若者にお勧め→「起業のファイナンス」

昨日から、「isologue(イソログ)」さんこと磯崎哲也さんとの対談掲載が始まりました。全体で 9回の掲載です↓

Business Media 誠:ちきりん×磯崎哲也のマジメにおちゃらける:え、水商売を? ちきりんさんの正体に迫る (1/4) Business Media 誠:ちきりん×磯崎哲也のマジメにおちゃらける:え、水商売を? ちきりんさんの正体に迫る (1/4)


対談前半では“レトロおちゃらけた写真”が目を惹きますが、大事なのは後半、磯崎さんの新著「起業のファイナンス」が話題になってるところです。

企業財務や資本政策について基礎知識が学べるので、ファイナンスをよく知らない人にはもちろん役立ちますが、この本のポイントは寧ろタイトルの前半「起業の」のところにあります。財務の本というより起業についての本なんです。

各章は資本政策とか財務諸表の意味などファイナンスの各面についての説明なのですが、全体を通して読むと、「ファイナンス面から見れば、起業ってのは何なのか?」ということがよくわかります。


起業を語る時っていろんな側面があるでしょ。

・ビジネスモデルで語る
・技術で語る
・起業家の個性について語る
・市場や既存プレーヤーに与えた影響から語る、など。


そんな中、「起業をファイナンス面から語ると、こういうことなんですよ」というのが、この本のコアメッセージと(ちきりんは)理解しました。

対談でもふれましたが、この本の中には起業をする時(した時)に大事なのは、「いつ頃、どれくらいのビジネスにしようと思うか」という目安を持つことだと書かれています。

そしてそういう企業規模の目安を、顧客数やアクセス数などでもつのも悪くないけど、まずは「売上高と利益」の目安をしっかり持ちましょう、と。

で、そこから逆算して、だったらどれくらいの顧客数が必要、どういう単価にならないといけない、どれくらいのアクセスが要るよね、と遡って分解していけばいい。


この売上の目安(目標とさえ言わなくていいと思います。目安や目処、でいい)と、それを実現しようとする時期(これも○年○月決算と決めるのがベストだけど、3年後、5年後、8年後、くらいのゆるい目安でいい)をもつと、「自分達は何をやろうとしているのか」が非常にクリアになる。

そして組織(経営者仲間)でその数字を共有すれば、節目となる経営判断を迫られた時に判断のよりどころにできる。

たとえば「自分達の目標は○○年に○○億円だよね。だったら、今これをやる必要はないんじゃない?」とか

「○○年に○○億円を目指してるわけでしょ。このやり方じゃ全然間に合わなくないか?いろいろ問題はあっても、やっぱりあそこと提携すべきだよ。」とか意思決定の判断基準として使えるようになるわけです。

人の採用とか、どういうペースで事業を拡大すべきかなど、ベンチャーを経営してると毎日「???」がいっぱいの経営判断を迫られます。

そんな時、この「目標と到達期限」が判断のよりどころ(指針)となり、ぶれない判断が迅速にできるようになる。

これがそもそも、経営計画や財務計画の存在意義なんですよ、という理屈はとてもわかりやすい。非公開段階の企業にとっての財務(ファイナンス)の意義を明確に表現していると思います。


もう少し具体的にいえば、「 5年後に 1億円の売上の会社」を考えているのと(もしくは特に目処を持たず“行けるところまで行く”的な積上げ型思考で考えているのと)、「 5年後に 100億円の売上の会社」を当初からイメージしているのでは、

・同じ経営者が
・同じビジネスモデルで
・同じアセットをもって

起業しても、5年後の着地点は全然ちがったものになりますよ、ということです。それくらい「できあがりの姿の目安」を持つことが結果を規定してしまう。


これは、これから起業を考えている人、実際に起業したばかりの人、小さなスタートアップで働いていて漠然と「もっと事業を大きくしたい」と考えているような人にはとても価値あるアドバイスだと思いました。


磯崎さんは本の中で目安となる数字をあげていて、
投資家からお金をだしてもらったら、
・5年以上10年以内くらいで
・時価総額500億円くらい
を目安としてはどうかと言われてます。

時価総額500億円ということは株価収益率20倍として利益が25億円です。業態によりますが売上として100億円は必要になるイメージです。


この規模の“目安”って、なかなか自分では想定できないでしょ。

起業する人の中には、家族親戚はみんな会社員や公務員という人も多いはず。そういう人にとって「 7年後に売上 100億円の会社にする」という目標は、自然にはなかなかでてきません。

すると“同じように必死で頑張っていても”、ベストケースで売上 1億円くらいの会社に収まってしまうわけです。

最初から「売上 100億円、時価総額 500億円!」と掲げていれば、それにより初めて、そこまで到達できる可能性がでてくる。

目安を持ったら成功するという話ではなく、持たなければまず到達できない、という話。


ここがこの本を読んで、ちきりんが一番、価値のあるメッセージだなーと感じた部分でした。


が、それ以外にもいろいろ勉強になるし、最初に書いたように「起業って何なの?」というのがイメージできるナイスな本なので、就活前で「起業とかアリなんだろうか?」と漠然と感じている学生さんや、働いて3年目くらいで、「次は何をしようか」と考えている若手の方にもすごく価値のある本だと思います。

それにかなり分厚いのだけど、磯崎さんのやわらかい口調そのものの文章で書いてあるので、とても読みやすいです。

いい意味で「学者じゃない人が書いた本」です。で、読みやすいからさらっと読めてしまうけど、でもできればさらっと読まず、よく意味を考えながら読んだほうがいいかも。そうすると著者の含蓄が見えてきます。


というわけで、お勧めの読み方は下記です。

ステップ1:まず↓このエントリを読んで、絶望と混乱の穴に突き落とされてください。
就職氷河期 サイコー! - Chikirinの日記 就職氷河期 サイコー! - Chikirinの日記


ステップ2:落ちきったところで、↓この本を読んでください。

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと

きっとあなたの“救いの書”となるでしょう。


そんじゃーねー