東浩紀さんと対談@ゲンロンカフェ

哲学者で作家の東浩紀さんからゲンロンカフェでの対談にお招きいただき、五反田に行ってきました。

(以下、クレジットのない写真はすべて、ちきりん撮影)


対談が午後 7時からだったので、直前になか卯で早めの夕食。ゲンロンの対談は延長されるのが常らしく、この日も 5時間近く話してました。


チケットは 120人分が完売。結果として立ち見の方もあったみたい。長丁場なのに申し訳なかったです。


東さんは今の日本の知識人が、若者や新しいモノを無批判に賞賛する傾向と、「歴史や海外の状況を踏まえて考えれば、そういう結論にはならない」とまっとうな意見を言うと、すぐ「日本に不満があるなら、お前が日本から出ていけばいいだろ」みたいな反論がくることに憤ってらっしゃいました。


(写真提供:ゲンロン)


そういえば、あたしもこの前「日本はおこちゃまの国」って書いたら、「地元の人しかいない小さな浜に行けば問題ない」的な、ズレまくった反論をたくさん受け取りました。

あのエントリで私が沖縄と比べてたのは、モルジブやタヒチの一泊 5万円くらいからのホテルのプールでありビーチなわけで、

沖縄がそういう場所とグローバル中流層(=インバウンド観光を推進したい自治体にとって、最もお金になる層)を取りあうつもりなら、こんなお子ちゃまの国では話にならないよ、と書いたわけなんですが、

「地元の浜に行けばいいのだ」みたいに言ってる人には、私が何を言ってるのか、まったく想像できなかったのでしょう。



なんだけど(ここからがあたしと東さんの違うところなんですが)、あたしは別にそういう反論にたいしても、あんまり頭にこないし、ましてや絶望とか全くしない。

自分が海外のリゾートに行ったことがなくても、大半の人はあの文章を読めば「なるほど」ってわかります。でも中にはごく一部、自分が実際に目にしてないモノは、一切全く想像もできない、という人もいるんです。

そういう人に、「あのね。海外のビーチリゾートに行ったことないと、わかんないもんなんですよ」と、わざわざ言う気にはなれない。誰でもモルジブやタヒチまで行けるわけじゃないし。



(写真提供:ゲンロン)


そういえば、「旭川駅が立派すぎて驚いた」っていうエントリを書いたときも、「こんな悪口を言うためになら北海道に来るな!」みたいな反応があって、これも、東さんに対して「日本を批判するなら、日本を出て行け」って言う人がいるのと同じだなと思いました。

が、これについても「こーゆーワケのわかんないコト言う人とは、一緒に仕事したくないでござる」とは思うけど、そういう人ってどこにでもいて、イチイチ相手にしてられないので無視すればいいだけ。

でも東さんにしてみれば、「これを放っておくと、その先にあるのは一切の批判を許さないファシズム的な世界である」ってことなのかもしれない。



なので今回、東さんの話を聞いて、「確かに知識人はそーじゃないといけないかもね」って思いました。

国の政策だったり在り方だったり、若い人や社会のトレンドだったりに、歴史の事実とか他国の事例もきちんと踏まえた上で、「ほらね、違うでしょ」って言ってくれる人が社会に一定数、存在することは大事だよね。

たとえば私みたいな一般ピープルの場合、自分が若い頃にオヤジから「お前ら若いもんは、なんもわかってない!」みたいに言われて、たしかにそーかもしれないけど超うざかった。だから、自分がオヤジ(おばさん)になった時に、同じ事を言いたくないって思ってる。それは媚びてるとかではなく、「自分がイヤだったことは人にしたくない」っていうだけの話なんだけど、

「知識人はそれではダメなのだ」という東さんの意見はよくわかる。

なので、知識人の人はがんばってください。



(写真提供:ゲンロン)


それらも含め、東さんの話は全体に難しく、あたしにはついて行けない部分も多々ありました。

たとえばクールジャパン絡みの話で、日本のカルチャーは、基本は逆張りなのだ(それがわからず、まるで世界のメジャーカルチャーになれるかのように言うのは間違ってる)っていうのは、私もそう思います。

ちなみに「逆張り」は東さんが使った言葉で、私の理解では、ディズニーやらハリウッド的なグローバルメジャーにたいして、エスニシティを売りにしたニッチで熱狂的なファンをもつ周辺的なポジショニングのエンタメ、って感じかな。結果として、ハリウッドに対するフランス映画が陥ったみたいなポジションね。



