紛争地域のその先 (電子書籍市場)

電子書籍については、前向き、後ろ向き含め、すったもんだしてて楽しい限りです。ところで、本ができるところから最後までは(必ずしも一直線ではありませんが)こんな感じでしょうか?



「運搬」=持ち運ばれることが多い本は教科書だし、「保存」「活用」については、資料としての本を大量保有している研究者やジャーナリストの方が想定されます。


このうち最初の2プロセスは既にデジタル化しています。もちろん今でも「原稿用紙に万年筆」で書いてる作家さんもいるんでしょうが、大半の著者はタイピングによってデジタル文章を作っているはず。

さらに編集プロセスも、原稿のやりとりや文章修正、装幀やデザインの制作、印刷行程など、電子メールや電子ファイル、デジタル加工が当然のように主流になっています。



「当たり前」すぎて話題になることもない「最初の2プロセスのデジタル化」ですが、それが進んだ理由は「誰も損をしないから」です。下図にあるように、関係者はみんなハッピーで、それ以外の人には関係がありません。読者も書店も、原稿が万年筆で書かれようがパソコンで打たれようが、どうでもいいのです。




ところがこの先は大変です。販売プロセスに関しては「大紛争」とでもいうべき状態・・・


時代の方向性としてデジタル化は止められないけれど、「それじゃあ食べられなくなる!」書籍供給側を無理に動かすことは誰にもできない上、そもそも端末を持っている人の数も、電子書籍を読んでる人の数も少なすぎます。加えてアップル様やアマゾン様など青い目の御仁からのご無体な要求もビシバシ飛んできて、この地帯はぐちゃぐちゃ状態。


でも実は、この紛争地帯の先には広大な「誰もソンしない」エリアが存在しています。紛争地帯ではガチで戦ってる出版社や著者、その他の組織も、今の紙の本の「販売」が維持される限り(影響を受けない限り)、その後のプロセスがデジタル化したってなんの関係もありません。



そして「紛争の先」のプロセスがデジタル化されれば、読者にとってのメリットは、計りしれません。読書好きの人で本の保管に悩みがない人は存在しないし、重い教科書を毎日毎日、学校に運ぶことには何の付加価値もありません。

研究者やジャーナリストの「本の活用」だって、天井までぎっしり積まれた本の中から必要な情報を探すのは至難の業。デジタル化され、検索やデジタル切り抜き保存ができたらどんだけラクなことか!

ところが紛争地帯があるために、この「誰もソンしない!」エリアのデジタル化も全く進まないのが、今の現状です。


だから当然の要請として、「自炊」という行為(自分の保有物である紙の本を裁断、スキャンして電子化する行為)や、それを代行する業者が現れたのです。「メリットのない供給側がデジタル化しないなら、メリットのある読者側が自分でやる」というのは、ごくごく自然な流れです↓



ちなみに今はこれにも横やりが入りつつあるのは皆さん、ご存じのとおり。それは、無関係なはずの「紛争後のデジタル化」が「販売」部分に影響を与え始めているからですよね。紛争地帯である「販売」にコトが及ぶと、話は進まなくなるのです。


★★★


だけど、「紛争地帯」を避けた「その後」の電子書籍市場が(or だけでも)超有望なのは皆わかっています。

ちきりんは中学生の頃、星新一さんが大好きで彼の本を読みあさりました。それらの本も、今は一冊も手元にはありません。けれど、すべてのショートショートを含む「星新一デジタル全集」なら、紙の本と同じ値段でも買う可能性は十分にあるのです。(今すこしずつ電子化されつつあります。)


しかもそれって全員がハッピー、でしょ!?

・ちきりんにとって「星新一デジタル全集」を買うのは、新作の本を買う消費行動の代わりではないので、書籍業界に「真水の追加収入」が入ってきます。

・ちきりんは「星新一(紙の本の)全集」を買う気には全くなれないので、星新一本の著作権や出版権を持ってる人にとって、これらは完全に「新たな収入源」です。


他にも「昔読んだ漫画の全集」や「好きな作家のデジタル全集」を“大人買い”したい中高年はたくさんいるでしょう。「ベストビジネス書100選デジタル大全」や「2012年ビジネス書30選・電子書籍パッケージ」みたいなのも売れそうです。

保管場所をとらず、検索が可能で、いつでも「あの話!」を簡単に探しだせる。これは、メリットが大きいというレベルを越えて“わくわく”さえする、久しぶりの「超有望新市場」ですよね。


加えて読書のプロセスにも「ソーシャルリーディング」で新たな市場ができそうだし、教科書も持ち運びが不要になるだけでなく、いろんな工夫で付加価値がつけられそう。遠隔塾や学習指導(e-learning)とのコラボもありえます。

家中が本で溢れかえっている人だって、大量の蔵書のうち、一部のどうしても紙で保存したい本を除いた大半をデジタル化し、物理的に本棚がすっきりすれば、更に多くの本を買う人も多いでしょう。


・・・だけど「紛争地帯」が・・・


というわけで、お勧めとしてはとりあえず紛争地域を回避して、その後の部分だけでも先にデジタル化を進めたらしたらいーんじゃなかな。こういう感じで↓



(注:もちろん書店も、ネット販売書店はニコニコマーク)



だってそうしないと、こう(↓)なっちゃうよ!? これはさすがに最悪でしょう。


新技術が利用可能になっているのに、新しい仕組みが作れなくてそのメリットが享受できないなんて超もったいない。揉めてるのは一カ所だけなんだから、そこはとりあえず置いといて、どんどん先に進みましょう!


そんじゃーね!