いよいよ、この連載も最終回となりました。今日は、実際に地縁も血縁もない場所で議員になられた並河さんに、選挙制度についてお伺いしていきたいと思います。
写真 取材場所は、新宮市のNPO、共育学舎の教室を使わせていただきました。(廃校後の小学校の教室) ちきりん撮影
★★★
ちきりん「ネット選挙についてはどう思いますか?」
並河氏「もちろんネット選挙は早く導入すべきです。ネットで議論すれば、政策の中身を議論できますよね。今の選挙の、名前の連呼や握手攻撃ではなく、中身の議論で議員を選びやすくなります。
ただ、この点は今でもかなりできるんです。公示日より前であればネット上でいくらでも議論できる。40代くらいの人でもみんなネットをやっていますから。」
ちきりん「なるほど、公示日から選挙の日までという短い期間にネットが制限されていても、大きな問題ではないということですか?」
並河氏「そうですね。それよりも、投票自体をネットに移すことが重要だと思います。なぜなら、選挙をネットで行うと選挙コストが大幅に低減でき、もっと頻繁に選挙ができるようになるからです。この効果が大きいんです。」
ちきりん「選挙の回数を増やすって、任期を短くするんですか?」
並河氏「違います。任期は短くせず、議員を2年ごとに半分ずつ選挙で入れ替えるんです。今だと任期の4年間は選挙が行われません。それはつまり、4年間は民意が吸い上げられない、ということなんです。
でも2年ごとに半数の選挙を行えば、その回は任期切れではない議員にも、その時点での民意がアップデートできますよね。そうすれば2年後の自分の選挙に向けて、彼らだって行動が変わります。それが大事なんです。
今みたいに、選挙にお金がかかると選挙の回数を増やすのは難しいけど、ネット選挙ならそれができます。」
ちきりん「直接政治とまではいわないけど、より頻繁に直接的なインプットを住民代表の議員に入れようということですね。それは国政に関しても、いい案かもしれません。」
ちきりん「別の話になりますが、私はもっと行政単位が大きい方がいいのじゃないかとも思うのですが、それはどうですか? 3万人の市に本当に議員が17名も要るのか?という気もしますけど。」
並河氏「そうかもしれません。ただ、何かを変えたいと思った時には行政単位は小さい方がいいです。選挙でも、行政単位が小さい方が、新人候補者でも限られた時間で有権者の多くと話ができます。
当選してからも少ない人数の方が変化が起こしやすい。行政単位が大きいと利害関係者も多いので、少人数が動いても全体を動かすのは難しいです。」
ちきりん「なるほど。変革のためには小さな自治体の方が有利ってことですね。ところで、議員になってみて、地方議員の制度について初めてわかったことはありますか?」
並河氏「私には会計知識、医療や福祉の知識、地方自治法や条例や通達など、議員としてきちんと活動するためには必要なことで、まだまだわかっていないことがたくさんあります。
今の制度では、それでも選挙に通れば議員になれます。「選挙に通るための知識」のと「議員として最低限知らないといけない知識」は全く別モノなんです。
最近は、これは本当にこういう形でいいのか?と考えています。選挙に強い人であれば、議員として必要な知識やスキルがなくても議員になれてしまうという制度でいいのかな、って。
それとも議員としての最低限の能力を身につけさせるための仕組みが必要なのではないか、と。どうなんでしょう?」
ちきりん「えっ? そんなことを私に聞かれても・・・よくわかりません。たしか国会議員の政策秘書には試験が導入されたと聞きました。
あとアメリカだと政策シンクタンクがあって、議員の人はそういったところに調査費用を払って、政策に関するレポートを作ってもらったり、レクチャーを受けたりします。医療制度について、軍事問題について、外交についてなど、それぞれ専門のシンクタンクがあるので。
それと、最近は東大にもできましたが、ハーバード大学やミシガン大学などには公共政策に関して教える学部や大学院があって、政治家や行政官を目指す人がそういうところに通って勉強することも多いようです。
そういう大学院では毎日ポリシーペーパーを書いて法律の作り方を勉強したり、特定の政策についての是非を議論します。そういうことをやれば、議員の仕事の多くを学校で学べますよね。
ただそういう大学院に行くことが義務化されているわけではないので、どこの国でも選挙を通れば議員になれる、というのは変わらないと思います。」
並河氏「なるほど。というのも、行政スタッフの方は、ずっとそれをやってきた専門家です。議員には行政執行をチェックし、よりよい方法を提案する責務があるのですが、何も知らないとそんなことはできません。行政官の知識についていけないんです。
議員がそんな状態でいいのか、そういう制度でいいのか、と。もちろん自分ももっと勉強しなければいけないんですが、そんなことを考えました。」
ちきりん「これも国会議員でも同じ問題がありますね。選挙は民主主義の基本と言われるけど、『選挙に必要な資質』と『議員として活動するのに必要な資質』がここまで乖離している現実をどう捉えればいいのか、考えるべき視点ですね。」
ちきりん「並河さん、今回は、いろいろ伺えて大変勉強になりました。ありがとうございました!」
並河氏「こちらこそ、ありがとうございます。これだけの日数、ちきりんさんの日記に自分が考えていることを書いて頂けるなんて本当にありがたいです。」
ちきりん「これから取材希望者が激増したらどうしようかとちょっと不安です・・・」
並河氏「私のところにも、きっと『どうやったら(ちきりんさんに)取り上げてもらえるのか?』という問い合わせが殺到しそうです。」
ちきりん「そういう人にはこう言っておいてください!」
↓
そんなことは『自分のアタマで考えよう』!
そんじゃーね!
<日本の地方と若者の政治参加を考える特別連作エントリ>
バックナンバーは下記です。
連載01) 新宮市に行ってきた!
連載02) 並河哲次 新宮市議 26才
連載03) 新人議員、大災害の衝撃!
連載04) 非常時対応とは? 復興とは?
連載05) “ワンパターンの地方再生策”を脱するには?
連載06) 新卒就活カードを敢えて捨てた理由
連載07) 社会を変えたいなら、まずは自分の生き方を変えること
連載08) 教育の多様化で街興し!
・並河哲次さんのブログ→ 「てつじぃの日記」はこちらです。