昨年末から電子書籍リーダーを使い始めて3か月。想像してたより、よく電子書籍を読んでます。
電子書籍は場所もとらないし、すぐに読めるし、紙の本より安いことも多いのでついつい買っちゃいます。
今年は(私の定義では)日本の電子書籍元年なのですが、これにより書籍の単価は下がるけど、販売冊数は相当増えるのかもしれないと(自分の行動を見てると)思えます。
ところで、電子書籍については「読む」だけでなく「書く」にも大きな価値があります。
私は最近キンドルで読んだ下記の本から、その価値に気が付きました。
この本は紙の本がでていません。電子書籍だけなんです。
内容は、奥様が統合失調症を患われた男性の手記となっています。
あれは、やや怖い本(狂気とは何か?という本)でしたが、こちらは家族の手記なので、冷静である分、現実的な大変さがよくわかります。
著者の方は自分の妻がこの病気にかかった時、ネットで必死で情報を探し、同じ境遇にいる人の情報を見つけると、すごく貴重でありがたいと感じたらしい。
だから自分も(同じような人への情報提供のために)この本を書こうと思われたそうです。
それにしても小さな娘が二人いて、専業主婦だった妻が発病し、妻の実家からは「お前のせいで娘は病気になった」と責められ、子どもは学校で「お母さんはなんの病気なの?」と聞かれる。
妻の治療のため家を売り払って引っ越し、病院との意思疎通もうまくいかず、時には失踪した妻を探すために街を駆けずり回り・・・と本当に大変。
統合失調症って 100人に 1人弱がかかる病気で、そこまで珍しい病気でもありません。けれどこういう病気は、非常に人に言いにくい。
たとえば妻が癌になった時なら、友人や親戚に「妻が癌になった。有効な治療方法や評判の病院について教えて欲しい」と言えたとしても、妻が統合失調症になった場合、同じことができるでしょうか?
遺伝しているのではないかと思われたら娘の結婚にも関わるかもしれないという心配や、妻が好奇の目で見られるのではないかという心配・・・様々な偏見を考えると、「誰にも言いたくない」と考える人が多そう。
でもこうして当事者が「誰にも言いたくない」と思うことについては、情報が全く外にでてこなくなるんです。
このため学術的に病気について解説した難しい本はあっても、家族が発症したときの家族の気持ちや対応について、わかりやすく説明してあるリアルな情報が全く見つけられない。
著者の男性がネットで情報を探しても、そういった実務的に役立つ情報がなかなか見つけられなかったのは、このためです。
で、彼は自分が情報集めに苦労したからこそこの本を書いたわけですが、それを可能にしたのが「電子出版での自己出版」という方法なのです。
電子出版なら、ほとんどコストをかけずに出版できます。分量や形式に関しても、紙の本のよう規格や制限がなく、誰でも書きやすい。この本も、紙の本ほどのボリュームはありません。
しかも電子書籍は匿名で出版できるんです。
プラットフォーム企業には本名を登録する必要がありますが、一般読者にそれを開示する必要はありません。
だからプライバシーを確保しながら、こういうトピックについても本が出せる。これは大きなメリットです。
「そんなのブログに書けばいいじゃないか」と言われるかもしれませんが、ブログでは誰でも見られるのでダメなんです。
こういうセンシティブな問題についてブログに長々と書くと、必ずお門違いな批判を始める人や、興味本位に他者を傷つけたいと考える人がわんさか寄ってきます。
かといって、ブログ読者を会員限定にしたり、有料コミュニティ内で開示しただけでは、検索にひっかからないため、広く必要な人に情報が届きません。
しかし電子書籍なら 500円など、自由にプライシングができます。たった 500円でも有料にすると、野次馬的な読者は一気に減ります。
しかもアマゾンのキンドル版なら、必ず検索にひっかかります。
つまり心ないコメントから自分と家族を守りつつ、同時に、必要な人には(そういう人にとっては 500円とか 1000円なんて高くはないので、)きちんと情報を伝えられるという大きなメリットがあるんです。
しかもこういう本については、実は「紙の本を出版社から出す」より、電子書籍のほうがよっぽどいいです。
なぜなら紙の本の場合、余程のベストセラーでも無い限り、スグに書店の棚からは無くなってしまいますが、電子書籍ならいつでも手に入れることができるから。
数百万部売れたような本でも、数年たてば紙の本は書店から消えてしまいます。ましてや大して数のでないこういう本が、書店で見つけてもらえる可能性は非常に低い。
このように電子書籍の自己出版というのは、そういう趣旨ではものすごく「使えるメディア」なんです。
統合失調症だけではありません。
他者に言いにくい病気や状況は他にもあるし、性的マイノリティであることや、息子が何十年も引きこもっているとか子供が発達障害だと診断されたとか、薬物使用歴や虐待歴から立ち直ったといった体験談など、おおっぴらに人に言いにくいことはたくさんあるでしょ。
でも、それについて真剣に悩む人にとって、他の人の体験談はとても価値があるはずなんです。
そして、こういった「言いにくい。だから情報が無い」という悪循環から抜け出す手立てとなるのが、匿名での電子出版という方法なのです。
こういう本は、売れる必要さえありません。書き手も儲けたいわけじゃないし、題名に病名さえ入れておけば、探している人は必死で検索するので、本がランキングの下の方にあっても、必ずそれを見つけ出せます。
「他者には言いにくいが、情報が少なくて困っている」・・・同じような状態に悩んだ経験のある人は、ぜひその体験談を電子出版で出すということも考えてみてください。
それは多くの同じような境遇の人の助けにつながることでしょう。
この本は内容的にもしっかりした読み応えのある本でしたが、そういう新しい電子出版の自己出版という新しい可能性を教えてくれたという意味でも、非常に価値ある一冊でした。
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