第三次グローバリゼーション

グローバリゼーションというと、「海外から格安な商品が輸入される」みたいなことをイメージしがちですが、それって「第一次グローバリゼーション」、もしくは「第二次グローバリゼーション」であって、今後はいよいよ本格的な「第三次グローバリゼーション」が始まるでしょう。


ここで第一次グローバリゼーションとは、技術の進歩によって、モノの国際移動が可能になったことを指しています。

最初は大型船ができて、機械製品の輸出が可能になりました。だから日本車も日本のテレビも、世界中で売ることができたのです。そのうち冷凍技術や農薬など化学技術が進んで、腐りやすい生鮮食品も地球の裏側から取り寄せられるようになりました。

このように、世界でそれを作るのが得意な国から、世界中に製品・商品が輸出されるのが、第一次グローバリゼーションです。


その次に労働力や医療など、「運べる商品や製品以外のもの」が世界中で共同調達・共同利用されるようになりました。

企業は製品を輸出・輸入するかわりに、工場を海外に建ててそっちで製造するという方法を選びます。これにより、労働力のようにモノとして輸入することが困難なものでも、グローバル調達が可能になりました。

先進的な医療を行える国に、他国の病気の人が行き、そちらで移植手術を受けたりするのも同じです。これって事実上の「医療の輸出」(反対側から見れば輸入)ですが、医療は動かせないので、人が動いているわけです。

不動産も動かせませんが、REITという形で証券化すれば、海外から投資(保有)することが可能になります。文字通り「動かないもの=不・動・産」であった土地が、どこへでも移動できるようになったのです。

それらをここでは「第二次グローバリゼーション」と呼びます。


さて、これから始まる「第三次グローバリゼーション」とはなんでしょう?

それは、高度教育人材のグローバリゼーションです。頭脳のグローバリゼーションと言ってもいいでしょう。今まで、先進国の圧倒的な強みは高い教育をうけた人材が豊富だったことです。

企業が海外進出するにあたって、先方の国の教育レベルを重視するのは、教育レベルが事業の生産性を規定すると知っているからです。

経済発展を望む大半の国が、最優先課題として教育分野に投資をするのも同じで、それが「国富を生む条件として、非常に重要な要素である」と考えているからです。


そしてその貴重なリソースは、これまで圧倒的に先進国に偏っていました。大学レベル以上の教育を受けた人の絶対数や、大学院レベル以上の研究をする人の数に、新興国と先進国では大きな差がありました。

今後はこの格差が一気に縮まり、「高度知的人材のグローバル調達」が本格化することでしょう。


高度教育のグローバリゼーションも、インターネットを中心とする情報化技術の革新が引き起こします。

今までは、その国の政府が義務教育制度を整備し、実際にハード(箱)としての学校を建設し、給食を提供したり、授業料を税金でまかなったりしながら、国の隅々まで届く学校制度を整備しないと、その国の教育レベルは向上しませんでした。

シムシティをやったことのある人ならわかると思うけど、これは大変なことなんです。(参考エントリ → 「世界はゲームだ!


でもこれからは、当事国の政府が少々ぼーっとしていても、世界水準の教育を受ける高度知的人材は登場しえます。

格安のスマホ的端末が世界中に普及し、無料のe-learning プログラムが提供されれば、新興国の田舎で、高校もない村に生まれた子供でも、英語や基礎的な数学を学べるようになるからです。

それらのプログラムの多くは、言語ができなくても直感的に操作できるものであり、大人が使い方を教えてくれなくても、子供達が自分で勉強できるでしょう。


基礎的な内容の習得が終われば、世界の大学がネットに流す授業を無料で受けたり、世界の専門家が議論するネット上のコミュ二ティに参加することにより、双方向の教育を受けることも可能になります。

プログラミングや金融理論など高度で複雑な分野でさえ、じっくりと資料を読み込んだり、議論&作業に自ら参加することで、自学自習ができる環境が整うし、名だたる学術誌やシンクタンクがネット上に公表する論文を読めば、専門的な分野についての知見も無料で獲得できます。


誤解のないように。私は世界中のすべての人がそれらを使って、高度な知的人材になるのだと言っているわけではありません。

そうではなく、卓越した意欲と能力のある人であれば、教育環境の整った先進国以外に生まれても、世界最高レベルの教育を受けることが可能になると言っているのです。

そうなれば、いままで先進国にしかいなかったそれらの人材の数は、10倍になる可能性があります。(世界の人口が90億人になる数十年後に、今の先進国人口は9億人です)


今までは、世界的にすぐれた数学的才能をもつ人を探そうと思っても、先進国でしか見つけることができませんでした。他のどんな分野にしろ、「最先端の頭脳」はほぼすべて先進国に所属していたのです。

けれど今後は、最先端の頭脳が、必ずしも大学進学率も高くない、義務教育さえしっかりしていない国から出てくるかもしれません。世界の頭脳が今までの10倍になり、様々な国から出現するのです。


インドネシアには今、2億人以上の人がいます。世界中の企業がこの国を“大消費地”として有望視しているし、その豊富な労働力を活かせる“製造拠点”としても注目しています。

しかし、人口が日本の倍であるこの国には、理論上、日本の2倍のタレント(才能)も存在しているはずです。

彼らはまだ見いだされていないし、高度な教育を受けていません。でも、もし彼らが教育さえ受けられれば、日本にいる同等の人の倍に上る“超優秀な人材”が出現するでしょう。


今まで先進国の最先端企業は、自国の中で最も優秀な人から順番に採用していました。最も優秀な人たちは、その国で最も人気のある企業に就職するので、それ以外の企業は仕方なく“次のレベルの人”を自国内で採用していたのです。

でも、よく考えたら、他の国にはもっと優秀な人がいるじゃん!?

と彼らが気づくのは当然でしょう。そしてそれが可能になるのも時間の問題です。


第二次グローバリゼーションによって、工場で働いている人は、世界との競争にさらされました。これからは、ビルの中で働く人、大学で働く人、研究所で働く人たちが、世界との競争にさらされる番です。

しかもそんな大惨事グローバリゼーションは、すでに始まりかけているのです。


おっと、誤字でした。

大惨事じゃなくて、第三次グローバリゼーションです・・


そんじゃーね