして国会議員になった人が、犯罪で刑務所に入れられ、そこでの体験こそが、ものすごく大きな「社会のため」の価値を生む。

人生ってそういうところがある。すごく偶然に「自分がやるべきこと」に出会う。最初は全くそんなことを想定してなかったのに、いつのまにかそういう仕事をしている、というようなこと。


残念ながらちきりんは、この本の感想を文字で表現する力をもちあわせていません。だから下記に目次だけ書いておくです。それをみて、「自分はこれを読むべきだ」と思う人だけ読んでみてください。読むのがつらければ途中でやめればいいと思います。


累犯障害者 (新潮文庫)

累犯障害者 (新潮文庫)

目次

序章 安住の地は刑務所だった  (下関駅放火事件)
第一章 レッサーパンダ帽の男  (浅草・女子短大生刺殺事件)
第二章 障害者を食い物にする人々  (宇都宮・誤認逮捕事件)
第三章 生き甲斐はセックス  (売春する知的障害女性達)

第四章 閉鎖社会の犯罪  (浜松・ろうあ不倫殺人事件)
第五章 ろうあ者暴力団  (「仲間」を狙い撃ちする障害者)
終章 行き着く先はどこに  (福祉・刑務所・裁判所の問題点)


そんじゃーね