『ニートの歩き方』というか

「日本一のニート」こと、phaさんの本が発売されました。ちきりんは帯に推薦文を書いています。

ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法

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phaさんとは、ちきりんの希望で対談をしたのがきっかけで知り合いました。
→ ”phaさんとちきりんの対談@ビジネスメディア誠

phaさんの作っている“おちゃらけプログラム”のひとつ「圧縮新聞」が大好きだったので、制作者に会ってみたいなーと思ってたら実現しました。これ、既に2年以上前なんですね。


ちきりんの最初の本、『ゆるく考えよう』にはphaさんが登場していることもあり、書評も頂きました。このレビューの文章もまさにそうですが、彼の文章はとても誠実な感じがします。→「ちきりん著「ゆるく考えよう」を読んだ


たしか最初の対談の時に、既にふたりとも出版社から本を出す提案を受けていて、実際に私はその後すでに3冊を出版。

ところがphaさんは、その後も会う度に「今、本を書いてるんですー」と言っていて、「この調子じゃ、一生そう言ってるに違いないー」と思っていたら、今回はホントに出ました。おめでとうございます。


内容は彼がいつも言っていることで、基本思想は私の『ゆるく考えよう』とも似ています。「目標は低く」とか、「感覚的なものを信じよう」、「何もしない人生でも構わない」など、”そのまんま”という感じ。

実はこの本の表紙の図柄も、ちきりんが昨年、『自分のアタマで考えよう』の出版記念講演で使ったスライドのひとつ(下記)と似ています。結局のところ「みんなと同じである必要なんて全然ないでしょ?」というのが根本的な思想なんでしょう。


だから彼の言う「選択肢が多いことは絶対的な善だ」という言葉には心から同意できるし、「受け入れよう、全てはつながっている」に至っては、ちきりんが感じていることと全く同じだと感じます。


けれどその一方、皆さんよくご存じのように、phaさんとちきりんには違う点もたくさんあります。

ひとつは、私が現実の社会にも全く問題無く適応でき、仕事も含めて楽しく暮らしていたのに対し、phaさんはずっと今の社会における“多数派の生き方”に違和感を感じてきたってことです。

彼はその昔、数年間まったく面白いと思えない会社勤めをしてたらしいのですが、私にはそんなことを何年も我慢するなんて絶対できないです。

phaさんはシェアハウスにおける他者との距離感、そして、ネットを介したコミュニケーションをとても気に入っているようだけど、ちきりんは家を散らかす人とは一緒に住めないし、一方で、言葉を介したリアルなコミュニケーションが大好き、かつ、とても得意です。


つまり私の“考え”は「多様性を認めよう」「多数派が正しいわけではない」だけれど、自分“自身”は「社会のメジャーグループ」に所属しています。

一方のphaさんは、「多様性を認めよう」という同じ主張を、自らマイナーグループに身を置きながら口にしています。(だからもっと切実な感じがする。)


この本で彼は、「世界には自分ではどうしようもないことが多いので、うまくいかない理由を総て自己責任にかぶせるのはおかしい」と言いつつ、その一方で、「自己責任は全くないので何も頑張らなくていい」とか「オレは悪くない」「全部親や社会が悪い」でもない、と言います。

「全部自分の責任でかぶってしまうとしんどくて潰れてしまうけれど、全部自分に責任がないって感じで放り出してしまっても、それはそれであまり良い人間にはならない気がする」と。


さらに「「だるい」を大切にしよう」と言いつつ、(まあ、だるくても頑張らないといけない場合はよくあるし、自分が休むことで他の人に「だるい」を押し付けることになるのはあまり良くないので、他人に迷惑をかけない範囲において「だるい」は尊重されるべき、ってことだけど)とか書くわけです。

ものすごいバランス型の思考ですよね。


こういう人でさえ「耐えられない!」と思うほど世の中は何かを極端に求めてるんだと思うと、ちょっとヒリヒリしちゃいます。私を含め、なんなく社会生活をすごせている人というのは、ここまで感覚が鋭敏じゃないから、そういうことに気が付かない。


そして、ちきりんがこの本に(もしくはphaさんの思想に)価値があると思うのは、まさにそういう部分にたくさん気づけるからです。彼の感覚の中にはいくつかの、今の社会にたいする本質的な洞察(もしくはそれにつながるヒント)があります。

たとえば今回の本の中に、「僕は映画が観れない」とあるんですが、これってphaさんの性格をよく伝えていると同時に、今の世の中が何を求めているのか、ということもキレイに表現しています。

現代社会における仕事って、「映画を観るのが全く苦にならない人」でないと、続かないようにできてるんだよね。ちきりんもこの文章を読んで、そこに初めて気が付きました。

「映画」が人に求めるものと、「今の社会で成功するために求められるもの」が同じだっていう洞察はけっこう鋭い。「映画が流行らなくなってるのって、ここに本質的な原因があるんじゃないの?」って思うほどです。


だからちきりんとしてはこの本を、自分自身が「マイナーグループ」にいて、メジャーグループが押しつけてくる規範にウザイ思いをしている人だけじゃなく、「今の社会のメジャーグループの中にいる人」にも、是非読んでほしいなと思いました。

彼の主張の中には、今の社会の「なんか変でしょ?」的なところを、サクッっと突いてる部分がたくさんあります。その中のいくつかの点は、メジャーグループの人も一度は考えてみてもいいんじゃないかと思えることなんです。


「人にお金をあげるのはコンテンツ」とか、
「東京にはなんでも落ちている」
「インターネットという新しい自然」
「弱いものこそ集まろう」

などの言葉(もしくは感覚)って、スゴク大事なことを暗喩している気がする。今からの社会が向かう方向とか、ビジネスのネタとか。次の世界へのヒントがあるという感じ。


だから、ごくごく普通に今の社会で働いている人も、あんまり先入観を持たずに素直な気持ちで読んでみてほしい。そうしたら、「老後はどうするんだ」とか「何かを達成する喜びを知らないのか」とか、そういう紋切り型の反応じゃなくて、もうちょっと違うものが浮かんでくるんじゃないかと思います。


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そんじゃーね