このエントリは連載ものです。
前回も書いたように、日本の難民認定数、そしてその認定率は、他の先進国と比べあまりに少なく低いんです。
「なんで日本だけこんなに認定率が低いのよ?」ってことで調べてみたのが、法務省が出してる「難民認定の事例集」です。
(この資料も含め、難民に関する基本的なデータは、このページの一番下 にPDFリンクがまとまってます)
この事例集には、難民として認定された例が 7人分、認定されなかった例として 37人分(人道配慮により一時的な在留許可の出た 12人を含む)が載ってます。
その 37人が認定されなかった理由を見てみたところ・・・
1.迫害主体が本国政府ではなく、過激派の場合は難民とは認められない
37人のうち、なんと 10人もの人がこの種の理由で認定拒否されてるんですが、これって意味わかります? なんで過激派に迫害されて逃げてきても難民に該当しないの?
・・・実は日本の難民認定基準では、監禁されたり拷問を受けたり、家を爆撃されたり家族が脅迫されても、迫害主体が「本国政府」じゃないと難民として認定されないんです。
わかりやすく言えば、シリアにおいてアサド政権に迫害されてる人は条件を満たすけど、IS や反アサド勢力に迫害されてる人は難民としては認められないってことです。
もちろんシーア派の人がスンニ派の人に迫害されてもダメです。それは「政府による迫害」じゃないから。
少数民族が、対立する他の少数民族から迫害されるのもダメ。
異なるカーストの人たちから迫害されるのも、もちろんダメ。
イスラムの人がヒンドゥの人に迫害されるのも認められません。
だって迫害主体が政府じゃないもーん!
知ってました? こんな基準・・・
合理的だと思います? こんな基準・・・
2.話が信憑性に欠ける
これも多かったですね。
「申請者の供述には・・・看過しがたい変遷や齟齬が認められる」というパターン。
これを見て思ったのは、「筋道立てて説得力のある話し方ができないと認定されないんだな」ってこと。
命からがら逃げてきた外国で、すべての証拠を揃えて日本語に訳し、その資料と齟齬のないようきちんと論理立てて話す。
そういうことができないとダメなんです。
最初は「これを言ったらやばいんじゃないか」みたいなことがあって言い出せず、途中で「やっぱ言うべきだ!」と思って言い出したりしたら、「話に看過しがたい変遷が認められる」とか言われちゃうわけです。
みなさん、論理的な話し方を身に付けるために、コレでも読んどいたほうがいいですよ。
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他にも、「申請者は独立活動組織の広報責任者として活動していたというが、広報責任者として当然承知しているはずの事項について客観的情報と異なる」といった不認定理由も複数ありました。
でもね。
日本の担当官って、内戦が続く国の反政府活動グループの広報担当者が「当然知ってるべきこと」とは何なのか、どうやって判断してるんでしょう?
まーさか、日本の企業の広報部をイメージして「広報ならこれくらいのコトは知ってるべき」とか、考えてるわけじゃないでしょうね??
申請者の言うことが「客観的な情報と異なる」って書いてある事例もすごく多いんだけど、アフリカや中東の紛争に関する「客観的な情報」を審査官は、いったいどこから得ているの?
まーさか NHK のニュースとかからじゃないでしょうね?
てか、そもそも判定を担当してる人たち、途上国や紛争国に行ったことくらいはあるんですかね?
過激派や政府軍や反政府軍がぐちゃぐちゃに入り交じって交戦してるめちゃくちゃな国が、いったいどういう状況に置かれているか、理解してるのかな?
申請者の話に信憑性が感じられるかどーかって、審査官がどれくらい「内戦に陥ってる国の状況」をリアルに想像できてるかにも大きく左右されてそうだなーと思いました。
3.内戦から逃げてきても難民とは認められない
3つめに多かったのがこの理由。
法務省の文章をそのままコピペすると、こんな感じです。
↓
“内戦に巻き込まれる等の主張は、申請者の政治的・宗教的な属性や行動に端を発するものではなく、申請者に関わる個別具体的な迫害事情はない”
つまーり、「国が内戦でぐちゃぐちゃになってるから逃げ出してきた!」では難民とは認められないんです。
本人がなんらか政治的な主張をし、それを理由として本国政府から迫害されないとダメなの。
内戦の場合、自分はなんの政治的な主張をしてなくても、爆弾が落ちてきたり銃撃戦に巻き込まれたりするでしょ。だから、内戦から逃げてきても難民とは認められないんです。
・・・どう、この基準? 合理的??
この理由で、「あんた難民じゃないので、国に戻るよーに!」て言うのが正当な判断??
実は日本でも 60人あまりのシリア人が難民申請をしてるのですが、過去 5年で認定されたのはたったの 6人。
国全体が内戦状態のシリア人でさえそんなに認定率が低いなんてどーゆーこと?
と不思議だったんですけど、確かにこんな基準では、シリア人でも簡単には難民認定されませんよね。
4.メンバーとして反政府活動の会合やデモに参加した程度では難民として認められない
これは反政府活動をしてる人のうち、リーダーなど主要なメンバーじゃなければ難民として認めない、ってことらしい。
・・・ 10万人が参加した反政府デモがあったとして、この基準で難民として認められるリーダーって何人くらいなんでしょう?
ちなみに弾圧する側は、普通、目立つリーダーを殺したりはしません。
たとえば長く軍事政権が続いたミャンマーでも、アウンサンスーチー女史は軟禁されても命は奪われない。
だから、もしそういうレベルのリーダー以外は難民として認めないと言うのなら、ものすごく狭い範囲の活動家しか難民とは認められない。
ちなみに戦前の日本だって、公安警察は共産主義者や戦争反対論者を片っ端から捕まえて投獄し、拷問して殺しちゃってます。
でも、拷問で命を落とした彼らの多くだって、歴史に名を残すこともない“一般メンバー”でした。
そういう人が逃げてきても「リーダーじゃないから保護する必要はない」ってこと?
★★★
もちろん事例集の中には、単にお金を稼ぎに来ただけ、みたいな「明らかに難民性が低い」人も含まれていました。
でも、そういう人は他の先進国でも難民とは認められないので、日本と他国の認定率の違いは、おそらく上記の 4つあたりにあるんじゃないでしょうか。
1.迫害主体が政府ではなく過激派や対立宗派だとダメ
2.日本人の審査官が信じられる話をしないとダメ
3.内戦から逃げてきただけじゃダメ
4.リーダー以外は身に危険が及ぶとは言えないからダメ
このブログを読んでいるみなさんが、難民の積極的な受け入れに反対でも賛成でもいいです。
でもね、「自分の国は、こういう基準で難民認定をしているのだ」ってことくらいは、知っておいたほうがいい。
これが“おもてなし”の国、日本の難民保護の基準なんです。
ん?
そうか、おもてなしは「お金を払ってくれる観光客」だけに適用するってのが当たり前なんだっけ。
お金も払わない人に「おもてなし」なんてする必要ないってこと?
※ 次回に続きます。