本の感想)日弁連ってそうなんだ!

先日「法律の専門家のお粗末な説明能力」というエントリを書いた。

その直後、ブログを読んでくださった弁護士の小林正啓氏からご連絡を頂き、ちきりんの疑問に対して丁寧な回答を頂いた上、下記の本を送って頂いた。

これを読んで、ちきりんは初めて「弁護士界」がどういうものなのか理解できた。こーゆーことが起こっていたのねーと謎が解けた。これはちょっと読む価値ありです。


こんな日弁連に誰がした? (平凡社新書)

こんな日弁連に誰がした? (平凡社新書)


で、本の感想を書こうかと思ったけど、興味ある方はちゃんと本を読まれたほうがいいので、ここではサマリーではなく、ちきりんの発見した「3つの共通点」について書いておきます。



共通点1)新左翼団体と日弁連

ちきりんは新左翼に関心があり、よど号事件や赤軍関連、浅間山荘事件関連など多数の本を読んでいます。だから今回この本を読んで、彼らと日弁連の共通点にすぐに気がついた。このふたつ、同じ性格の組織です。


その共通点とは、

(1)時代を読むセンスがない。
(2)結論なき理論的な議論が大好きで、実践力がない。
(3)「正義の守護神である我々が、下々の民を守るのだ」と思い上がっている。


新左翼も日弁連も自分達だけの世界にひきこもって活動しているから、世の中がどう変わろうとしているか、どこに向かっていくのかを読むセンスに乏しい。

加えて、理論的な議論が大好きだ。結論を出すのではなく、延々と難しそうなことを議論すること自体に喜びを感じる「議論オタ」の集団だ。一方で実践力はない。何一つ具体的に物事を推進できない。

3点目も同じ。新左翼団体も「我々は人民を救うために戦っているのだ」とか言いつつ人民を見下していた。自分達よりレベルが低い人のために、高邁な位置にある自分達が自己犠牲をしながら戦っているというのが、彼の世界観だ。

これらの3点において、新左翼団体と日弁連はすごーく似ている。



共通点2)日本全体と日弁連

読んでいて、日弁連って日本の縮図のような団体だなーと思った。バブルに踊り、バブル崩壊にパニックしてコトの道理まで見失い、失われた10年(20年)の中で自ら進んでより深い泥沼にはまっていく。全く同じだ。単に時代に翻弄されているだけ。

そういう意味で経団連はやっぱり圧倒的に試合巧者だ。人手不足になったらブラジル移民の子孫を呼び戻して日本で働けるようにしたり、正社員制度が重くなれば派遣制度を緩和させるなど、自分達に必要なことはちゃくちゃくと実現させてきた。生きるためのスキルレベルが全然ちがうんだなーと思う。

官僚組織もその辺、すごいうまい。つまり組織には「時代に翻弄される組織」と「時代を篭絡しようとする組織」のふたつがある。

多分この差は、長らく自民党と民主党の差だったんだろうな。市民活動家から首相になった菅さんが「いったい何やってるんだっけ?」状態になってるのも根っこは同じだと思う。時代の変化の中で右往左往するだけの組織では、集団を率いることはできない。



共通点3)博士号をとる人とロースクールを目指す人

会社を辞めてまでロースクールに入った人が、試験に通らない、たとえ通っても仕事がない、他に就職先もないので大変、と聞く。そして、だから「制度が悪いのだ」となる。

これ、下記の本で読んだ話と似てるなーと思った。「博士号を教授に勧められて取得したのに就職できませんでした」という話で、こちらも「制度が悪くてオレはだまされた」となっている。

・・・ この人たちは本当に素直だ。


高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)


博士号をとろうという人や法律家にとって、「事実や情報を集めて分析し、自分の頭で考えて独自の仮説をたて、それを検証する」のが、基本プロセスのはず。

そういうプロフェッショナルを目指す人たちが、「自分が就職できないのは制度が悪い」と、まるでロスジェネ派遣期間工の人たちと同じことを言うってのは、どうなんだろうね。


ロースクールや博士課程の学費、奨学金の状況、就職状況なんてちょっと調べれば最初からわかるはず。事前に現役の博士号課程にいる先輩や弁護士の先輩に意見を聞けば、新たな制度がどう見られているかだってわかったはずだよね。それでもチャレンジしたのは自分なりに考えた上で「やれる」という仮説があったからなんでしょ。

実はこれ、ビジネススクールだって同じです。今、欧米でMBAをとるには2000万円近くかかる。いくら貯めてから、どうファイナンスして留学するのか、その後の就職はできるのか、年収はどれくらいか。企業丸抱えの派遣生や親が大金持ちの二世以外は、会社を辞めて進学する前にみんな慎重に検討する。

いくら検討しても実際には留学後にリーマンショックが起こり、就職が一気に難しくなることもある。それでも彼らは、リーマンショックで就職できなくなったのは自分達のせいではないのだから「誰かが責任をとってくれるべきだ」とは言わない。

大学三年生が就職時の有利不利さに不平を唱えるのは理解できる。でも30歳を超えていたり、博士号をとる人、いったん働いてから職業系の大学院に行く人はみんな立派な社会人だ(の、はずだ)。「騙された」「制度が悪い」「自分は被害者だ」って言ってればいい立場じゃないだろーと思う。



というわけで、「これって、あれと一緒だ!」「これ、あの人たちと同じだ!」などと思いながら読み進めた。いろいろ学びの多い本だった。ちきりんのエントリに反応し、コンタクトしてくださった小林さんに感謝です。


そんじゃーね!