「解雇」と「死」は似てる

この前の対談の時にちょろっと触れたのですけど、外資系企業における「解雇」って、人間社会における「死」と似てるんだよね。

たとえば、
・「最終的には総ての人が死ぬ」 = 「最終的には総ての人が解雇される」

・「でもいつ死ぬかはわからない」 = 「でもいつ解雇されるかはわからない」

・「自分が突然死んだら、家族は困る!」=「自分が突然解雇されたら、家族は困る!」
・「でも、もしそうなったら、当面は遺族年金で・・」 = 「でも、もしそうなったら、当面は失業保険で・・」

・「余命宣告をされると、なんでオレだけこんな目に!と、世の中の不公平さを嘆きたくなる」 = 「解雇宣告をされると、なんでオレだけこんな目に!と、世の中の不公平さを嘆きたくなる」

・「でも、どうしようもない」 = 「でも、どうしようもない」

・「死ぬ前に自分で死を選ぶことも可能」 = 「解雇される前に自分で辞めることも可能」

・「死のタイミングについて、できる限り先延ばしするための努力は可能だけど、完全なコントロールは無理」 = 「解雇のタイミングについて、できる限り先延ばしするための努力は可能だけど、完全なコントロールは無理」 

・「怖いっちゃ怖い」 = 「怖いっちゃ怖い」

・「でも、そんなことむやみに怖がってても仕方ない」 = 「でも、そんなことむやみに怖がってても仕方ない」

・「普段はそんなことを意識せず、楽しく生きてる」 = 「普段はそんなことを意識せず、楽しく働いてる」

そっくりでしょ?


というわけで、いつかは死ぬし、死ぬのは怖いけど、別に毎日そんなこと考えておびえているわけでもないし、どうでもいいよね、っていうのが、「死」であり、外資系企業における「解雇」です。

なおここでいう外資系企業とは、金融などある程度アクティブに人材ポートフォリオを入れ替えてる会社の話です。外資系企業でも欧州系メーカーなど、その辺、非常に穏やかな企業もあるので。

★★★

で、そういうタイプの外資系企業で長く働いてると、日本企業に勤めている人(転職を考えている人?)からよく質問されます。

「どんな世界なの?」「どんな社風なの?」などに加えて、みんなすごく気にするのが「どれくらい首になるの?」「首になった人はどうするの?」という話です。

「どれくらい首になるの?」と言われて、「んー、最終的には全員じゃない?」と答えると、目をひんむいて驚かれます。


でも実際、最終的に本社の役員なんかになる人はごくごく限られた人であり(役員になっても解雇されないわけでもないし)、基本は全員首になるというのはあながち嘘じゃない。

業績がめっちゃよければ、ある程度の期間はタダメシ喰らいの社員でも養ってくれる、というのはありますが、業績が悪くなれば、仕事ができる人だって解雇され得ます。だから自分の頑張りだけでどーにかなる問題でもないんです。


「首になったらどうするの?」という質問も回答が難しいです。

どーするも、こーするも「失業するだけでしょ。仕事が必要なら次の仕事を探せばいいし」というと、これまたものすごい不思議な目で見られたりします。


なにがそんなに不思議なのか、こっちが聞きたいです。


「いや、でも、僕は子供が 2人もいるから、そんな簡単に言われても困るんだけど」と言われても、こっちも困ります。

これも死ぬのと同じですよね。いくら子供が 2人いても、死ぬ時は死ぬでしょ?

いきなり稼ぎ手が死んだら、そりゃあ家族は困るでしょうけど・・・しゃーないやん?

貯金しとくなり保険に入っておくなり、備えたいなら備えればいいけど、死自体を避けるのは無理です。


なんだけど、日本の大企業や大組織にいる人って、「誰も 65才までは死なない。みんな 65才で一斉に死ぬ」っていう世界で生きてます。つまり 60才近くなるまで、全く「死」を意識しない世界にいます。

それくらいの年齢になるまで、周りでも誰も死んでいないし、自分が死ぬこともあり得ないし、コンセプトとして「死」が存在しない世界にいるわけです。

通常の世界において、若い人が「死」なんてほとんど意識せずに暮らしているのと同じようにね。


だから、「もしかしたら 30才で死ぬかも!!」とか「もしかしたら 45才で、子供がまだ小さい時に死ぬかも!」っていうのは、ものすごい怖いんでしょう。いや、たしかに怖いですよ、そりゃー。

でもね、「そんなことになったら困る。子供を育て上げる責任がオレにはあるんだ!」

って言っても・・・責任があろうがなかろうが、死ぬ時は死ぬんですのよ、人間。交通事故とかだってあるわけで。

★★★

まあでも、こう考えると「解雇のない組織で働く人」にとって、解雇規制の撤廃ってものすごい怖いことで、全身全霊をかけて阻止したいことなんだな、っていうのはよくわかります。

あたしだって「誰も死ぬことのない世界」にいたら、死ぬことが怖くて怖くて怖くて生きていけなかったと思います。


死ぬのが怖くて生きていけない?? ・・・ふむ。

大変だね、みんな。


そんじゃーね。

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