「鎌倉投信」の社長である鎌田恭幸さんのお話を聞く機会がありました。んで、「こういう生き方って最近、増えてるよね−」と思ったので、書いてみます。
「鎌倉投信」は“独立系の直販投信”のひとつです。“独立系”とは、大手金融機関等の子会社ではないという意味、“直販”とは、運用会社が自分で販売しています。他の金融機関の窓口で売ってもらっているわけではありません、という意味ですね。
今日、ちきりんが書きたいのは、鎌田社長のキャリア選択に関してです。鎌田社長は、ご自身が鎌倉投信を立ち上げるに至った経緯を出身地から始めて詳しく説明されたのですが、その中で私の記憶に残った言葉が下記です。
「前の会社を辞めた時、国際貢献のNPOを立ち上げることも考えた。でも、金融をずっとやってきたんだから、やっぱり金融で世の中を変えることにチャレンジするべきだと思いました」
録音したわけではないので、「ちきりんの記憶によると、確かこんな感じのことを言われていた」という文章です。この後に書く内容も、ご本人の意図通りに私が理解できているか定かではありません。あらかじめご了承ください。
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さて、この会社の創業者であり、代表取締役社長である鎌田恭幸さんは、
・島根県出身
・東京で大学を卒業後、1988年に三井信託に入社。バブルの真っ只中ですね。
・三井信託で11年働いた後、イギリス資本のバークレイズ 銀行グループで9年間働かれます。仕事は資産運用関係ですが、最終的には経営ポジションにつかれています。
・2008年1月に退職され、11月 鎌倉投信(株)を創業、その後、2010年から投信の運用・販売を開始
・投信の名前は『結い 2101』といい、、『これからの社会にほんとうに必要とされる会社、皆さまがファンとなって応援したくなるようないい会社に投資する投資信託です』とのこと。
鎌田社長ならびに創業メンバーの方々が、投資先としても納得でき、かつ、末永く応援したいと思われる企業しか投資しない、ということなのでしょう。
→ 鎌倉投信のサイト
鎌田社長の「前の会社を辞めた時、国際貢献のNPOを立ち上げることも考えた。でも、金融をずっとやってきたんだから、やっぱり金融で世の中を変えることにチャレンジするべきだと思いました」という言葉を聞いた時、最初に思い出したのが、ちきりんを応援してくださっているライフネット生命の出口治明社長のことです。
2年前のこのエントリに書いたとおり、出口社長も長く働いてきた生命保険業界において、「元来あるべき生命保険の姿」を実現するためにネット起業され、奮闘されています。
実は最近、
・長くメーカー技術者として働いてきて、あるべき製品開発のあり方を実現するために起業
・長くメディア業界で働いてきて、あるべきメディアの在り方を実現するために起業
みたいな人に立て続けに会っていたので、今回も「おお、またこのパターンだ!」と驚きました。
これらの人達の共通点は、みんな「自分が20年近く働いた業界で(=まさに自分を育ててくれた業界で)、“あるべき姿”を実現するために、起業している」という点です。
さらにもうひとつの共通点は、「みんな、起業以外に、悠々自適オプションも持っていた」ということです。
定年まで一流企業で働いていたり、早くから外資系企業で働き、40代で経営職を務めるなど、それなりの自己資産を形成済みで、もうそんなにたくさん稼がなくても生きていける、そんなに必死に働く必要はなく、ボランティアでも執筆活動でも天下り組織のアドバイザリーでもやりながら、ゆっくり生きることが可能な人達、なんです。
そういう人達が、自分を育ててくれた業界への恩返しと、長年、働いてきた業界にたいして「本来はどうあるべきなのか」を問うために、私財と時間を投資して、第二のキャリアを始めてる。
「これは、ひとつのトレンドだよねー」と思いました。
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こちらに鎌田社長のインタビューが載っています。(鎌田社長インタビュー@社会起業大学 ) 下記は引用です。
1988年に三井信託に入社しまして、1990年(バブル崩壊した後)に資産運用をやり始めたころで、株価の変動が大きかった時代背景がありました。
金融のあり方は、新入社員だった当時は会社が何をやりたいのかよくわからなかったんです。社長からの年始の訓示が、毎年変わるため軸がぶれているように感じていました。
信託は社会的意義のある業種で、お客様の財産をきちんと預かり、健全な形で増やしていくのですが、それとは実情はかけ離れており、資産のあるべき姿が自分の考えと異なっているのに気がついていました。
あの頃に金融業界で働いた人なら、大半の人が感じた気持ちでしょう。
ちきりんも、この頃のことを何度かエントリに書いています。
・狂気の時代の共犯者達へ
・日経平均が3万円になったあの日
20代の新入社員の頃に感じた社会の現実、企業の経営姿勢に関する根源的な疑問を、20年のキャリアを経て、自分自身で解決してみようと試みる。それが、これらの人達に共通する起業のモチベーションです。
長く生命保険業界にいた人が“あるべき生命保険会社”を立ち上げ、長く資産運用業界にいた人が“あるべき運用会社”を立ち上げる。それはほんとに大事なことなんです。ちきりんは、鎌田社長が国際支援のNPOではなく、こちらを選ばれたことに心から感謝したいと思います。
なぜそれがそんなに大事なのかというと、“その業界に長くいた人でないと、ボタンのありかが分からないから”です。
→ 超重要過去エントリ:「ボタンを探せ!」
結局、どの世界もどの業界も、部外者にはどうにもできないんです。
内部の人が「変えよう!」、「変えたい!」と思わないと何も変わりません。だからこそ、こういうパターンのキャリア選択に、大きな意味があるのです。
内部からそういう人がでてくるかどうかが、その業界が変われるかどうかを規定する、と言ってもいいくらいです。金融だけではありません。他にもこういう動きが必要な業界は、たくさんあるはずなんです。
これからもこういう人が、どんどん増えたらいいなと思います。各業界の皆さん、自分が働き始めた時に感じた、素朴で根本的な疑問を忘れずにずっと持っていて下さい。
そしていつかその力が付いたら、ぜひともそれを解決するボタンを、自分で押してみて下さい。ごくごく小さな力でも、ひとりひとりがボタンを押し始めなければ、何も変わることはないのです。
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まっ、ちきりん自身はしっかりと、“悠々自適オプション”を行使中ではありますが・・・
そんじゃーね!