東京一極集中と地方の衰退は無関係

「東京一極集中」と「地方の衰退」をセットで語る人が多いんだけど、このふたつって何の関係もないよね。

だって東京一極集中の対立概念は地方再生ではなく、2大都市集中、もしくは、複数大都市への集中なんだから。
ほら↓

<先進国>
・フランス=パリ一極集中
・イギリス=ロンドン一極集中
・日本=東京一極集中


vs.


・アメリカ=ニューヨーク,ボストン、ワシントンDC,シカゴ、サンフランシスコなど複数大都市集中
・ドイツ=ベルリン、ハンブルグ、ミュンヘン、ケルン、フランクフルトAMなど、複数大都市集中
・カナダやオーストラリアもこちらのタイプ

<中進国>
・韓国=ソウル一極集中
・タイ=バンコク一極集中
・フィリピン=マニラ一極集中


vs.


・中国=北京、上海、広州、深セン、武漢、天津など複数大都市集中
・インド=デリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイ、バンガロールなど、複数大都市集中


・ベトナム=ハノイとホーチミンの 2大都市集中
・ブラジル=サンパウロとリオデジャネイロの 2大都市集中

こうやって例を見ればスグにわかるでしょ?

先進国にも中進国にも一極集中タイプの国と、複数都市に人口や経済力が分散してる国があって、後者は数都市への集中型と、二大都市型に分かれてるんです。

<都市分散タイプ>
1.一極集中型
2.二大都市型
3.複数都市への集中型


特定の国の姿がどのタイプになるかは、
・国土の大きさ
・歴史的な経緯
・国内交通機関の発達の度合い

などによって決まりますが、首都移転を実施することで一極集中から 2大都市型に移行させるなど、人為的に変更することも可能です。


日本でも大阪の橋下徹氏は、「東京一極集中はダメ」「大阪は東京と肩を並べられる 2大都市を目指すべきだ」と主張しており、

大阪での住民投票では、結果こそ「大阪は今のまま変わりたくないので、東京一極集中のままでいいです」ということでしたが、

得票数はかなり拮抗していたので、「東京と大阪の 2大都市型を目指したい」という人も、大阪にはかなり多いはず。


また道州制が実現すれば、福岡や名古屋などが東京・大阪に並ぶ都市へと発展し、複数都市型の国への道も開けます。

道州制が是か否かという議論は、「東京一極集中は是か非か」という議論と同じなんです。

なのに「東京一極集中に反対 + 道州制にも反対」の人がいたりするので困惑します。そういう人って、課題の全体図が見えていません。(もしくは“なんでも反対”の人です)


みなさんは、
・東京一極集中が好ましいと思ってますか?
・東京大阪の 2大都市スタイルを目指すべきという意見?
・東京大阪だけでなく、福岡や名古屋など複数大都市型を目指すべきと考えてる?


私は東京一極集中より、道州制による複数都市型(アメリカ、ドイツ、中国型)のほうがよいと思っていますが、

他都市にその気がないなら(=その地に住む人が変化が嫌いで今のままがいいというなら、)東京一極集中のままでも仕方ないとは思います。

自分が住むエリアを東京と並ぶ都市にしたいかどうかは、その地に住む人が決めることなので。


いずれにせよ!

限界都市だの消滅都市だのといった地方の衰退問題と、東京一極集中は完全な別課題です。


★★★


では次に、地方の衰退(地方の再生)問題について考えてみましょう。

まず理解すべきは、「都市と人のマッチング市場」が複数存在するということです。

具体的には、次の 3市場ですね。

1)多彩な文化が高度に集積する高刺激で高密度な大都市に住みたい人と、そういった都市である大都市のマッチング市場


2)過度な刺激や過密さがなく、生活に不便もない地方中堅都市に住みたい人と、そういった地方中堅都市のマッチング市場


3)自然豊かな環境に住みたい人と、そういった少人口地域のマッチング市場

※「同一分野の複数市場」「市場の選択」という概念については、『 マーケット感覚を身につけよう 』をご覧ください。


1)の市場にいるのは私のような人です。地方のイオンモールがいくら巨大でも、全く満足できない人。こういう「人」はたくさんいます。

ところが(人側はたくさんいるのに)、この市場の都市側には、東京しか存在していません。だから東京一極集中が起こっているんです。


したがって、福岡や名古屋や大阪など、他の大都市が本気でこの市場に参入し、今以上に拡大・発展して、東京と肩を並べるようになったら、東京一極集中は緩和されます。

アメリカなら1のタイプの人でも、ニューヨークに住みたい人、サンフランシスコに住みたい人、ボストンに住みたい人、と分かれているように。


んが、そうなった時には地方は再生するどころか、さらに衰退が進みます。

なぜなら、福岡や名古屋や大阪が東京と競える規模になる過程で、今以上にそれぞれの周辺都市から人を集積させてしまう(=奪ってしまう)からです。

結果として、「(大阪名古屋福岡など)地方の大都市の興隆 → 東京一極集中の是正 → それ以外の地方のさらなる衰退」という、期待とは真逆のことが起こるでしょう。



2)の市場は、人口が数十万人以上の中堅都市と、
・通勤ラッシュも激混みもない
・大都市にあるチェーン店はほぼすべて存在してる
・それなりのレベルの教育機関や、ちょっとした文化施設もある
・2000万円もだせば家族で暮らせる十分な家が買える
・そこそこの賑わいと、昔からの友達や家族が近くにいるという安心感の両方が手に入る
みたいなエリアに住みたい人が、マッチングされる市場です。


