会社を誰に任せるか 大きな器と大きな器

ニコニコ動画でお馴染みのドワンゴと、出版大手の角川 ( KADOKAWA ) が経営統合を発表しました。角川歴彦会長の記者会見の言葉は、わかりやすく言い換えるとこういうことです↓

「角川グループは、ドワンゴの川上量生氏を後継者として指名します」


社長の名前からもわかるように、KADOKAWA は角川家の同族系企業です。そして同族企業によくある経営権争いにも長らく翻弄されてきました。だからこそ、次の経営者を誰にするのか(誰に任せれば、もう二度とあんな確執を起こさずに済むのか)、ものすごく真剣に考えてこられたのでしょう。

両社は今までも事業上の提携関係にあったので、そこで川上氏の手腕に目をつけた(惚れ込んだ?)角川氏が、「会社はこの男に委ねる」と決断されたのだと思います。


この「次世代経営者の指名方法」は、任天堂で行われたパターンと全く同じです。

任天堂の創業者一家の跡継ぎであり、自らも名経営者であった山内溥氏は、創業家一族から後継者を選ばず、取引先のゲーム開発会社で働いていた名も無きイチエンジニアを任天堂の後継者として指名します。それが、現任天堂社長の岩田聡氏です。

当時の岩田氏はまだ経営者ですらなかったので、山内氏は彼を任天堂に招く前にそのゲーム会社の社長にし、“経営能力の確認”まで行っています。(てか、まだ経営職にさえついてない人の器を見ぬいた山内氏の慧眼すごすぎです)


角川氏も、これまでの提携事業の中で、川上氏の手腕をじっくりとご覧になってきたのでしょう。

取引先の中から「これぞ!」という人物を見つけてきて、自社を託す。今回と全く同じパターンです。

ちなみに、任天堂の社長に就任した時の岩田氏は 42歳、現在の川上量生氏は 45歳です。両方とも(非常に浮き沈みの激しい)エンターテイメント分野の企業を率いているという点でも共通しています。


★★★


同族会社の中には、親族間で経営権争いが起こってぐちゃぐちゃになるケースの他、息子だという理由だけでバカ殿が後継者になって会社が傾くケースも散見されますが、

サントリーのように創業一族の中からリーダーシップを発揮できる経営者を出し続けられる企業の他、

大塚製薬グループ(大塚ホールディング)のように、大塚一族のメンバーと生え抜きの社員から抜擢した社長がコンビを組むケース、

創業家の中に「やりたい人」がいるタイミングだけ社長の椅子を創業家に戻すトヨタ自動車方式、

さらには、元日本コカコーラ会長の魚谷氏を社長にヘッドハントした資生堂のように、別業界から専門職としての社長を招くというアメリカンな手法をとる企業もでてきました。


ひとつ言えることは、創業者一家がまだ力をもっている同族企業であればあるほど、次の後継者指名は非常に重要だということです。

それは、とりあえず 5つくらい若い世代の中で優秀な取締役の中から、(会長になった後の自分を無碍に扱わないであろう人を)次の社長に指名すればいいという、「順送り」的なサラリーマン社長が率いる企業とは真剣さがまったくちがいます。

その中でも特に難しいのは創業者本人から二代目へのバトンタッチで、なかなか「次」が見つけられない企業も少なくありません。


たとえばファーストリテイリングを率いる柳井正社長も、自らはあれだけの企業を一代で築くという経営手腕を発揮ながら、後継者育成(選び)には試行錯誤を繰り返されています。

12年前に一度、社長職を若手に任せるもたった数年で自ら社長に復帰。

その後は、社外から多数の"優秀な若者”を会社に招き、その中から自分の後継者が見つけられないか、探されていたようですが(おそらくコレ!という人が見つからないので)、最近は息子二人を入社させるなど、別のアプローチも検討されているように見えます。

「創業者がいつまでも経営者の座にいてはダメだ」、「世襲はさせない」、「60歳で引退する」、「65歳には・・・」と、自らの言葉もどんどん変更され、現実には 65歳の今でも経営の前線にたち、このあとの展開もよく見えません。


ソフトバンクの孫社長も、数年前から「次の経営者を育てる」と、公に経営者教育を始められたりしたようですが、こちらも「次は誰?」は全く見えていません。

正直言って、「次の孫正義」になれる人が、経営者学校に通うことに興味を示すなんて、とても思えませんよね。そういう人は、そういうことに人生の時間を使おうとはしないんです。


★★★


今回の発表を聞いて私が思ったのは、ファーストリテイリングもソフトバンクも、次の社長は、任天堂・角川方式で探したほうがいーんじゃないかいうことです。


つまり、
「社員の中から後継者を探し、指名しよう」とか、
「とりあえずは息子に引き継いで、(それなら当面は自分の意向も反映できるので、その間に)次の経営者を探そうか、とか(←モラトリアム作戦)
「世の中で優秀と言われる人材を大量に転職マーケットから雇ってきて、社内で仕事をさせてみて選抜しようか」とか、
「経営者学校を開いて、やる気のある奴を集めようか」とかではなく、


取引先や海外支社の現地メンバーなど、企業を今、実際に率いいている現実の経営者の中から「こいつだ!」という人を探してきて、思い切って任せてしまうってことです。


そして、その範囲はもはや「日本人」である必要さえあるとは思えません。


あたしはいつの日か、柳井さんや孫さんが、
・中国で自分の会社を起こして大きく成長させ、今も経営者としてガンガン飛ばしてる中国人経営者や、
・自社が海外で買収、もしくは出資した相手先企業で働いている(もちろん日本人ではない)若き起業家、
・もしくはユニクロの欧州支社や、ライバル会社を率いている"アフリカ系フランス人”を、

ファーストリテイリングやソフトバンクの後継者に指名しても、全く驚きません。
(念のための注:具体的な候補者名が念頭にあっての記載ではありません)


彼らの跡を継げるほどの器の人は、長年“社員”をやってる人の中から、見つかるものじゃないんです。ましてや育てたり、学校で教育して成長してなるようなものでもありません。
もちろん彼らは、転職市場で、仕事を探したりもしていません。経営者をサポートすることが得意な人と、経営に才のある人は違うんです。


“その器の人”は、どこかで今、実際に企業を経営しています。
だからそういう人を探して、その人に会社をあげてしまえばいい。



そしてもうひとつ。
任天堂にしても角川にしても、なによりすばらしいと思うのは、彼らの後継者選びの発想とその大胆さだけではありません。

“そういう器の人”に“そういう器”が与えられること

それ自体が、世の中みんなのためになるってことです。



才のある人は、人類の宝です。
だから彼らには、できるだけ大きな“器”を任せ、集中させたほうがいい。
ソフトバンクもファーストリテイリングも、すばらしい企業です。すばらしい“器”です。
だからぜひ、十分に大きな器の人に託してほしい。


「大きな器の人に、大きな器が任される」
そういう事例がもっともっと増えたらいいなと思います。


そんじゃーね!



<関連過去エントリ>
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ドワンゴの株主総会に行ってきました!


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