ラオスの歴史と政治について

先日に引き続き、ラオス旅行のガイド、Tさんとの会話です。

今日は国立博物館でラオスの歴史について説明を受けたので、それに関連する話から。

ラオスの歴史、知らない人も多いと思うので簡単にまとめておくと↓こんな感じ。

  • 1353年 ラーンサーン王国が成立
  • 1713年頃 ラーンサーン王国が3つの王国に分裂
  • 1893年 フランスが植民地化
  • 1945年 日本軍が一時期だけ傀儡化しようとするが、日本の敗戦後すぐフランスが再植民地化
  • 1953年 ラオス王国としてフランスから独立するも、ベトナム戦争が始まるとラオス王国はアメリカの傀儡政権と化し、少数民族も含めベトコン(ベトナム共産軍)との戦いにかり出された上、全土に米軍のクラスター爆弾が投下されるなど焦土化。
  • 1975年 ラオス王国を倒し、社会主義国のラオス人民民主共和国が成立
  • 1986年 政治体制は社会主義のまま、資本主義経済を採用するラオス式社会主義へ
  • 1997年 ASEANに加入し、グローバル経済の一員へ



(打ち落とされた米軍機)


ちきりん 「ベトナム戦争ってベトナムだけじゃなく、ラオスも主戦場だったってこと、あまり知られていないかも」

Tさん 「ラオスは東西両陣営にとって重要な位置にありました。北の中国と東のベトナムが共産国化し、西のタイは資本主義のまま。ラオスはその中間にあったので、

ホーチミンは「ラオスを共産化しないと、すぐ近くまで米軍に迫られてしまう」と怖れたし、アメリカはラオスの共産化だけは食い止めないと、インドシナ全体が共産化すると怖れたのです。

北のホーチミンが南ベトナムでの戦いを支援するために使ったホーチミンルートという補給路が有名ですが、あの道の大部分はラオス国内のルートで、アメリカはこの道にそって大量のクラスター爆弾を落とし、今でも多くの不発弾が残っています」



ちきりん 「でもラオスって、フランスの植民地時代のほうが長いのに、なぜ今でもドルが街で使われているの?」

Tさん 「ベトナム戦争の頃、共産陣営は組織的に大量の偽ドルを作りました。彼らは本物の米ドルをコピーして同じナンバーのお札を作ったのですが、本物か偽物か、自分たちには見分けられるよう、最後の数字だけ少し傾けて印刷したそうです。
これらの偽札は両替やお釣りを通して、アメリカ人が使う本物のドル札と混ざり始めます。
ベトナム戦争中はもちろん、戦争が終わった後もそのまま米ドルを流通させておけば、それら偽物のドル札を、海外からの観光客やビジネス客が使う本物のドル札と、自然な形で交換することができたんです」

ちきりん 「つまり、大量に流通している偽ドルを「ツーリズム・ロンダリング」するために、街では現地通貨とドルの両方が使えるようにしてたわけね? ラオスだけじゃなく、ベトナムやカンボジア、あとタイとかも長く米ドルがそのまま使えてたのはそーゆーわけだったのかぁ!」

Tさん 「そうです。でも今はベトナムでも、ドルそのままの流通は制限されているし、ラオスでも政府は「原則としてラオスの通貨を使うように」と呼びかけ始めています。もはや偽ドル札を国全体でロンダリングするような時代ではありません」



ちきりん (博物館の兵士の写真を見ながら)「女性の将校もいたんですね」

Tさん「ベトナム戦争に伴う内戦ではあまりにもたくさんの人が戦死したので、男性だけでは兵隊が足りませんでした。村に敵が来れば、女性も武器を持って戦わざるを得なかったのです。

その後、社会主義国になると、今度は国が貧しいため、女性も働くようになります。ラオス社会における男女の役割差が少ないのは、女性を気遣って家においておくというスタイルでは、戦争、そして、社会主義経済下での困窮の時代の経済が回らなかったからです。



ちきりん 「フランスの植民地時代、そして、アメリカの傀儡政権となったラオス王国の後、ラオスは社会主義国として独立したわけだけど、あのタイミングで社会主義になる必要性はあったと思う?」

Tさん 「あったと思います。当時のラオス王国の政権は、まったく国民の幸せを考えていませんでした。

彼らだってラオス人なのに、自分がアメリカからいくらお金をもらえるか、どうすれば自分がアメリカに守ってもらえるか、それしか考えていませんでした。そして喜んでアメリカの傀儡政権となった。

彼らの行動があまりに酷かったから、その政権を倒して社会主義・共産主義を目指そうとするグループを、国民は支持しました。

今は資本主義のほうがいいと思うけど、あのタイミングで一度、社会主義になることは、ラオスの近代化のために不可欠だったと思います」



ちきりん 「このラオスの旗の意味は?」

Tさん 「真ん中の青い線は、メコン河を示しており、両側の土地は赤い血で染められたラオスの国土だと言われています。ラオス人同士(社会主義側とアメリカ側に分かれて)殺し合って、その地で赤く染まっていると。白い丸は、メコン河に映る満月です」

ちきりん 「仏教では満月が大事なんだよね?」

Tさん 「満月の日はお釈迦様が出家した日で、敬虔な仏教国のラオスでは、都会の若い人でも満月の日だけはお寺にお参りに行くほどです。それは希望の日であり、祈りの日でもあります」

ちきりん 「若い人も定期的にお寺にくるんだ」

Tさん 「ラオスのカップルにとって、お寺は定番のデートコースなんですよ。特に満月の日に一緒にお寺に行くのは、大事なイベントです」

ちきりん 「なんで?」

Tさん 「ラオスの人は輪廻を信じているので、ふたりでお寺に行き、生まれ変わっても一緒になろうねと誓うんです」



ちきりん 「今のラオスの産業は?」
Tさん 「ラオスが外貨を稼げるのは、コーヒー、電気、木材ですね。特にメコン河はダムを造れば電気がおこせる。作った電気はタイに売っており、ラオスは周辺国から「バッテリーの国」と呼ばれていいます」

ちきりん 博物館にあるダム建設中の日本工営の写真を見ながら、「日本はダム造りの支援をしてるんですね?」

Tさん 「ダムの他、空港も道路も日本が援助して作られています。だから一般のラオス人は、日本にとても感謝しています。
でも、軍や警察、政府には中国からの援助がたくさん入っているんです。戦車や武器、軍事支援などを含め、中国の支援なしにラオスの政府、警察、軍は成り立ちません。

政治は人民革命党の一党独裁による社会主義で、民間経済は資本主義というラオスの体制と、政府分野は中国からの支援、民間分野は日本からの支援という棲み分けはきれいに相応しています」



4日前ここに来るまで、ラオスのこと全く知らなかったんですけど、めっちゃ詳しくなってきた!



そんじゃーねー。


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