このエントリは連載モノです。
今回は私からの Mさんへの質問と、彼女からの回答の形で掲載します。
ちきりん「司法試験の不合格、離婚、そして体調不良というドン底を、どうやって抜け出したんですか?」
落ち込むところまで落ち込んでたとき、学生時代の友人らが次々と声を掛けてくれたんです。
中には具体的な仕事の紹介をしてくれたり、「住むところがないなら、自分の管理物件で空いてる部屋があるから紹介するよ」と言ってくれる不動産業界の友達もいたり。
あとで聞いたところ、みんなの間で「あいつ、かなりヤバイらしい!」って話になって、心配して声を掛けてくれたみたいです。
これには本当に救われました。
というのも、当時は試験の失敗や離婚もあって、期待を裏切ってしまった親には頼りにくいタイミングだったんです。
だから友達から積極的に手を差し伸べられて、私のほうも初めて「人に頼っていいんだ」「自分の力だけでやってかなくてもいいんだ」って気が付きました。
今後もし自分のまわりに大変な状況の友達が出てきたら、私もぜひ積極的に手を差し伸べたいです。
ソーシャルキャピタルっていうのかな? みんなそうやって生きていくってことなんですよね。
ひとりで頑張らなくてもいいんだって理解できたのは、大きな収穫でした。
ちきりん「今はどうやって暮らしてるんですか? 仕事とか」
娘の小学校入学を機に、実家の近くに引っ越しました。
仕事は、小さな不動産会社で働き始めています。娘を産んでロースクールを休んでいた 1年の間に、宅地取引主任者の資格をとっていたんで。
仕事は賃貸物件の管理やリフォームの管理などですね。
ちきりん「法曹界からはずいぶん離れてる仕事ですよね?」
私も最初はそう思いました。
でも、やってみると不動産取引って法律の知識も必要だし、税金や登記、建築許可など役所とのやりとりも多い。だから法律を勉強したことは、実はすごく役立っています。
一方リフォームの際には電気工事とか水回りの工事とか、自分よりずっと年上の職人さんにあれこれ依頼をしながらスケジュールや施工管理をすることもあります。
でも自分でも意外だったんですが、私はそういう仕事も得意みたいです。けっこう楽しいですし。
ちきりん 司法試験の受験制限が 3回ではなく 5回だったら、あと 2年、受け続けたと思いますか?
その可能性は否定できません。
最後の年には、一緒に勉強をしていた友人の多くが合格しましたから、チャンスがあれば「来年は私も」と思ったかもしれない。
でもその一方、もし最初から無制限に何回でも受けられるという制度だったら、私は 2回目に択一で落ちたとき、受験を止めていた可能性もあるんです。
あのとき「択一で落ちるようでは全くお話にならない」と自分でも思いました。
でも「どうせチャンスはあと 1回。だったらあと一回だけ頑張ってみよう」と思って勉強を続けたんです。
「 3回までしか受けられない」と言われると、「 3回までは頑張るべき」みたいに思い込んでしまうんですよね。
★★★ 第三話はここまで ★★★
「受験の上限回数」の話は示唆に富んでいますね。
志望者の受験回数や応募可能年齢に上限を設ける試験は他にも存在します。
どれも「可能性が極めて小さいにも関わらず試験を受けつづけ、人生の時間を棒に振る人を少なくする」のが、その趣旨だと思います。
でもその一方、受験回数や年齢の上限があると、多くの人が「とりあえずその年齢までは」「とりあえずその回数までは」頑張ってしまいます。
受験回数や年齢に制限がなければ、Mさんのように「もっと早く決断できたかも」という人もいるでしょう。
もちろん制限がないと、昔の司法試験のように、10年、20年と受け続ける人もでてくるんでしょうが。
いろんな考えがあると思いますが、私は「制限無しのほうがいいのでは?」と思っています。
なぜなら制限がなければ、みんな「いつまで受けるか」について、それぞれ自分で考える必要があるから。
そしてそれを自分で考え、自分で決めることこそが、「いい人生」のためには必要だから。
しっかり考え、悩み、あがいた上で、その試験に自分の人生のすべてを懸けたのなら、それはそれでその人なりの「いい人生」なんじゃないかと思います。
今でも司法試験には 回数(年数)制限がありますが、こういう制度下で「 1回受けてダメだったから止める」人は、かなりスゴイ。
ロースクールではなく学部生で、特段の投資をせずに受けた場合なら「 1回受けてダメなら諦める」(=事実上の記念受験)も可能です。
でも、社会人で「ロースクールに 3年通った後、1回だけ受けて止める」って、ものすごい難しい決断ですよね。
ロースクールに通ってた間、働いていれば稼げたはずの給与を含めれば、ゆうに 1000万円を超える投資と、数年間にわたる勉強漬けの日々。
それを 1回受けただけで「なかったことにしよう」と思える人なら、経営者としても投資家としても大成功できることでしょう。
それくらい「人生の損切り」は難しいのです。
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