そこまではわかるのだけど、私には東さんのいう「キティちゃんとポケモンはグローバルキャラクターになり得るけど、ドラえもんは無理」っていう違いはよくわからなかった。

私の理解が正しければ、東さん的にはアストロボーイ(アトム)やウルトラマンもダメってことなんだと思うけど、あたしは、ドラえもんもウルトラマンも、キティちゃんやポケモンみたいになれるし、ミッキーに勝てるとは言わないけど(あれはもう圧倒的)、その次のポジションには十分にイケルでしょって思ってる。

もしくは、フランス映画的ポジションだって十分に美味しいじゃんと思ってる。だから東さんほどの「クールジャパンで言ってることって、絶対に変だろ」感は持ってない。



(写真提供:ゲンロン)


あと驚いたのは、東さんはすごくお金が欲しいと言ってて、「何に使うんですか?」「いくら欲しいんですか?」って聞いたら、東京に自社ビルが買えるくらい( 10億円くらい)って答えだったこと。

自社ビルが欲しいなんていう人には初めて会ったので驚いたけど、おそらく資産的価値というより、完全に自由になれるスペースが手に入れたいって意味のようでした。

まあ確かに(例はよくないし、ましてやゲンロンがそうだという気は無いけど)山口組もオウムも過激派も、権力(←国家であれ大衆の塊であれ)との対決を考える人はたいてい、土地を含めた所有権を確保しようとするよね。

ちなみに山口組の親ぶんのおうちは、広大な敷地の中に自家発電装置から地下水が汲める井戸、備蓄食料までもってます。権力との籠城対決に備えてのことだろうけど、神戸の大震災の時には井戸を住民に開放し、危機対応力の高さを見せつけました。



ゲンロンカフェのある司ビル。最上階に「有限会社」司商事と、「株式会社」司商事が入ってて、どう使い分けてるのか興味津々。税金対策なのか、それとも一族での財産分離なのかな? これぞ(司さんにとっての)自社ビル!って感じですね。


もうひとつ面白かった話は、日本は年収 400万円から 800万円くらいの人には住みやすいけど、それを超えたあたり(収入 1000万円から 3000万円くらい)の人の存在感がないって話。

その層の人の旅行記も全然なくて、ちきりんの書いてる旅行の話は(例外的に、その層の旅行の話なので)珍しいって。たとえばスリランカの このホテルの話とか。

言われてみれば確かにそうで、この層(収入 1000万円から 3000万円くらい)の人は、ツイッターやブログで旅行や生活の話を書くと、変な人が寄ってきて大変なので、皆そういうことはフェースブックに書くんです。

だから(その、いかにもプチブル的な生活の様子は)、コミュニティの外の人には見えないようになってる。



その上、社会がこの層を無視してるのと同じように、その層も、半身、この国から逃げ出してる。みんな、自分の子供の教育をこの国の制度に任せてないことからも、それはよくわかる。だからどっちもどっちっていうか、お互いに積極的な関わりを持たないようになりつつある。

結果として今の日本は、年収 400万円から 800万円あたりの人たちの主張と、それへの対応に終始する国になっちゃってる。

そういう現状に対して、あたしは「それはそれでいーじゃん。それより上の層の人って、自分のコトは自分でなんとかするんだろうし」くらいに思ってるけど、知識人であり哲学者である東さんが、国としてのそういう状況に危機感を覚えるというのはよく理解できます。



(写真提供:ゲンロン)


全体に東さんは、いろいろ憤っていらっしゃるように思えました。もはやそういう芸なのか、ホントに憤ってるのか、よくわからないレベルで。

そういえば、今回の対談に来られた方の多くはゲンロン友の会の会員(=常連さん)ではなかったらしく、会場からの質問は、移民政策とか英語の必要性とか、かなりプラクティカルな話が多かった。

結局あたしは、そういう実務的な話ならいくらでも答えられるけど、「公共性とは」みたいな話になると全くアタマがついていかず、東さんには申し訳なかったなと思ってます。


4時間も話した後、まだ飲み会があって、津田大介さんもいらしてました。

(写真提供:ゲンロン)


最後はゲンロンカフェの壁に記念のサインもさせていただきました。

(写真提供:ゲンロン)


長かったけど、楽しかったです。

そんじゃーね!



東さんの新刊も旅の本なのですが、あたしの旅の本と読み比べると、哲学者と実務者の視点の違いがよくわかると思います。下記リンクはどちらもキンドル版

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