人は、社会をポジティブに変えられる仕事に向かう

先日、厚生労働省が発表した「労働経済の分析」という資料、副題が「分厚い中間層の復活」となっていました。

労働行政や福祉行政の担当省庁が、「我が国では、分厚い中間層が失われてしまった」と認めてるわけですから、これから少しはいい方向に向ってほしいもんです。


さて今回、この資料からちきりんが感じたのは、「日本でのこれからの中心省庁は、厚生労働省になっていくのね」ということです。昔は霞ヶ関の王者と言えば、大蔵省であり通商産業省でした(いずれも当時の名称)。

でもこの20年ほど、元・通産省、現・経済産業省の凋落振りは目も当てられないレベルです。彼らが意義ある仕事をしていた時期を探そうとすると、50年もさかのぼらないと見つけられません。(下記とかね)

官僚たちの夏 (新潮文庫)

官僚たちの夏 (新潮文庫)


別に、経済産業省がアホだったわけでも失敗したわけでもありません。計画経済の時代が終わり、市場経済の時代が始まったため、“先端レベル”の“トップの競争”に官が果たせる役割は極めて小さくなりました、という、当たり前のことが起こっただけです。

市場経済環境下で官が果たすべき重要な役割は、下記の3つです。
(1) 民間の邪魔をしない(規制緩和)
(2) 悪い奴らを捉まえる(監督強化)
・・金融庁とか公正取引委員会とか環境省とか
(3) セーフティネットを整備する


その3つに照らせば、今や経済産業省には、
(1)→ なにもするな!
(2)→ 原発事故の原因究明と対策をちゃんとやれ
(3)→ 労働基準法を守ったら潰れてしまう中小、零細企業の延命策を考える
くらいしか、仕事がありません。


昔、経済産業省の人はよく「農水省にはホント、困ったモンです」って言ってたけど、今や、産業における官の存在価値レベルで比べれば、農水省よりむしろ経産省の方が、存在意義は小さいでしょう。

『WORK SHIFT』の中で著者リンダ・グラットソン氏は、リーマンショック後の金融業界について、「社会に貢献していないと思われる業界には、優秀な人が就職しなくなるだろう」と述べています。まったくそのままのことが経産省にも起こるでしょう。


その一方、厚生労働省はこれからどんどん肥大化するはずです。上記で書いた3つの仕事のうち、厚労省にとっては (3)のセーフティネットを整備するだけでも、相当大きな仕事です。AIJ事件からわかるように、この業界には悪徳業者も多いので (2)も大事です。


その背景には、先に書いた、
・日本の経済構造が計画経済から市場経済に移行しつつある
こと以外にもふたつの要因が絡まっています。

それは、
・日本が高度成長期から低成長時代に移行した、からであり、
・高齢化と少子化が同時に進行しつつあるから、です。


この3つの要因により、厚労省の仕事は激増します。人口の3分の1くらいが、貧困だったり高齢だったりの国になるわけですから、当然です。

これから霞ヶ関を目指す人は、今までのように「日本を世界一流の技術立国にしたい!」と思う人ではなく、「セーフティネットを必要とする人達に、必要な制度を整え、日本を弱者に優しい国にしたい!」と考える若者達に変わって行くのです。


★★★


反対に、「技術がいかに世の中を変えるか」を痛感し、その未来にワクワクしている多くの若者達は、ウエブサービスやらプログラミングやらの世界をめざし始めています。

それは、アップルやグーグルやツイッターやらを見ていて、それらの企業、業界が社会に極めて大きな影響を与えている、世界をよりよい方向に変えつつある、と彼らが思っているからです。だから自分もその一員になりたいし、その分野で働きたいと考えます。これもまた、ごく自然なことです。


過去数十年、理・工学部を卒業した学生の大半が、大手電機メーカーや自動車会社に入りたいと思ったのも同じでしょう。彼らは、それらの企業が社会に大きなポジティブな影響を与えてきた歴史を見てきたのです。

そういった企業が創り出す製品が、社会をどんどん素敵なものにしていく時代を、肌で感じてきたのです。だからこそ彼らは、そういう会社に胸躍らせ、誇らしい気持ちで就職していったのです。


でもそうやってそれらの企業に入った人達は今、20年の会社員人生を経て、リストラされたり、部門閉鎖の憂き目に遭おうとしています。しかも今、それらの会社が社会の変化にどれほどポジティブに貢献していると、私たちは思えるでしょう?

この状態になっても、これからも、理・工学部を卒業し、エレクトロニクス企業に就職することが、日本の若者にとっての「輝かしい未来」だったりするでしょうか?


日系の金融機関に関していえばもっと早く、1997年あたりに、そして外資系金融機関に関しては2008年に、潮目が変わりました。ずうっと死に体に近かった経済産業省は、原発事故でトドメを刺されています。エレクトロニクス業界に関しては、2012年がその年です。


★★★


若い人がどのセクターで働きたいと考えるか、ということは、世の中の流れる方向を大きく左右します。経済産業省もエレクトロニクス産業も金融業界も、もう優秀な若い人達を集めることはできないでしょう。

大人はよく「学生なんてなんもわかってない」、「若い者には長期的視野がない」とか言うけど、寧ろ反対でしょう。若い人は、みんな直感的によくわかっています。

これから20年、社会にポジティブな貢献ができる産業や分野はどこなのか、それに参画するためには、自分はどこでどんな仕事をすればいいのか、彼らはよーくわかってる。と思います。


自分のアタマで考えよう

自分のアタマで考えよう


そんじゃーね