個人にとってのクラウド・ソーシング

前回まで、クラウドソーシングが企業に与える影響をまとめてきましたが、今日は個人事業主、フリーランスの立場で考えてみます。


この視点で何より重要なのは、「個人は受注者にもなるし、発注者にもなる」ということです。

フリーランスとして仕事を請け負い、収入を得ることもできるし、自分の仕事のうち、付加価値の低いプロセスを外注してコストを下げ、より意味のある仕事に時間を振り向けることができます。

たとえば取材ライターであれば、テープ起こしはクラウドワーカーに依頼し、最終の原稿化のみ自分でやればいいし、翻訳家も、原文を細分化してクラウド市場で翻訳してもらった後、自分が監修者として修正・校正し、最終的に質の高い翻訳に仕上げればよいのです。


本業のある人が講演を頼まれた時にも、手書きでざっくりとした講演資料の下書きを作ってクラウドワーカーに依頼し、アニメーションや音楽付のファンシーな講演資料に仕上げてもらえばよいでしょう。

講演者の本業スキルは、「パワポの資料作成スキル」ではないのですから。

アプリ開発者の場合も、キャラクターデザインと音楽と効果音、背景画像はアウトソースするとか、もしくは反対に、「ゲームのコンセプト設計とデザインだけ自分でやって、プログラムはクラウドワーカーに書いてもらう」のもありえます。

「そんな仕事するヤツいるのか?」って?  いるでしょ。インドのどっかに。


★★★


自分でウェブサービス(サイト)を作ったら思いがけず人気化したという人。中には、「コレって、海外でもイケるかも」ってサービスもありますよね。

でも語学の得意でない開発者にとって、それを各国語に訳すのはかなりハードルが高い。語学できないし、調べるのも面倒だし、そんなこと助けてくれる友達もいないし。

でも翻訳サービスも、クラウドソーシングとなれば一気に使いやすくなります。


今まで翻訳といえば、
・まだまだ使えないコンピュータの自動翻訳と、
・事前予約が必要で、リードタイムや納期も長くて、高価で高品質なプロフェッショナル翻訳
しかありませんでした。

つまり今までは、「自分の書いた電子メールをちょこっと外国語に訳してもらう」のに適した翻訳サービスが存在していなかったのです。


ところが Gengo のようなクラウド翻訳プラットフォームを使えば、ごく短い文章でも手軽&格安に翻訳が依頼できます。

しかも安かろう悪かろうじゃなくて、翻訳の質もちゃんとしてる(と顧客に評価されてる)。 Gengo の翻訳料金は“一文字(もしくは一単語)数円”と明朗会計で、短い文章でも依頼可能。 (こちらは Gengo のマネジメントチーム


こういうのを使えば、個人で作ったサイトやサービスも、最初から一気に複数言語でサービスインすることができます。

「自分のブログをこれで翻訳して世界に発信しよう!」と考える人もいるでしょうし、もちろんツイートを訳してもらうのもアリです。

世界に発信すれば、外国語での問い合わせもやってきます。でも大丈夫。それらの人たちとのやりとりメールだって、格安に翻訳してもらえる。つまり語学なんてできなくても、最初から世界に発信&応答できる時代になる。


他にも、「来月から海外留学するからアパートを探したい」とか言う人、今までなら、語学に自信がない人は、現地の不動産会社とのやり取りができませんでした。だから仕方なく日系不動産会社の(割高な)サービスを使う、って人もいたでしょう。

でもメール一本から翻訳してもらえるなら、話が違ってきます。

どこかマイナーな国に旅行しようとする時も同じ。現地の旅行会社に直接、旅行の手配をお願いするのも(語学力が無くても)できるようになっちゃう。

個人輸入の手続きや、アメリカでの税務関係の申告などもそうですね。語学力がなくても、海外輸入品販売サイトの運営が可能になる。

ちなみに翻訳じゃなくて、電話(スカイプ)での通話を通訳してくれる人も(gengoではなく)一般のクラウドソーシングサービスでは雇えます。


こうやって、「語学のできる友達にちょっと助けてもらう」感覚で翻訳サービスが受けられるようになったら、すんごく便利そうじゃない?


★★★


まとめておきましょう。

個人にとって大事なことは、
・自分が得意な、高付加価値の仕事をクラウドソーシングで請負い、
・自分が不得意な仕事は、どんどんクラウドソーシングで調達する
ことにより、自分の「働く時間の生産性を高めていくこと」です。


もうひとつは、「自分は○○が不得意だから」という理由で、何かを制限しなくてよくなるということ。その不得意な部分の機能が「市場から調達」できるようになるんだから。

語学が不得意なら翻訳サービスを、プログラミングができないならエンジニアを、デザインができないならデザイナーを、調達してくればいい。


そのうち「プロジェクト・マネジメントを提供するワーカー」だって出てくるかもしれない。

ブリッジエンジニアとして相応の経験がある人が、「予算規模の20%の手数料で、クラウドソーシング・プロジェクトのマネジメント引き受けます」って言い出したりね。

そしたらビッグアイデアだけ出して、あとは全部お任せ、も可能になるかも? 

「これだけの予算をかけても、これだけの収入が得られるはず」という見通し(=販売の自信)さえあれば、必要な機能はすべて外注で調達できる時代が来ても不思議じゃない。



だとしたら・・・自分自身で身につけておくべきスキルっていったい何?



ふたつあります。ひとつが、「世界中の労働キャパを必要に応じて、最適に使いこなすスキル」だよね。

クラウドソーシング市場の使い方、クラウドワーカーの管理の仕方と言ってもいい。

これ、大半は“慣れ”だと思うけど、具体的なスキルセットとしてリストアップし、意識的に学んでいくことも可能でしょう。

先日ツイッターでもつぶやいたように、これから企業の中間管理職にとって、「クラウドワーカーの管理スキル」は必須スキルになるはず。社内の部下(しかも自分と同じ国の人だけ)しか管理できないようでは、“管理職”は務まらなくなる。


日本人は企業も個人も“全部、自分でやる”のが大好きだけど、これからはそれじゃー、スピードも品質も広がり感も突き抜けられない。

反対に、「世界中のリソースを使って仕事を進めるスキル」が手に入れば、在宅でも、子育てや介護をしながらでも、自分の好きな場所(高原やビーチや故郷の街)に住みながらでも、相当、大きな仕事ができるようになる。


ほーんと 衝撃ざんす。

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必要なふたつのスキルのうち、もうひとつについて書いてないって?


それはブログには書きません。




そんじゃーね



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