A I (人工知能)<冬の時代を超えて>

A I (Artificial Intelligence ) =人工知能についての本を読んだら、いろいろ学ぶことが多かったので何度かに分けて紹介します。まずは「 A I には冬の時代があった」というお話。


クラウドからAIへ アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場 (朝日新書)
小林雅一
朝日新聞出版 (2013-07-12)
売り上げランキング: 12,515


「人間のように見たり、聞いたり、話したり、考えたりするコンピュータ(もしくはマシン)を実現するための技術が A I 」なのですが、その研究が始まったのは 1950 年代でした。60年前ですね。

とってもワクワクするテーマだし、コンピュータ技術もどんどん進歩しているのだから、60年前から今まで、人々の関心も順調に(右肩上がりで)高まってきてたのだろうと、ちきりんは思っていました。

でも実は、A I 研究は何度も挫折を繰り返し、過去 60年の間には二回も冬の時代が存在しているのです。これはいったい、なぜなんでしょう?


★★★


当初の A I 研究は、「コンピュータにルールを教え、それに基づいて論理的に考えさせる」というアプローチをとりました。ところがこの方法でコンピュータが解けるようになったのは、パズルのような超シンプルな問題だけだったのです。

その当時 A I の研究を始めたのは、言語学、論理学、心理学、認知科学、情報工学、神経科学まで、あらゆる学術分野で天才と呼ばれた学者たちでした。

そんな天才さんがこぞって「人の言葉を理解し、人のように話し、人のすることならなんでもできるコンピュータが遠からず実現するはずだ!」と主張していたのに、実際にやってみたら全く話が違う。


「全然あかんやん!」


ということで、英米政府など研究のスポンサーが相次いで資金投入をストップしてしまいました。これが最初の「 A I 冬の時代」です。


★★★


その後 1980年代には、様々な業界の専門家が持っている豊富な知識やノウハウをコンピュータに移植するエキスパート・システムが、A I のより実用的な目標として再びブームになりました。

ところがこれも、使い物になりませんでした。シリコンバレーのベンチャー企業などが 1000にも上るエキスパートシステムを開発したといわれていますが、結局のところ、コンピュータは「覚えた答えしか、出してこれなかった」のです。

コンピュータに専門知識を覚えさせるため、多大な専門家の時間が投入されたにも関わらず、それらは全くの無駄になってしまいました。


「全然つかえへんやん!」


ということで、A I に二度目の冬の時代が訪れます。

ちなみに日本でも(当時の)通産省が始めた「第五世代コンピュータ計画」=人間のように推論するコンピュータを開発するプロジェクトがありましたが、同じように成果を出せずに終わっています。

このように 1960年代に始まった A I の研究には、日本でも世界でも、長い冬の時代があったのです。


★★★


A I 研究が再び脚光を浴びたのは、1997年に IBM が開発したディープ・ブルーというコンピュータが、チェスの世界チャンピオン、カスパロフ氏を破ったことでした。

西欧世界において「頭の良さ」を測るゲームと見做されているチェスで、人間のチャンピオンがコンピュータに負けたわけですから、「いよいよ現実に使える A I が開発できるようになった!」と、思われたわけです。

ここから、現在に続く「 A I の春」が始まりました。その後 IBM は 2011年に「ワトソン」を開発。テレビの大人気クイズ番組 Jeopardy! で歴代チャンピオン二人と対決し、見事に勝利を収めています。

そして今は、グーグルはもちろんアップルからマイクロソフト、IBM にフェースブックまで、あらゆる巨大 IT 企業が人工知能の研究に乗り出しているのです。


★★★


さて、過去 2度にわたって冬の時代を経験した A I 研究と、現在盛り上がっている A I 研究の間には二つの点で大きな違いがあります。

ひとつの違いは、どうやって機械に考えさせるのかというアプローチです。以前は、知識や論理をコンピュータに覚えさせようとしていました。人間が学校で知識を学び、考え方を学ぶように、コンピュータにもそれらを教えようとしたのです。

しかしこのアプローチは(上述したように)巧く行きませんでした。コンピュータは覚えたことしか知らず、教えられたルールを杓子定規に適用するしかできなかったからです。


現在、成果を上げつつあるアプローチは、これとは全く違います。以前のように「知識と論理を教えて考えさせる」のではなく、「大量のデータを基に、統計的に推論させる」ようになったのです。

グーグル検索は、「羽生さん」で検索すると羽生善治三冠を、「羽生君」で検索するとフィギュアスケートの羽生結弦選手を検索結果として表示してきます。


グーグルは、「さん」は丁寧語である。「君」は目下の人に使う言葉である。羽生善治三冠は 40代である。羽生結弦選手は 19歳である。(←以上が知識、以下が論理的な結論→)だから羽生さんは羽生善治三冠で、羽生君は羽生結弦選手であろう、と考えたわけではありません。

グーグルはこのふたつを、統計的に「さん」の時は羽生善治三冠について知りたがっている人が多い、「君」の時は羽生結弦選手について知りたがっている人が多い、だから今回はきっとこっちだろうと推論しているだけなのです。(←実際はもっと複雑です)


こういうアプローチは、伝統的な A I 研究者からは「邪道だ」と批判されています。「人間はそんなふうには思考しない」というわけです。

たしかに人間は「さん」と「君」の意味さえ理解しないまま「羽生さん」と「羽生君」を区別したりはしません。


ところがコンピュータ側のパフォーマンスは、以前の「知識と論理で考える方式」よりも、正確になっているのです。

そしてこの「知識や論理による判断ではなく、統計的に判断するアプローチ」が、現在大ブームとなっている「ビッグデータの時代」へとつながっていくわけです。


★★★


「知識と論理」、別の言葉でいえば「ファクト&ロジック」ではなく、大量のデータを統計的に処理することで判断するほうが、結果が正しくなる・・・これはなんとも興味深い話ですよね。

本書ではさらに、人間の脳の仕組みであるニューラル・ネットワークをコンピュータ上で再現しようという「まじかよ?」みたいな方法論についても解説されているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。


また、以前の A I 研究と今の A I 研究には、もうひとつ大きな違いがあるのですが、その件は次のエントリで書くことにします。

そしてこの話題はとてもおもしろいので、今年の夏ごろに本書を課題図書として「第三回 Social book reading with CHIKIRIN 」を開催したいと考えています。

人工知能の行きつく先の未来に関心のある方は、ぜひ下記の本を読んで、ツイッター上での意見共有イベントにご参加ください。


<キンドルなら500円未満、新書も千円未満です>

クラウドからAIへ
クラウドからAIへ
posted with amazlet at 14.04.11
朝日新聞出版 (2013-07-18)
売り上げランキング: 2,463
→ 新書版(紙の本)はこちら (アマゾン)
→ ★楽天ブックスはこちら★


そんじゃーねー!