先日、転職エージェントに関して「存在意義を問われる仲介業者」という趣旨のエントリを書きました。
2月6日の名古屋・愛知のトリプル選挙で起ったことの意味も、それと同じでしょう。
まずはまとめから。
2月6日(日)、(1) 愛知県知事選、(2) 名古屋市長選、(3) 名古屋市議会の解散を問う住民投票、のトリプル選挙が行われました。
市長に再選された河村たかし氏と、タッグを組んだ大村秀章氏の支持陣営の圧勝です。民主、自民なども候補者を擁立しましたが、全く歯が立ちませんでした。
愛知県知事選・・(投票率 52.52%)
当選 1,502,571 大村 秀章
次点 546,610 重徳 和彦
名古屋市長選・・(投票率 54.14%)
当選 662,251 河村たかし
次点 216,764 石田 芳弘
名古屋市議会解散の住民投票(選管最終発表)・・(投票率 54.17%)
賛成 696,146
反対 252,921
支持者の投票率を上げるため、任期途中で辞任して市長選の同日投票に持ち込んだ河村氏のやり方や、財政赤字下での減税案などについては反対論も多いようですが、私は河村氏を支持しています。
何度も書いていますが、大きな変革を起こすときに、混乱も犠牲者も手続きの瑕疵も一切無く、すべてがスムーズに進むなんてありえません。
強引すぎる手腕と、自身への批判をモノともしない胆力のあるリーダー無しには世の中は何も変わらないのです。
さて、今回の市民の選択、その結果の解釈については、様々な言葉で表現できます。
たとえば、「政治における中央集権制の終焉(=自民、民主など中央政党の敗北)」とも言えるし、「地方首長カリスマ時代」なのかもしれません。
それらの中でちきりんは、今回の問題の本質は、“仲介業者としての地方議会・地方議員”が存在意義を問われ始めたということだと理解しています。
(前市長が暴走しすぎたけれど、阿久根市問題も全く同じです。)
ちなみにここで“地方”という言葉は“中央=国政”との対比で使っているので、港区議会(&議員)も東京都議会(&議員)も“地方議員”です。
“地方議会&議員”は、住民自治=民主主義の象徴的制度として導入され、手厚く遇され、強い権限を与えられてきました。しかしながら現実には、長期間にわたり、多くの自治体において、地方議員も議会も全くその役割を果たして来ていません。
現状では、
・住民は区議会選、村議会選、市議会選に全く関心を持たない。
・低い投票率の中、業界団体などの既得権益団体の支持があれば比較的楽に当選できる。
・議員の報酬はお手盛りで議員によって決定される。
・活動費の使用使途についてもほとんど監視を受けていない。
・議員職はしばしば世襲される。
・議員は兼職できるため、多くのゼネコン企業関係者が議員となり、議会で街の工事計画の決定に参画するなど、利益誘導型の政治が横行している。
・特定の利益団体からの要望によって極めて偏った政策、予算配分が通ってしまう。
など、“日本で最もダークな組織と職業”と言えるほどのひどい状況です。
今回、河村氏らが市民の絶対的な支持を得た背景には、減税云々よりも、この「地方議会の議員って、意味がある仕事をしているのか?」という本質的な問いかけがあったと、ちきりんは考えています。
半年ほども前でしょうか。批評家&作家の東浩紀氏がテレビ番組の中で、「インターネットを利用すれば、小さな地方自治レベルなら直接自治が可能になる」と話されていました。
直接自治とは、地方議会を通さず、市民が直接、全員で政策について話し合い、決議(=投票)していく体制です。
ネット選挙さえ実現していない現在では、直接政治・直接自治の実現にはまだまだ遠いかもしれません。
しかし投票や決議は無理でも、意見交換や議論であれば、ネット上のツール、サービスを使うことにより議会の機能の一部を代替することはもはや十分に想定できるでしょう。
そもそも可能でさえあれば、団体の運営は構成員全員が話し合って決めるのがベストです。10人や20人の部活動なら、部の運営方針は全員で話し合って決めますよね。
それを、“構成員の代表者をまず選んで、代表者に議論させ、政策を決めさせる”という間接方式に変えたのは、構成員の数が多すぎて、集まる場所がない、集まるコストが大きすぎる、人数が多すぎて話し合えない、など“実務的に難しかったから”に過ぎません。
“次善の策として”“しかたがないから”、“他に方法がないから”、議員や議会があっただけです。可能なら「直接話し合えないか、すべてを直接投票で決められないか」と常に模索すべきなのは当然です。
“地方議会&議員”そのものが、“仲介業者”なのです。
メーカーも小売店も多すぎて直接納品なんてできないから問屋が仲介業者として存在するように、ホテルの数も宿泊希望者の数も多すぎるから旅行会社が仲介業者として存在するように、地方議会&議員は、有権者の数が多すぎるから存在していた仲介業者です。
したがって、問屋や旅行会社が受けつつあるネットの洗礼を、今後は地方議会&議員も受けることになる、というのはごく当然の流れです。
他の業界の仲介業者と地方議会&議員の違いは、後者が「独占業者」であり「公的業者」である、ということです。だから待っていても“市場の淘汰”は起りません。存在意義は今回の名古屋のように、政治プロセスとして問われることになります。
★★★
とはいえ、いくらネットが普及しても仲介業者自体はなくなったりはしません。
直接取引の方が常に便利なわけではないのは、アマゾンなどの新しい仲介業者の興勢をみれば明かです。誰も本をそれぞれの出版会社のウエブサイトで、個別に買いたいなどとは思わないでしょう。
ネットという新しい技術とインフラを得て、
・より高い価値をより安いコストで提供できる(生産性の高い)仲介業者
・供給業者ではなく、消費者側から選ばれる仲介業者
が、高コストで業者側にべったりだった既存業者に取り代わっていくだけです。
地方議会と議員という「地方政治の独占仲介業者」は、今ようやくその価値を問われ始めました。
しかし、だからといって仲介業者のない“直接自治”がその回答となるわけではありません。
そうではなく、独占仲介業者であった既存の地方議会と議員職を置き換える“新しい仲介業者”がでてくるのかどうか、そこが次のチャレンジとなるでしょう。
もちろんまず「議員と報酬を減らす」というのは、ステップとして意味のあることです。
けれどそれは、JTBがリストラをするのと同じです。それだけではなく、楽天トラベルや一休ドットコムが出てこなければ、消費者(有権者)は新しい付加価値の恩恵を受けることはできません。
しかし、既存仲介業者である議会&議員の淘汰が自然に興らないのと同様に、「新規業者の勃興」もここでは市場原理から自然に出てくるわけではありません。
こちらも“政治プロセス”として設計され推進される必要があるのです。だからこそその実現には、“強力なリーダーシップ”が必要です。
最近は若手を中心にコネも地盤もない有意の人達が新たに地方議員を目指すケースも増えています。
ちきりんが彼らに期待するのは、「議員として頑張って活動する」レベルの話ではありません。彼らには是非、「地方自治における新たな仲介業者の姿」を模索し提示して欲しいものです。
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<過去の関連エントリ>
・“何が”問題なのか
・“要らないもの”リスト ・・・(リストトップに地方議会と地方議員を列挙)
<構想日本が作成した地方議員の報酬等の国際比較資料>
・地方議会のあり方について 2008/04/23
教えて下さった[twitter:@kc_vancouver]さんに感謝します!