絶滅危惧職=ヘッドハンター

インターネットが駆逐していく代表的な職業といえば“仲介業”。ネットそのものが巨大な市場であり、需要側と供給側を低コストでスピーディにマッチングしていく機能を持っている。ネットがなかった時代にリアル社会に営々と構築された様々な“仲介機能”は、そのコストの高さ、カバレッジの限界から、ネットに太刀打ちできなくなる。

というのは、あちこちで見られる現象なわけですが、最近のTwitter, Facebook, Linkedinなどの広がりを見ていると、そろそろ“ヘッドハンティング業”(エージェント、人材紹介業などの呼称も含め)も“絶滅危惧職”かもねー、と思えてきます。


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整理をするために、人材仲介業市場を4つにわけておきましょう。


(1) 本来の意味での“ヘッド”をハント
大企業の米国本社が日本法人社長を探す場合や、日本の一流大企業が外部取締役を探すようなケースです。(例:日本マクドナルドの社長を探す、東京電力が女性役員として迎える人を探す、など)

誰でも埋められるポジションではないので、最初に“求められる人のスペック”が合意され、条件に合う人に目星をつけ、固有名詞のリストを作って順次コンタクトしていきます。


(2)事業責任者を探す
・大企業の部門責任者を探す
・比較的小さな外資系企業が日本代表を探す
・中堅、中小企業が社長の右腕や後継者候補を探す
・ファンドが投資先に送り込む人材を探す
・特定分野での高度な専門職を探す
などがあります。

候補者の年齢は40代くらいで、このポジションで実績を残すと、(1)のヘッドハントの対象として上っていくことができます。(1)のように最初から固有名詞で探すのではなく、各業界における「優秀な人が集まっている企業」の人に片っ端から会ってみて候補者を探す、方法がとられることが多いです。また、紹介によって芋ずる式に“候補者リスト”を作ったりします。


(3) ポテンシャル人材を探す
30才前後で、まだ実績はあげてないけど明らかに潜在能力があって、元気はつらつな人に、「ちょっと背伸びした実力主義のお仕事に従事してみませんか?」と誘うような市場。

・ロスジェネ年代の人材層が薄い大企業が外部から補充しようとする
・新卒採用は非効率と考える外資系企業が中途採用でコア人材を採用しようとする
・業容絶賛拡大中の成長企業が、即戦力を大量採用する
・上記(2)の人の手足になれるスタッフを探す
などで使われます。


(4)転職斡旋
リクルートエージェントとかエンジャパンなどが手がけている市場です。数としては最大だし、業者も星の数ほどあります。「登録型」と呼ばれ、転職したい人が自分の情報を登録し、人を探している企業が求人をポストする。民間ハローワークですね。


というあたりが、いわゆる「人材仲介業」です。

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このうち(4)はあまり問題はないでしょう。既に彼らの仕事ツールもネットベースになりつつあるし、人材側も求人側も非常に数が多いので、形式が統一されたITシステム(DB)をもつエージェント経由でマッチングする合理性は残ります。大企業(大手エージェント)への寡占は進むとは思いますが、SNSがその市場を代替するのはまだまだ非効率でしょう。


が、(2)(3)あたりの市場は急速に、SNSに置き換えられるんじゃないかと思います。


理由はふたつ
・人材仲介フィーが付加価値比で高すぎるから(他の消え行く仲介業と同じ)
・人材サーチの基本である“金脈人材ネットワーク”こそがSNSに移動するから


最初の理由は言わずもがなですが、二番目の“金脈人材ネットワーク”がキモ。(2)や(3)のサーチ成功の鍵はひとえに「金脈となる優良な人脈ネットワークを掘り当てること」にかかっています。

ひとりでも「金脈人脈」の中にいる人にたどり着けば、あとは芋ずる式に「優良人材」を手繰り寄せることが可能。そういう人たちってのは基本的にどの業界においても“つながってる”んです。

で、Facebookなんてみてると、基本はそういうネットワークがそのまま移植されようとしていて、しかもエージェントだろうとなんだろうと“外部者”はその中に入れないのにたいして、“内部者”はその中で「こんな仕事の話があるよん!誰か興味ある?」とすぐに情報共有できるようになりつつある。

誰かひとりが情報を仕入れてくれば、全員がばらばらにエージェントとコンタクトする必要はなく、それらの情報に触れることができる。しかも「自分のネットワーク上にいる人の情報スクリーニングのほうが、エージェントの能力より余程信頼できる」という人は少なくない。

ちなみに今までもLinkedinの上で超有名企業のリクルーターが個別に候補者を検索して「会って話をしてみませんか?」みたいな活動を活発にやっていたけど、これだとあくまで一対一のお誘いにすぎない。その点はFacebookのほうが圧倒的に効率的。


(1)のヘッドハント市場だって、意中の人にいきなりTwitterで話しかけてアポをとることができるようになれば、候補者を直接誘う、ってのもできるようになるし。政治家の「立候補の候補者探し」にも使えそう。結構高いポジションの人がTwitter始めているし、米国でそうなりつつあるように過去の発言などでクレディビリティチェックや、仕事に対する姿勢の確認までできてしまう。


というわけで、年収2000万円の人を一人転職させたら、いきなり600万円も報酬がもらえるようなふざけた仲介業の終焉もそろそろかも。



そんじゃーね。