この本、第一章で堺屋太一さんが「日本の現状をどうみるか」と、「今、日本に必要な改革とは何か」について書いていらっしゃいます。ちきりんはこの章を読んですぐに本を閉じてしまいました。
今の日本の問題とその処方箋があまりにキレイに言葉にされていたので、軽くショックを受けたからです。なんでこういう意見を知識として本から得る前に、自分のアタマで考えられないのか、絶望とまでは言わないけれど、「あああ」と思えてしまいました。
あたしって『自分のアタマで考えよう』って本を出したばかりなんじゃなかったっけ?
- 作者: 橋下 徹,堺屋 太一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/11/01
- メディア: 新書
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ちきりんは2年半前にも「3つの偽り」by 堺屋太一氏というエントリで、堺屋氏がもつ社会への洞察力とその表現力に感動(嫉妬?)しています。今回この本を読んでまたもや、「なんでこうパシッっと適切な言葉にできるかな」とうなってしまいました。スゴイ人はスゴイです。
とはいえ一方で「目標は低くもちましょう!」とも提唱している私。こんなスゴイ人と自分を比べれるのはさっさと諦め、分をわきまえて、アフィリエイトブログを書くことにでも専念するとしましょう。
ちなみにこの本の第一章で堺屋氏が言う「今、必要な改革」とは、「人事でも政策でもなく体制」という一言に凝縮されています。いくら首相のクビを挿げ替えても、さらに自民党を民主党に取り替えても、日本の政治が変わらずダメな理由は、「問題は人事ではないから」です。そして、社会民主主義的な政策にも自由主義経済的な政策にも解が見えないのは、「問題が政策ではないから」です。
変えなければいけないのは「体制」であり、明治維新で変わったのは「体制」であると。そして・・・(以下は本を読んでください。)
★★★
ここんとこ日本は「TPPに反対だ、賛成だ」と大騒ぎです。「TPPについてのエントリを書いて!」という要望も寄せられます。ところがちきりんはこの件に全く関心がもてません。TPPなんてどうでもいいし、なんでみんながそんなに騒いでいるのかよくわかりません。
日本がTPPに参加しようがしまいが、日本の農業は今後もずっと補助金で生きていくんです。その結論は何も変わりません。
経団連企業の多くはTPPに賛成のようですが、彼らは日本がTPPに参加すれば、アップルやLGやサムソンに勝てるようになるんでしょうか?そんなこと起こらないでしょ。
農業と製造業だけでなく、他のサービス業も全く同じです。これに参加しようがしまいが、すべての市場はグローバルな統合に向けて動き始めます。TPPに参加しなければ「平和に隔離された日本だけの市場」が維持できるなどと考えるのはおめでたすぎです。反対に「TPPに参加すればいきなり世界で売れ始める商品」なんてのも存在しません。
それこそ「問題は政策じゃない」んです。
ついでに言えば「アメリカが日本に無茶苦茶を押し付けてくるはずだ!」みたいな意見も、「ほんまかいな」って感じです。これから世界は「アメリカ」と「中国」が覇権を争う時代に向かうんです。(「ロシア」はそこに参戦する気でいますが。)
この世界のスーパーパワーのバランスゲームにおいて、日本はキャスティングボートを握る立場にいます。中国もアメリカも、日本だけは落としたくないと思うでしょう。(ちなみに他のコマは、欧州、南米、アフリカ&中東、です。一国でキャスティングボートを握っているのは日本だけです。)なんでそんなに「アメリカにいいようにやられてしまう!」みたいなことばっかり恐れているのか全然わかりません。
★★★
時を戻してお江戸幕末。当時の日本でも多くの人が「日本はこのままじゃもたない。日本は根本的に変わる必要がある。」と感じていました。
江戸幕府は巨額の財政赤字を抱えて動きがとれない状態でした。地方の藩の大半も事実上の財政破綻状態でした。そこに「国を開け!」と海外から黒船がやってきて、国中がパニックします。「国を開くべきか、開かないべきか」・・・国論を二分する議論が巻き起こったのです。
もちろん当時も「通商条約なんて受け入れたら黒船の国にいいようにやられてしまう!絶対反対!」「不平等条約を結ぶくらいなら鎖国を続けるべきだ!」とか言ってた人はたくさんいたんでしょうよ。
(念のため:今書いているのは、「江戸幕府の末期の状態」です。「TPPの話」ではありません。)
この時期、江戸幕府の中枢にいた人たちも改革の必要性を痛感していました。だから“安政の大改革”をブチあげ、思い切った政策転換により事態を乗り切ろうとします。さらに“首相を出す政党を変更”じゃなくて“将軍を出す家”を変えてみようと一橋家に将軍職を委ねてみたりしたのです。
しかしそういった、江戸の人たちの改革の試みはことごとく挫折します。そしてその時、次代に向けて国の体制変革をリードしたのが、薩摩と長州の人たちでした。
江戸幕府の中枢にいた役人でも代々の将軍を出してきた御三卿でもなく、江戸から遠く離れた鹿児島や山口の地の人たちが新しい時代への扉を拓いたのです。江戸の末期、中央幕府はまだ一応の権威を維持してはいたけれど、地方にも先見性あるリーダーが生まれつつあったということです。
吉田松陰はもちろん、高杉晋作にしろ伊藤博文にしろ木戸孝允にしろ、明治維新の10年、20年前から、つまり江戸幕府がまだ実権を維持していた頃から、それぞれの地で「次の時代がどうなるのか」、「今の日本の体制をどう変えていくべきなのか」、「海外と日本の関係はどうあるべきなのか」、必死で考えていたわけです。
振り返って当時の江戸の役人や論客達は、その頃、薩摩や長州で何が起こりつつあるか、どんな論争が行われているか、知っていたでしょうか? 気が付いていたのでしょうか?
薩摩も長州も江戸からすごい遠い上に、テレビも全国紙も、もちろんネットもない時代です。江戸の人は「薩摩や長州で何が起こりつつあるか」、結構遅くまで気が付いてなかったんじゃないかと、ちきりんは思うのです。明治維新が始まって、新政府のリーダーがみんな薩長の人じゃん!ってことになって初めて、「あいつら、ここまで準備してたんだ!」と驚いたんじゃないの?と思うのです。
今の東京と地方の格差同様、当時の江戸も、日本の中では圧倒的に文化的で、高度に発展した都市でした。江戸の人達は、まさか江戸以外の都市から次世代の日本を率いるリーダーがでてくるなんて考えてもいなかったんじゃないかな。
実はちきりん、先日のブログの最後に「27日がとても楽しみ!」と書きました。そしたらツイッターやブックマークで、「27日って何があるの?」というコメントがきて驚きました。「27日に何があるか知らない人がいるわけね・・」って。
でももしかすると、江戸時代の末期にも(薩長出身者以外の)江戸住民たちは、誰も薩長で何が起きようとしているか、理解していなかったかもしれません。
というわけで、このエントリを書きました。
「27日ってなに?」、「なんでちきりんは、TPPより27日が大事、とか言ってんの?」と思う方、とりあえず、この本、読んでください。27日に問われているものが「独裁」vs「既得権益」などという構図にしか見えていないという方には必読の書です。
えっ?
「本を読む前に自分のアタマで考えたい」って?
うーむ。そうキタか・・・。
まっ、とにかくまずはこの本を読んで、考えるのはその後で!
そんじゃーね。
- 作者: 橋下 徹,堺屋 太一
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