この市場は、人も多いし都市も多い、競争の激しい市場です。

そして近年この市場では、勝ち組と負け組がはっきりし始めています。


周辺の人口数万人の街や、山沿いの集落から高齢者がどんどん移り住み(多くの場合、一戸建てを売って駅前のマンションを買う形で転居)、

それらの人を目当てに、駅前に新たな商業施設、病院、コミュニティ拠点などが増え始めている街、

もしくは、

子育て支援策を充実させ、周辺の街から若い夫婦の転居が相次いでいる街、などが出現し始めているからです。

そういった街では、ひととき進んでいた「郊外型のショッピングセンターに車で通う」スタイルから、駅前で歩いて回れるコンパクトシティへの変化、いわゆる“駅前回帰”も起こっています。


この市場にいる都市は、私のような「とにかく大都市に住みたい!」人を東京と取り合っているわけではなく、

「便利だけど混乱も混雑もない快適な地方都市」に住みたい人を、周辺の街や山間部と取り合って、(結果として勝つことにより)地方の再生を成し遂げつつあります。


しかも、今は福岡も名古屋も大阪も、1)の市場ではなく、この2)の市場にいるため、彼らはこの市場での「一人勝ち」「一極集中」という美味しい立場を享受しています。

周辺地域で自然減を遙かに上回るペースで人口が流出しているのは、それらの勝ち組都市への一極集中のためです。

北海道だって、周辺部の過疎化が急速に進んでいるのは東京一極集中のせいではなく、札幌一極集中の影響でしょ。

さらにいえば、政府の掲げる「コンパクトシティ構想」とは、こういう地方における勝ち組的な街を、積極的に造っていこうという政策なんです。



最後に3)の市場は、すぐ近くに海や山など大自然が拡がっているエリアで暮らしたい!という人と、そういうエリアがマッチングされる市場です。

よく(都会から企業や若者が集まって活気が戻ってきたと)報道されてる徳島県の神山町や島根県の海士町は、この市場に属しています。


神山町や海士町に集まる若者が、東京や関西の大都市圏から来ていることも多いため、これらの街が1)の市場で東京と比較され、選ばれていると考える人もいますが、そうではありません。

1)の市場にいる人は、こういう街に遊びにいったり取材に行ったりはしますが、移住して、そこで子どもを産み育てたりはしないんです。


そういうことをする人は、もともと3)の市場の人(なんだけど、たまたま東京に生まれたり、たまたま京都で大学に行ったりした人)なのであって、

最初から猥雑で刺激の強い大都会より、「自然豊かな環境で暮らしたい、子どもを自然の中で育てたい、海士町は面白そうだな。神山町もいいかな」みたいに考えてる人なんです。


つまり、
・海士町vs東京
・神山町vs東京
で、人を取り合っているのではなく、


・海士町vs神山町vs他の(日本にいっぱいある)大自然のある過疎地
が、そういう人たち=大自然の中で暮らしたい人たち、を取り合ってるわけで、東京はなんの関係もないんです。


さらに言えば、ここ何年もの間、神山町と海士町以外「都市部から若者を集めている」とされる目立った成功事例が出てこないのは、

この3)の市場自体がたいして大きくもなく、かつ、規模として成長もしていない中、

ごく少数の町だけが「一人勝ち」し、「一極集中」を成し遂げていることを示しています。


市場規模が小さいままなのは、地方にマーケット感覚のある仕掛け人が少ないからなので、上手くやればもう少し大きな市場になるとは思います。

とはいえ、後いくつかの成功例が出てきても、東京一極集中の是正とはなんの関係もありません。

そもそも東京とは、取り合っている「人」のタイプが違うんですから。

もし今後、海士町以外に「都会から若い人を集めるのに成功する離島」がでてきたら、その離島のライバルは、海士町なのであって、東京ではないんです。


★★★


ここまでで、1)2)3)は異なる市場だと、おわかりいただけたでしょうか?

そして、成功している地域は東京に勝って成功しているのではなく、それぞれの市場における競争に勝って、近隣エリアでの一極集中を成し遂げることで、衰退を脱しているのだってこともね。


地方都市が衰退したくないと本気で思うなら、「東京への一極集中、よくないあるよ!」と唱えるばかりではなく、

・自分たちはどんな市場にいて、
・その市場にいる顧客はどんな価値を求めており、
・同じような価値を提供している競合はどの街なのか、

ということを、もっと現実的に考えるべきです。


衰退を続ける地方のライバルは、東京なんかじゃありません。

よく考えてみてください。

もし予算が無制限にあったとしても、いったい何を作れば(すれば)、衰退しつつあるその街が東京と競争できると思ってるんですか?

違う市場にいる都市との競争は成り立たない・・・それを理解するマーケット感覚が欠けていては、最初の一歩から躓いてしまいます。


藁にもすがりたい地方の人は「東京にはものすごい数の人がいるんだから、頑張ればその一部は我が街にきてくれるんじゃないか」と考えるのかもしれません。

それは私が「 AKB にはものすごい数のファンがいるんだから、頑張ればその一部はちきりんのファンになってくれるんじゃないか」と考えるようなものです。

そう聞いたら、誰でも「ありえん」ってわかるはず。どんだけ人が多くても、まったく違う市場にいる人との競争なんて成り立たないんです。


ちなみに1の市場では今、国際的な都市間競争が始まっており、今後は東京も彼ら(=東京を東京たらしめている1の人達を)を海外都市に取られないよう、頑張る必要があります。

東京にはもはや、日本の地方と競争しているヒマなど無いのです。


「自分は市場というものが、まだよくわかってないかも」と思われる方にこそ読んでほしい一冊


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<御礼>
2015/12/8 本書は、ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶ 今年のベスト経営書 2015 の 9位 に選ばれました。ありがとうございます。


[
そんじゃーね


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